　前略　小山田平八郎先生

　初めまして。ぼくは小山田平八郎先生の漫画『虹を呼ぶ妍』の大ファンです。

　最初『ヤングエンペラー』に連載されている『虹を呼ぶ妍』を読んだ時、ぼくは朝倉真央が主人公だとばかり思ってました。

　だって朝倉真央って、他の漫画によくヒロインとして出てくるそのまんまのヒロイン然とした顔をしてるからです。ぼく中2ですが、その頃はクラスメートののぼるやつとむも朝倉真央が主人公だと言い張っていましたヨ。また作品は終始朝倉真央の目を通して展開しているので、誰だってそう思いますよね？

　だけどどうも主人公が朝倉真央じゃなくて、そのライバルの日下部妍児のようだと気付かされたのは、タイトルに使われている『妍』の字と名前の『妍』の字が同じ字だったからです。

　先生、タイトルの『虹を呼ぶ妍』はもちろん『にじをよぶけん』と読むんですよね？そうすると名前の『日下部妍児』は『くさかべけんじ』と読むんですか？ほら！！『妍児』は金妍児の『ヨナ』とも読めますので、そこんところどうかな～？と疑心暗鬼でいっぱいなんです。先生の漫画は漢字にフリガナが振ってないですので、ちょっと意地悪に思いますヨ…ｗ

　あのう…小山田平八郎先生、日下部妍児ってぜんぜんヒロインらしくありませんですねっ！！それは日下部妍児がボーイッシュだからです。だって他の漫画ではこういうボーイッシュで小柄なタイプっていつも主人公の相手役とか引き立て役としてばかり登場していて、自分がヒロインとして出てくるなんていままで読んだことがありませんもの…！ぼくはこの漫画のこの点にビックリするような斬新さを感じて、もう運動場を10周でも20周でもわめきながら走り回りたいくらいメチャメチャ興奮しております。

　ところで先生、『虹を呼ぶ妍』は連載開始からもう2年になろうとしますのに、まだ単行本化されていないのはなぜですか？つーか…『ヤングエンペラー』に連載されている漫画自体、単行本化されてるものって少ないですよね？『ヤングエンペラー』は『ヤングプレジデント』みたく誰でも知ってるメジャーな漫画誌にくらべて発行部数が少ないので、単行本化するメリットがないのでしょうか？そーいえば、ぼくん家のすぐそばのコンビニにはいつも置いてあるけど、５００メートルくらいはなれたコンビニでは見たことないし、れっきとした本屋さんでも置いてあるのを見たことがありませんです…。でも逆に言えば、そういうマイナーな漫画誌だからこそ、ボーイッシュ然とした女子がヒロイン然とした女子に勝ってしまうという超斬新な試みができるのですね！！！

　先生、日下部妍児が朝倉真央に勝ったカルチャーショックを感じさせる驚くべき場面が二回ありました！！

　一回目は接戦で、はじめは体力で勝る朝倉真央が優勢に試合を進めていましたが、ほとんど日下部妍児をボコボコにしかけた時、日下部妍児の『喧嘩屋の本能』が突如目覚めて『はいぎぃ～っ！！』と逆転勝利したんでしたっけね？その時ぼくは自分の下半身をいじりながら、食い入るように何度も何度もその『はいぎぃ～～っ！！』のシーンばかり読み返しました。言い忘れましたが、ぼくが『自慰』という行為を覚えたのはこの時だったんですよ。

　二回目ははじめから日下部妍児が朝倉真央を手玉に取るような戦い方で勝利しましたよね！わあっ、なんと小柄でボーイッシュな日下部妍児がどっから見てもヒロインそのものの朝倉真央にですよ！！この二つの黄金のシーンを思い出すと、ぼくの下半身はとても張り切ります。時には指を動かしすぎて、長風呂しすぎたみたいにげっそりやつれてぐっすりとよく眠れるんです。

　あのう先生…、いま女子の最強者を決定する『ガチンコオープントーナメント』が行なわれていますよね。うわあっ！！その2回戦でヒロイン然とした朝倉真央は、新たに登場したものすごい強敵に負けてしまいましたねェっ、うわあっ！！このものすごい敵は荒川巴という名前で、ぼくなど実際に顔を合わせたら、ビビって目をそらしてしまいそうな揺るぎない迫力に満ちた完璧なものすごいおねーさんタイプではありませんかっ！！先生、このすごいおねーさんタイプというやつは、いろんな漫画に登場するときは、ヒロインが唯一かなわない、ヒロインを指導する立場の者として出てくるですよね！！つまりおねーさんタイプこそ、全漫画の全女子中最強なんです！！！

　先生、実はぼくこのおねーさんタイプの女子って大の苦手なんですよ。荒川巴ほどじゃありませんが、ぼくのクラスにもちょっとしたおねーさんタイプの女子がいて、そいつに目を見られると、心の中を見透かされるような、人格を蹂躙されてしまうようなそら恐ろしさを感じてどうにかしてやりたいんです。こんなやつはどうにかしてやりたいんです！！

　ああ…ぼくはおねーさんタイプに蹂躙されている時、日下部妍児のような美少年タイプの天使に颯爽と救出してもらったら、幸せだろうなぁ～！！と小山田先生、それはぼくがよく見てばかりいる夢です。

　小山田先生、荒川巴と日下部妍児はどっちが強いですか？

　先生、もちろん日下部妍児ですよね？

　もちろん日下部妍児ですよね？

　先生、『ガチンコオープントーナメント』の2回戦で朝倉真央が荒川巴に負けて、準決勝で日下部妍児が紀平紀子を破って勝ち上がってきたので、いよいぽ決勝戦は日下部妍児と荒川巴の一騎打ちですよね！！そしてジャァアア～～～～～ン！！！いよいよ来週号では、いよいよその決勝戦がおこなわれますねエっ！！！せ、先生っ、見た目は日下部妍児は100％とてもまったく荒川巴に勝てる見込みがなさそうですが、そこんところは大丈夫でしょうか？ぼくはいままでとてもまったく勝てる見込みがない女子が、とてもまったく勝てる見込みがない女子に勝ったという漫画を読んだ記憶がとてもまったくないので、あまりにも絶望感と危機感とが巨大すぎて、ハラハラドキドキしてる最中なんですが、大丈夫ですかね？まあ先生の漫画は単行本にもならないマイナーなものなので、漫画界の見た目の暗黙のルールのようなものは無視して、どうとでも描けると思うので、大丈夫ですよね？

　うふふ先生…いま見た目100％負けそうな日下部妍児が100％勝ちそうな荒川巴に勝つところを、下半身を龍みたいにズッキンズッキンと猛らせて想像しながら、この手紙をしたためております。

　小山田平八郎先生、無理なお願いとは存じますが、どうかぼくのこの願いを叶えてくださいませ。よろしくお願いいたします！！

　かしこ