第七十六譚 本選開始の合図


 今よりずっと、遥か遠い昔――まだ勇者という存在すら生まれていなかった時代。

 その時代、世界には三つの神教が存在していた。


 妖精族の『フェリル・フェドランテ』が開いた“エルファレリア神教”。

 人間族の『ユリシーズ・アクロイド』が開いた“キテラス神教”。

 同じく人間族の『ザカライア・ダリンブル』が開いた“アクリゥディヌ神教”。


 この三つの神教はそれぞれ信仰する神が違う。 

 男神エーテファルリア。女神キルテリアス。女神アディヌ。

 その三神を振興するために開かれた神教だ。


 それぞれが異なる神を信仰する。

 そうなれば、対立するのは当然の事。


 小さな争いを繰り返してきた三神教は、ある時遂に大きな戦いを起こした。


 それは世界中で伝説として受け継がれている、とある大陸を二つに分けたとされる大戦争。

 ――“三神大戦”。


 三つの神教が互いを滅ぼそうと躍起になって行われた戦争である。

 その時代、神教に入信していた人数はおよそ二百万人。

 全人口の四割が戦争に参加したとされている。


 大戦の結末は、各地方の言い伝えによって様々ではあるが、いくつかは共通する部分がある。


 その大戦に勝者はいないという事。

 その大戦では多くの人々が死んだという事。


 その大戦に悪魔が現れた・・・・・・という事。


 この三神教は今も尚規模の拡大を続けており、神教間での対立は後を絶たない。






□――――ビストラテア:闘技場舞台【アルヴェリオside】






 舞台に着いた俺たちは、その瞬間から驚きの光景を目にする。


「舞台が……!」

「直ってる……!」


 アザレアの強烈な脳筋魔法により、粉々に砕けたはずの舞台が元通りになっていた。


 もはや新品なんじゃないかと思うぐらいの輝きを放っている舞台を見て、俺は近くのスタッフに声をかける。

 すると、そのスタッフは本部下の小さなスペースを指さした。


「この大会には超一流の創生魔法の使い手を呼んでいるんです。あの程度破壊されてもすぐに直していただけるんですよ」


 その言葉に、俺はスタッフの手を取って頭を下げた。


「ありがとう……呼んでくれてありがとう……」

「は、はあ……どうも……?」


 俺はもう一度スタッフに礼を言うと、直った舞台上に向かう。

 変な目で見られたがそんな事は気にしない。今の俺は機嫌が良いからな。


 破壊しても修理費を払わなくていいなんて……これならば思い切り戦えるってもんだ。


「今回は凄えな。前回まで創生魔法の使い手なんか呼ばなかったのによ」

「今年は特別なのか?」

「うーん……どうなんだろ? でも、これで修理費払わなくて済んでよかったね! アルっち!」


 俺はシャッティに笑顔で応える。


 しかし前回の大会で舞台が破壊されたから、今回は修理できるように創生魔法の使い手を呼んだのか?

 でも、今までの話を振り返ってみても、舞台が破壊されたなんて事にはなってないと思う。


 確かに、もの凄く強い奴は出たらしいけど、だからと言って舞台が破壊されたなんて事にはならないからな。

 本当に今回からってだけなのだろうか。


「舞台が破壊されることを事前に知っていたような感じに思えるのは僕だけかい?」

「アンタはいつも考えすぎなのよ。リヴァもアンタもその考えすぎる性格どうにかしたら?」

「とは言ってもね……。創生魔法の使い手なんか雇うほどなんだぞ? そうなると少し裏があるんじゃないかって疑いたくもなるよ」


 創生魔法。

 それは、頭に浮かんだものを創り出せる魔法だ。


 ただ、この魔法も万能という訳じゃなく、術者が知らない物は創り出せないし、小さな椅子を創るだけでも大量の魔力と時間を要する。

 さらに、創生魔法という魔法自体が珍しく、魔法使いの中でもほんのひと握りぐらいの人数しかいないと言われている。


 だから、創生魔法の使い手を見つけるのも至難の業だし、雇用料も高価だ。


 この闘技場にいる創生魔法の使い手は、俺の目に見える範囲内で十人。

 一人を雇うのに金貨七十だとすると、少なくとも金貨七百はかかっているという事だ。


「金が余り過ぎたから使い道に困って雇ったってことなんかね?」

「そ、それはどうだろう。た、ただ、この大会を、もっと盛り上げたいと思ったから、じゃないかな?」


 スヴィンとツヴェイルが言ってる事もあながち間違ってないんだろう。


 でも、今年は危険な奴が出るから……とかもありそうだけどな。


『会場の皆さん! 舞台上に注目お願いします!』


 実況者の言葉に、会場中の視線が舞台に向けられる。


『この八組が! 本選出場を果たした選手たちです!! まずは大きな拍手をお願いします!!』


 会場中から乾いた拍手の音が響き渡る。

 拍手の中に歓声が入り混じったりと会場は既に出来上がっているらしい。


『ではでは! 気になる対戦順を発表します!』


 舞台上で歓声に応えていた俺たちは、その言葉に一瞬で表情を変えた。

 会場内の空気が一瞬にして張り詰める。


『一回戦第一試合――『アルヴェリオ&シャール』ペア対『パプリア&ピアヌス』ペア!!』

「一試合目から俺たちか」

「頑張ろうね、アルっち!」


 俺は横目でパプリアたちを見る。

 彼らは俺たちの事なんて眼中にないのか、ただただ目を瞑って何かを呟いていた。


 まさか一回戦で例のアイツらと戦う事になるとは思わなかった。

 でも、これはチャンスだ。


 前大会での事を聞けるかもしれないしな。


『――そして一回戦第四試合は『グラジー&アザレー』ペア対『グリンファー&サイル』ペアとなります!! 一回戦第一試合はこれより十分後に試合を開始しますので、一試合目の選手は準備を整え次第速やかに入場口前で待機してください!!』

「見事に分かれたようだね」

「そっちの方が燃えるだろ? 決勝で会おうぜ」

「途中で負けるんじゃないわよ?」

「お互い頑張ろうね!」


 俺たちは互いに挨拶を済ませた後、ゆっくりと舞台を降りて入場口へ戻って行った。

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