第六十四譚 時間ぎりぎり
翡翠の指輪を手に入れてから十四日目の朝。
俺達は王都トゥルニカに続く街道を馬に乗り全力で駆けていた。
「もう! やっぱり休み過ぎなのよ!」
アザレアが怒り交じりに言葉を発する。
「仕方ないじゃないか! 元はと言えば君とアルヴェリオが狩り対決なんてしていなければこんな事にはならなかったんだよ!?」
「あれはリヴァがしつこいからよ!」
「すんませんっした! というかあんまり喋るなよお前ら! 舌噛んでも知らねえからな!」
遡る事七日前、俺達が道中の村で宿をとっていた時の事だ。
日が暮れた頃に村に着いた俺達は、宿をとった後にすぐ寝て朝早く出ようと決めていた。
しかし、その次の日に村で狩りの祭りが行われることになっていたんだ。
村の人達はせっかくだからと俺達にも参加するように言ってくれたため、その祭りに参加することになった。
優勝者は名誉を得られるというだけの祭りだったのだが、狩りと聞いては黙ってられない連中がこのパーティには三人いた。
俺、アザレア、ジオ。
この三人が本気になりすぎたためか、祭りの時間は急きょ延長。その日の夜更けまで行われることになったんだ。
結果、ジオが一位。俺とアザレアが同率二位という悔しい結果に終わり、出発の時間も遅れたという事になったわけだ。
「――って、ジオお前一番楽しんでたじゃねえぐェ!」
「言った傍から自分で噛んでるじゃないか!」
あいつさらっと流したな……。
ちゃっかり俺のせいにしやがって……許すまじ。
というか痛ってえな本当に。
馬乗りながら話すと舌噛むって言うけど本当だったんだな……って痛い死ぬ。
「“
「助かった……ありがとう」
「気にしないでください」
ある諸説によると、回復魔法は術者との距離が近いほど効果が上がるとされている。
なんでそんなこと言われてるかは知らないが、気持ち的にそんな感じがする。
現在、街道を走る馬は三頭。
ジオが乗っている馬、アザレアが乗っている馬、そして俺とセレーネが乗る馬の計三頭だ。
セレーネは俺の背にしがみつくように腕を回して抱き着いている。
回復魔法が零距離で唱えられてるのだが。
つまり、何が言いたいかというと、気持ち的に回復効果上がってる気がするよね!
いろんな意味で回復できてる気がします、ありがとう。
「王都が見えてきた……! 急ぐぞ!」
俺は背に当たる柔らかいながらも弾力のある二つのふくらみの感触を心に刻みながら、急いで王都を目指した。
□■□■□
王都に着いた俺達は借りた馬を返し、東の港に向かう行商人を捕まえて馬車に乗り込んだ。
「兄ちゃんらよお……そんな急いでどうしたんだよ」
「定期船に間に合わなくなるんだ! 頼む、できるだけ早く出発してくれ!」
「乗せてもらってるうえにそんなこと言うか普通……」
「金貨二十」
「お客さんは神様よォ!!」
行商人の耳元でぼそっと呟いた言葉に、行商人は目を輝かせながら馬車を走らせる。
「定期船が出航するまでの時間は数時間も残ってない。港についても船に乗れるかどうかギリギリってところだね」
「そうね、まあ早く港につけば問題はないのよね~……」
「兄ちゃんらよお……んな事言ったってこれ以上は……」
「金貨五増し」
「ぃ喜んでェェ!!」
妖精族の一件やテッちゃんからのお礼もあって、お金は大量にある。
定期船に間に合うのなら金貨の二十五枚ぐらい安いもんだ。
「そういや兄ちゃんらよ、定期船ってビストラテア行きだよな?」
「そうだけど何かあるのか?」
俺が問いかけると、行商人は不思議そうに言葉を発した。
「なんだ知らねえのか? 俺ぁてっきり武闘大会に出るもんだとばかり思ってよ」
「……ああ、そういえばそんな時期ね……」
アザレアが懐かしそうに声を出した。
武闘大会は、ビストラテアで年に一度開催される大きな大会で、全世界から強者が集まってくる有名な大会だ。
手っ取り早く名を上げたいのなら、武闘大会に出て好成績を上げるのが一番だと言われるほど有名な大会であり、実際実力が伴わない者達は勝つことが出来ないぐらい難しい大会なのだ。たとえ運が味方したとしても結果は変わらないだろう。
俺は出た事がないんだけど、アザレアが出た事は覚えている。アザレアというかナファセロの方なんだが。
俺と出会った時にも出場してたんだけど、その時は四位入賞だったような覚えがある。
「で? 結局兄ちゃんらはどこに向かうつもりなんだ?」
「ドフタ―ナ帝国だよ」
「……ドフタ―ナ? 兄ちゃんら、ドフタ―ナに行くつもりなのか?」
行商人の声のトーンが一段階下がる。
ドフタ―ナ帝国は、炭鉱族が住む――住んでいた国だ。
「残念だけどよ、帝国は滅んじまったって噂だぜ? 最近じゃ炭鉱族も見かけねえしな」
「俺達はそれを確かめに行くんだ」
「確かめるったって……定期船は通っちゃいねえぞ?」
俺達は行商人の言葉に驚きの声を上げる。
ジオだけはやっぱりか、と言いたげな表情をしているが、それ以外は目を丸くして驚いていた。
「そりゃあそうだろうよ……。まあ、どうしても行きてえなら武闘大会で優勝するしかねえな……」
「優勝すれば何か貰えるのですか?」
「なんでも、景品の中から好きな物を一つだけ選べるらしいんだがよ、確かその中に船も入ってた気がするんだよな」
俺達は互いに顔を見合わせる。
定期船が通ってないのなら、景品の船を貰うしかない。となると武闘大会にも出場しないといけないわけで……。
「どのみち、瑠璃や真紅の神殿に向かうのに船は必要だったんだ。だからここは優勝して船を貰うしかないね」
「やっぱりそうなるわよね」
意見が一致し、俺達は武闘大会に出場するという事に決まった。
それから数時間後、俺たちを乗せた馬車は無事、目的の港に着いた。
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