第十一譚 辛勝より勝利。勝利より完全勝利
□――――防壁:南 【テリオル国王side】
「撃て! 撃つのじゃ!」
余の合図により、砲台から弾丸が放たれる。
ドラゴンが出現した後、まるでこの時を狙っていたかのように南からゴブリンやオーク共が攻めてきおった。どうやら今回の聖王は本気らしい。
先程、北の防壁から歓声が沸いた。
その盛り上がり様からするにリヴァっちが戦っているようじゃが、まあきっと上手くいくじゃろう。
きっと援軍を向かわせても却って邪魔になるだけ。
リヴァっちは勇者じゃ。
あんなトカゲ共に後れを取りはせん。
勇者は負けぬ。そうじゃろう?
いや既にあやつ魔王に負けておったな。
「絶対にここを護りきるのじゃ!」
頼んだぞ。リヴァっち。
□――――防壁・北 【アルヴェリオside】
炎竜の攻撃は絶え間なく続く。
両腕を振り下ろしたり、片腕ずつ連続で攻撃してきたりと。
だがしかし、俺にそんな攻撃は通用しないのだよ。
「ナゼ当タランノダ! コノ人間風情ガッ!」
「随分とプライド高いよな。竜種は、さ!」
次々と繰り出される炎竜の攻撃をいなし続ける俺。
きっと後ろから見てる兵士達は驚きのあまり口を開けている事だろう。
八皇竜と互角の戦いをしているんだからな。正確にはそう見せてるんだけなんだけど。
実際俺は一度も攻撃していない。待っているのだ、絶妙なタイミングを。
結構挑発したからそろそろイケると思うんだが。
「コノ我ガ! 炎竜デアル我ガ! コンナ人間風情ニ! 後レヲ取ッテハ! ナランノダ!」
炎竜は俺から少し距離をとり、喉元で何かをし始める。
「見セテヤロウ! 炎竜ノ本気ノ一撃ヲ!」
腹の辺りがうっすらと赤く染まる。
やっときた。チャンスが。一度きりのチャンスが。
これを逃せば皆死ぬ。俺もこの身体だと無事でいられるかどうか。
だけど失敗はしない。だってそうだろ。
こっちには僧侶が一人いるんだから。
「セレーネ!」
「……っ! はい!」
俺はセレーネに合図を送り、そのまま炎竜へと突っ込んでいく。
防壁から炎竜までは約七メートル程度か?
なら問題はない。俺はかつて十メートル超を飛んだ男だからな!
炎竜が口を大きく開けた瞬間、俺は地面を強く蹴って奴の口目がけて飛んだ。
「ナンダト……!?」
口の中には赤く燃え盛る炎の中に、うっすらと光る石がちらりと見えた。
「お前の弱点は喉元にある魔石! 俺はこの瞬間を待ってたんだよ!」
竜種は魔石と呼ばれる物――核を体のどこかに隠し持っており、それを破壊しない限りは絶命しない生き物だ。
それを知らない奴は消耗戦をしている事にも気づかず死んでいく。
俺も炎竜と初めて会った時はそれを知らずに戦っていた。
だから撃退なんていう辛勝で終わった。
そう、俺達はこいつに勝ったが、倒してはいないんだ。
だが、その戦いも無駄じゃなかった。
その時の戦いで、魔石の存在と場所を知れたんだから。
「お前が炎を吐く為に口を開く瞬間を待ってたんだ! 五十年以上前からずっとな!」
炎竜の鼻辺りに飛び乗り、長剣を突き刺して身体を安定させる。
俺の言葉に、炎竜は何かに気づいたようだった。
「マ、マサカ貴様……! イヤ、ダガソノ魂ハマサシク……アノ時ノ……!?」
俺が口へと辿り着いた瞬間、喉元から炎が吹きだされる。
「今だセレーネ!」
「“
俺に炎が当たる瞬間、セレーネの回復魔法が俺を包む。その隙に、俺は喉元へと一瞬で移動する。
「馬鹿ナ……!?」
閃光。俺の長剣が炎竜の魔石を貫く。
魔石は粉々に砕け、腹の中へと落ちて行った。
「キ、貴様ハヤハリ……」
「――ああ、そうだよ。俺はあの時の勇者さ」
直後、炎竜は地へと落ちた。
大きな地響きを立て地へと落ちた炎竜の姿は、この戦いの激しさを伝えるかのようだった。
辺りは静寂に包まれる。
俺はその静寂の中、炎竜の口から姿を現し、剣を掲げて叫んだ。
「炎竜討伐完了だ!」
直後に湧き上がる大きな歓声に、ここ一帯が包まれた。
その歓声は王都中に響き渡るほど大きなものだった。
この瞬間、俺達の勝利が決まった。
だがこの時、俺には一つだけ気がかりな事があった。
いくら回復魔法を受けたからといって、なぜ炎竜の口内が熱く感じられなかったのか。
その疑念が頭から離れずにいた。
□■□■□
俺が防壁の上まで戻ってくると、そこには大勢の兵士達が待ち構えていた。
険しい表情で皆が俺の方を向いている。
「……えっと、どうしましたかね?」
「アル様」
声がした方に視線をやると、そこには優しい微笑みを浮かべたセレーネが立っていた。
セレーネは俺に近づいてくると、兵士達の方に振り返って言葉を発した。
「この方こそがアルヴェリオ・エンデミアン。炎竜を討伐した英雄です!」
その言葉を聞き終わると同時に、また大きな歓声が沸き起こる。
先ほどの険しい表情が嘘だったみたいに皆が笑顔になっていた。
「凄すぎるぜ坊主!」
「炎竜を倒してくれてありがとな!」
「いやいや、あの僧侶もよくやってくれた!」
そんな言葉があちこちから聞こえてくる。
セレーネも称賛の声が嬉しいのか少しばかり顔が赤くなっていた。
「セレーネ、ナイスタイミングだったよ。ありがとう」
俺は少しだけセレーネに視線をやりながら声をかける。
「……いえ。アル様の作戦のおかげです」
「とか言って最初疑ってただろ?」
「…………そんな事ありませんよ?」
「随分と間がありましたけどどうしましたかね」
そりゃ疑うよな。
俺が口の中突っ込むから詠唱しといてなんて言われたら。それで炎に当たるベストタイミングで回復よろしくなんてさ。
俺だったら無理だよ、絶対逃げる。
でもそれを一発本番で成功させるとはなぁ……。それができたの今まで一人しかいなかったのに。
タイミングばっちりすぎて恐ろしいな。
本当にキーラみたいだなぁ……。
「しかし、あの作戦のおかげで死人は出ませんでしたよ?」
「ほんっと……奇跡だよなぁ」
「これで貴方の事を本当に信じる事ができそうです」
「えっ、俺って信用無かったの?」
「全てを鵜呑みにするほど私も馬鹿ではありませんから」
「ええ……マジかよ……」
一番ショックうけたぞこれ。
じゃあなんで付いてきたんだよ……。何が目的だったんだ……?
ええ……。なんか心のダメージ半端ないんだけど……。
「ですが……その、信じていましたよ?」
「……本当かそれ」
「はい。これは本当です。それに、その……」
セレーネは急にもじもじし始め、俺から少し離れたところで小さく呟く。
「少し、かっこよかった……ですよ」
その言葉は俺の心に深く突き刺さる。
聞こえた。はっきり聞こえた。
何だろうこの感じは。突き放されて一気に優しくされたようなこの感じ。
「セレーネ、もう一回頼む。もう一回言ってくれ」
「……もう言いません」
「もしかしてセレーネってツン――クーデレかな!?」
「何ですかそれは! 知りません!」
こうして、俺の――アルヴェリオの初陣は幕を閉じた。
きっとこれから激しい戦いが続くんだろう。勇者リヴェリアだった頃と同じように。
でも俺は決めたんだ。戦うって。
信じてくれる人や支えてくれる人、大切な人を護る為に。
そして、聖王。お前の正体を暴く為にも。
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