第七譚 現トゥルニカ国王テッちゃん
□――――アルヴェリオ達が来る数分前:玉座の間
「はあ……。退屈じゃ……」
余はテリオル・ド・ダリアヌス・トゥルニカ。この王都トゥルニカの国王である。
「王よ、平和なのは良い事ですぞ」
「しかしじゃな……」
ここ最近――五年程前から、聖王は侵略をピタリと止め、動きを見せずにおる。
確かに、大臣の申す通り平和なのは良い事だ。
人々が血を流すこともなく、笑い合い、幸せに暮らせる日々は実に良い。
だが、どうも退屈で仕方がない。
このような事を言うのは国王としてあるまじき発言じゃが、戦っていた方が退屈せずに済むのである。
聖王が大人しくなってからというもの、日々退屈しない方法を考えておるが一向に答えは出ない。
一応候補は出ておるのじゃが、イマイチこうパッとしないのだ。
後押しがあれば別なのじゃが……。
「そういえば先ほど門兵から報せが届きましたぞ。なんでもイザベラ殿からの紹介状を持った若者がこちらに向かってるとか」
「ほう。あのイザベラからの紹介状とな」
イザベラというのは、余の直属の魔術師であった優秀な女魔術師である。
人付き合いをあまり好んでおらんかったあやつが紹介状を書くとは珍しい。
一体どのような人物なのだろうか。少しだけ興味が沸いた。
「お連れしました!」
「扉を開けよ」
扉がゆっくりと開かれる。それと同時に玉座の間へと姿を現す若者が二人。
白髪の少年に、青髪の少女。
そして流れるように少年が放った言葉。
「やあ、久しぶり。テッちゃん!」
「……は?」
何この馴れ馴れしさ恐ろしいんじゃけど。
□――――トゥルニカ城:玉座の間【アルヴェリオside】
「……あれ?」
俺の言葉が玉座の間にいる全員の耳に届く。
「あの、え? テッちゃ……え?」
セレーネがこの世の終わりみたいな顔をして俺を見る。
わかった。一旦落ち着こう。
状況の確認を速やかに行うのも勇者のスキルでもあるからな。
まず、目の前の玉座に座ってるのは間違いなくテッちゃんだ。
トゥルニカ王国の第一王子だったテリオルもといテッちゃん。
俺が生まれて八年後ぐらいに生まれたから今は六十五歳だと思う。それ程の年月が経っていても、面影が残ってるからテッちゃんだってわかる。
昔はこうやってよく挨拶していた。ではなぜ今は通じないのか。
答えは単純である。
今の俺ってリヴェリアじゃなくてアルヴェリオなんすよね。
「ぶ、無礼な! この国の王に向かって何たる口のきき方だ!」
はい、アウト。どれぐらいアウトかっていうと、隠していたエロ本が母親に見つかって家族会議を開かれるぐらいにはアウト。
「あ、ああ! アル様! 早く謝罪を!」
「衛生兵! この者達を捕らえよ!」
まずい。初手からいきなり失敗した。
くそ……! ここぞという時にボケかますのは治ってないな俺は!
どうする。どうしたらいい。考えろ。
紹介状は……出したところでこの場を治めるのは不可能だろう。
転生の事を話すのは……いや、ダメだ。信じてもらえる可能性が低すぎる。
ならどうすれば……。
「待て」
渋く、それでいて堂々とした声が玉座の間に響き渡る。
テッちゃんだ。
「し、しかし王よ!」
「待てと言っておる」
その瞬間、玉座の間は静寂に包まれた。
テッちゃんの言葉一つでこうも静かになるなんてな……。やっぱり国王って凄いんだな。
「なかなか面白い少年じゃ。まずは紹介状を見せてもらおうかの」
「は、はい。こちらが紹介状です」
セレーネは大臣に紹介状を手渡す。
それを受け取った大臣は速足でテッちゃんの元に歩いて行く。
「こちらを」
「うむ」
紹介状に目を通し始めるテッちゃん。
しばらくの沈黙の後、ゆっくりと立ち上がるテッちゃんは俺達以外を玉座の間から出した。
「……本当に勇者なのか?」
大臣達が出ていってから数秒、この国の王が口を開いた。
その口から発せられた言葉は重く、威圧のようなものが感じられる。
「ああ。俺だよ、テッちゃん」
ここで委縮して敬語なんか使ったら信じてもらえないだろう。
きっと試されている。
これはテッちゃんからの――いや、トゥルニカ王からの試練なんだ。
「ならば答えよ」
どんな試練だろうが構わない。
前に進むためにも、俺は躓くわけにはいかないんだ。
「理想の?」
「タイプは?」
「「清純お姉さん!」」
「イエーイ! リヴァっちじゃん! 元気してた?」
笑顔でハイタッチをかます俺とテッちゃん。
そんな光景を見ていたセレーネは、呆気にとられたように口をポカンと開けて放心状態になっている。
「うん元気元気! 一回死んだけど元気!」
「さすがリヴァっち! 相変わらず最高じゃな!」
「何なのですかこの状況は!?」
□■□■□
「――コホン……。つまり余と勇者は幼馴染のようなものでな。小さい頃はよく遊んでもらっておった」
あれからセレーネの激しい質問攻めにあった俺の代わりにテッちゃんがそれに答える。
少し騒ぎ過ぎたかもしれないが、仕方ないと思うんだよな。なんせ数年ぶりだし、テッちゃんにとっては数十年ぶりなんだからな。
「……なるほど。質問にお答えいただきありがとうございます」
「うむ。まさかこのような姿になっているとは知らなかったのじゃがな」
「俺もまさか魔王に負けるとは思わなかったからな」
大声で笑い合う俺達のテンションに着いていけず、苦笑いで空気と化すセレーネ。
しかしそんなセレーネにも思うところはあったようで、
「そういえば、王様は聖王の正体についてご存じなのですか?」
と、一言。
それに対してテッちゃんは「リヴェリアじゃろう?」と答える。
「では王様は勇者様が聖王であると……?」
「そんな訳あるまい。リヴァっちになりすました偽物だと思っておるよ」
「……やはり王様は信じておられたのですね」
「うむ。リヴァっちはそのような事をするほど落ちぶれておらぬ。なにせ“勇者”じゃからの」
その言葉に少しだけ嬉しさを感じる。
ああ、テッちゃんは本当にいい奴だよ。本当に。
「それにリヴァっちはそのような度胸なぞないチキンじゃからな」
本当にその言葉さえなければ最高だよ。
「……して、余に顔を見せに来たわけではないのじゃろう?」
「ああ。それなんだけどさ、資金の援助と“勇者復活”を世間に広めてほしいんだ」
そう、今回の目的はこれだ。
資金の援助はしてもらえそうだけど、勇者の復活はどうだろうか。
まあ、テッちゃんの事だし軽くオーケーしてくれるだろう。
「なるほどの……。ん? おお!?」
「どうしたんだ、テッちゃん?」
「閃いた! 閃いたぞ!」
急に大声を上げながら立ち上がったテッちゃんは、ニヤニヤと笑いながら再び玉座に腰を下ろす。
いや、立つ意味あったかそれ。
「これより聖王討伐の御布令を出す。聖王を倒した者には莫大な財宝と新しい国を与えるとな!」
「……はあ!? 何言ってんだテッちゃん!」
「競い合う相手が居るのは楽しいじゃろ? それに、そっちのほうが退屈せずに済みそうじゃしの」
何考えてんだこいつ。これでも一国の王だってんだから世の中わかんないよなぁ。
ほら見ろ。セレーネだって驚きのあまり……いや、あんまり驚いてないな。むしろ楽しそうな目してるぞ。
しかし、そんな時だった。
扉の外から兵士と思われる男の声が聞こえてくる。
「きゅ、急報! 急報です!」
「何事じゃ」
その兵士は勢いよく玉座の間に入り、慌てた様子でテッちゃんに跪く。
「ま、魔物です! 魔物が攻めてきました!」
「なんじゃと! 数は!?」
「そ、それが、一頭。ド、ドラゴンが一頭です!」
「ドラ、ゴン……?」
玉座の間は再び静寂に包まれた。
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