第八十譚 ゴルモーコール
本選に残った選手たちには、各一組に控室が用意されている。
一号室から八号室まで用意され、俺とシャッティは一号室で体を休めていた。
先程の試合、どうにも不気味な試合だった。
パプリアとピアヌスの豹変ぶりもそうだし、途中に一瞬だけ感じた禍々しい気配。
なんとなくだが、あれはきっとこの世界のものじゃない。なぜだかそう感じたんだ。
今まで戦ってきた魔物の中で、あれほど禍々しい気を放つ奴なんか見た事がない。
あの魔王よりも遥かに上をいく禍々しさ。
一体何だったのだろうか。
「アルっち! 次の試合が始まるよ!」
「……ああ、今行くよ」
もしかしたらあれが聖王なのか……?
いや、そんな訳ないか。こんな大衆の前に出向くような奴とは考えられないしな。
とにかく、今は次の準決勝の事を考えよう。
この大会に優勝しなきゃ先には進めないんだから。
俺は疑念を押し殺し、壁に映る映像に注目した。
□■□■□
『一回戦第二試合! 『ゴルモー&デナテッサ』ペア対『デルロイ&デバグロゥサ』ペアの試合は白熱した展開が続いております!!』
第二試合が開始して数十分。
どちらのペアも互いに引かない面白い試合が続いていた。
前大会の覇者で、グループCの一位通過であるデルロイとデバグロゥサに対するは、前大会では予選落ちしているゴルモーとデナテッサ。
グループCでの試合を見ていたデルロイたちの実力は知っているが、一瞬で終わってしまったグループBの試合は見ていなかったので、ゴルモーたちの実力はわからなかった。
だが、この試合を見ていると前大会で予選落ちしてる事に疑問を感じるほどに実力は高かった。
ペア間での連携を大事にするデルロイたちに対し、ゴルモーたちは個々での戦いに徹底している。
きっとデルロイたちの戦い方を見て分析してきたのだろう。あれほど連携が決まっていたデルロイたちが、試合開始から数十分の間に二度しか連携攻撃を繰り出せていない。
「本当に予選落ちしたのか? あのゴルモーとデナテッサって奴らは」
「うん、それほど尖った人がいなかったグループで予選落ちしてたよ」
「一年でここまでになるのか……。まあ、前回見てないからどれほど強くなったかわかんないんだけど」
今まで連携に頼ってきた分、デルロイたちは個々の戦いでは実力を発揮できない。
その点、ゴルモーたちのほうが個々の戦いに慣れているように見える。
でも、デルロイたちが連携を決められれば勝機はあるし、ゴルモーたちもこのまま二人に連携させないよう位置取りを気にしながら戦えば勝てるだろう。
この勝負、まだわからないぞ。
『おっと!? ここでデルロイ選手が端に追い詰められてしましました!! このままゴルモー選手は勝利へ近づくことが出来るのでしょうか!?』
デルロイは肩で息をしながら短剣を構える。
それに一歩ずつ近づくのが、ゴルモーだ。
「この二人のどっちが倒れるかで勝負は決まるね……」
シャッティの意見に、俺は頷きながら「ああ」と同意した。
「この一瞬は見逃せないぞ」
「うん……」
次の瞬間、デルロイの口角が上がる。
それに気づいたのか、ゴルモーが後ろを振り返った。
映像に映ったのは、デルロイとゴルモー、そしてデナテッサとデバグロゥサの位置が直線で重なる瞬間だった。
デバグロゥサがデナテッサではなく、直線上に位置するゴルモー目掛けて燃える弾丸を撃つ。
その弾丸はゴルモーの左腿を貫いた。
『これは!! 何という事でしょうか、いつの間にか直線上に二組が!! これもデルロイ選手たちの作戦なのか!?』
ゴルモーはそのまま前のめりで倒れていく。
だが、彼はまだ諦めていないらしい。
『デナテッサァ!! 後は頼みます!!』
ゴルモーの叫び声が映像を通して聞こえてくる。
倒れていく体を撃たれていない右足で支え、最後の力を振り絞ってデルロイに突っ込んでいく。
デルロイは突っ込んでくるゴルモーを避けきれず、共に場外へ落ちて行った。
この行動には流石に観客も黙っていられず、凄まじい程の歓声が響いた。
そして、その行動を予想できていなかったデバグロゥサは唖然としながら、デナテッサの手で場外に落とされた。
『試合終了ーッ!! なんとなんと! ゴルモー選手のナイスガッツが勝負を決めました! この会場のゴルモーコールに流石の私も乗ってしまいます! ゴルモー! ゴルモー!!』
闘技場内に響き渡るゴルモーコールに、本人は顔を赤くしながらスタッフに運ばれていった。
ペアのデナテッサは、ゴルモーの人気に嫉妬したのか悔しそうに追いかけて行った。
「準決勝の相手はゴルモーたちだね! 頑張ろうアルっち!」
「結構戦いづらい相手だな……」
きっとゴルモーたちは相手の戦い方を分析して勝ちに来るタイプだ。
それでいて根性もあるから油断できない試合になるだろうな。
「準決勝は俺たちの戦い方を変えてみるか?」
「えっ! それいいね! やろうやろう!」
三試合目が始まるまでの間、俺たちは新たな戦術を編み出そうと作戦を練り始めた。
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