第七十九譚 不気味な魔法
『パプリア選手にピアヌス選手! 強化魔法の一種……なのでしょうか!? 一体どんな魔法を使ったのか!?』
「オマエはイラナイ! 母がツクル世界に、貴様のような人間はイラナイ!」
パプリアが血相を変えて俺に向かってくる。
先程までとはまるで別人のようで、目は血走り焦点は合っておらず、ドス黒い血管のような物が浮き上がっているのが見える。
「シャッティ! 罠仕掛けられるか!?」
「うん、任せて!」
俺は闘技場全体に幻術魔法をかける。
予選でも使った――シャッティと罠を消すアレだ。
様子がおかしくなったこいつらが何をしだすかわからない以上、早く試合を終わらせるのが得策だ。
「イラナイ、イラナイッ!」
「黙って攻撃できないのかお前は……ッ!」
武器も持たずに向かってきたパプリア。
拳を握り、俺目がけて殴りかかってくるパプリアの攻撃をするりするりと軽くかわしていく。
「隙がありすぎるんだよ!」
俺はパプリアの連撃を避けて下に潜り込むと、そのまま思い切り長剣の柄で顎を突き上げた。
鈍い音と共にパプリアは後方へ吹っ飛ぶ。
『おーッと!! ここでアルヴェリオ選手の強烈な突き上げ攻撃が炸裂ー!! これには流石のパプリア選手もノックダウン!!』
これであと一人。
残りは何もせずにボーっと突っ立ってるピアヌスだけだ。
『……いや! 待ってください!! パプリア選手、立ち上がります!! な……!? なんですか……あの起き上がり方……!?』
実況者の言葉に、俺は素早く振り返る。
骨が折れるような酷く鈍い音を上げ続けながら、足からぬるりと蛇のように起き上がるパプリア。
まるで体の構造を無視して動いているように見えた。
「キ、キヒヒ……! イラナイ、オマエはイラナイ……!」
俺はその光景に一瞬だけ立ち竦む。
人間を相手にしているのに、まるで別の生命を相手にしているような感覚にみまわれる。
「……一体何なんだよお前らは……!」
一歩、また一歩とゆっくり近づいてくるパプリアを見ながら、後ろにいるピアヌスも警戒する。
ピアヌスは本当に動く気配がない。どこか虚ろで、観客の方をずっと見ている。
問題はパプリアだ。
こいつが使った魔法、あれは普通じゃない。
あんな魔法は一度だって見た事がない。
見ている限りでは強化魔法の一種にも考えられるけど、強化というよりも改造に近いか?
あんな人間の構造を無視した動きをする強化魔法なんてあるはずがない。
これ以上は術者が危ない。
あんなのをあと数分続けたら確実に体が壊れる。最悪、死に至るかもしれない。
なら、やるべきことはただ一つ。
強化魔法の解除だ。
強化魔法というのは、術者の魔力が切れるか意識を失う、または死亡することで効果が切れる。
このうち、死亡するという選択肢は省かれるが、術者の魔力が切れるのを待つという案も却下だ。
そこまで待っていたらパプリアとピアヌスは死ぬだろう。
だから、意識を失わせる。これがベストの作戦だ。
ただ、どうやって意識を失わせるかが問題だな。
多分眠らせるのも有効だと思うんだけど、そんな魔法は覚えていない。
何度も攻撃し続けるしかないのか……。
「アルっち。準備できたよ」
俺の後ろでシャッティが囁く。
「……ありがとう。実はもう一つ頼みたい事があるんだけどさ……」
「うん? いいよ?」
「相手の意識を奪う罠とか持ってたりしない?」
「えっと……それは眠らせる罠でも大丈夫?」
「……最高だよ」
俺はシャッティに作戦を伝え始めた。
□■□■□
「再びサイヤクを……! キヒヒ!」
「本当に不気味すぎるんだよ……」
ゆっくりと近づいてくるパプリアに追い詰められ、俺は舞台の端に立っていた。
『一体どうしたのでしょうか!? アルヴェリオ選手が早くも諦め状態! シャール選手も姿が見えません! これはもう勝負が決まってしまったのか!?』
徐々に縮まる距離。
俺とパプリアの接触まで残り数メートルという所だろう。
「なあ、一つ聞いていいか?」
「キヒヒ?」
「お前はさ、睡眠作用を持つ催涙煙――喰らった事あるか?」
俺は素早く長剣を空に掲げる。
その瞬間、パプリアの足元から勢いよく煙が噴出された。
「ウ、ウグァァ……ッ!! ミエナイ、ミエナイ何も! 母よ、母はイズコニ!!」
「母、母っていい加減親離れしろって!」
パプリアはそのまま地面に崩れ落ちる。
それと同時に、ピアヌスがこちらに意識を向けた。
だが、あまりにも遅すぎた。
俺はピアヌスの背後に回り込み、首を腕でロックして絞める。
そのままピアヌスは泡を吹きながら意識を失った。
『試合終了-ッ!! 一回戦第一試合は『アルヴェリオ&シャール』ペアの勝利です!!』
俺とシャッティはハイタッチをして舞台を降りて行った。
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