肉と魚に関する新表示法
◆平凡に生きた豚の入江徳太郎君◆
通販サイトに金華豚の入江徳太郎君が写真付きで通常の金華豚より27%オフで出ていたので、さっそくママに取り寄せてもらった。しゃぶしゃぶ用のロースである。4歳の時屠殺され食肉加工されたそうなのである。
阿蘇の裾野で父入江金語楼と母入江春江の間に生まれ、広大な草原でスクスクと育った。
「なるほど、ここが入江徳太郎君の育った場所か」ボクは徳太郎君の郷里の写真をプリントアウトしてダイニングの壁に貼った。
そして彼のプロフィールに目を通しながら、そのロース肉をしゃぶ用のゴマダレにつけて口に含んだ。
なんでも入江徳太郎君は弟の入江彦六君とは大変仲が良かった一方、兄の入江馬之助君とは互いにいがみあって喧嘩ばかりしていたようなのである。一度こっぴどく痛めつけられて、殺処分にするしかないほどの大怪我を負ったことがあったが、母春江の懸命な看病で思ったよりも早く傷が治り、殺処分を免れたことがあった。
ボクは肉をモグモグと噛みながら、彦六君と仲良くしていたシーン、馬之助君と喧嘩をしていたシーンなどをリアルに思い浮かべた。その結果彦六君と仲良くしていた時期の味は肉のこの部分によく沁み込んでいてほんのり甘く、馬之助君と喧嘩ばかりしていた時期の味は肉のこの部分によく沁み込んでいて何だかほろ苦いことが判明した。
実になんとプロフィールを読みながらその肉を食べると、生前の体験や精神状態がどのように肉の味を形成しているのかが手に取るようにわかり、消費者に生き物の命の大切さを学ばせるには、写真やプロフィールを添えて売ることが一番だということがよくわかるのだ。
「生き物の命の大切さを学ぼう!」をコンセプトに、この新しい食肉表示を初めて行なったのは『佐藤ハム』であるが、当初はすこぶる不評を買ってほとんど買う者はいなかったが、子供向けのTVアニメで写真やプロフィールを見ながら一家そろって肉を食べるシーンが放送されるや否や僕初的に売れ行きが上昇し、『ギズモ』『プリマドンナハム』『丸小食品』『平成屋産業』など他の企業もこの表示を真似るようになり、いまでは食肉産業のシェアの35%を占めるまでになってきた。
そして入江徳太郎君は、入江アンジェリカと番いになり、入江未映子、入江ばなな、入江航平、入江陵介、入江まちゃみなど多数の子供をもうけたが、もっぱら子への愛情は入江アンジェリカが注ぎ、入江徳太郎は時々その様子を横目で見ていただけなので、そのしゃぶ肉から我が子への愛情は残念ながら感じ取ることはできなかった。
概ね入江徳太郎君は食肉豚としては、退屈で平凡でつまらない人生を送ってきたようである。
しかし平凡な人生を送ってきたからこそ、その味には癖がなく、ゴマだれにピッタリ合った味になるのだと思った。またもしメスの肉を食べるなら、ゴマだれよりもポン酢のほうがいいなとボクは思った。
◆お転婆な宮崎地頭鶏の鳥飼ナオコーラさん◆
アマゾンの通販サイトで宮崎地頭鶏の鳥飼ナオコーラさんのワンショットを発見したので、ボクは「おっ!?」と眼を剥き、さっそくママに頼んで取り寄せてもらった。
参考までにその「おっ!?」を人間に喩えるならば、学校のクラスにはいないタイプ、近所にもいないタイプ、さらにはテレビでも見たことのないタイプに該当するもので、これは今後の人生の糧とするためにも、ぜひともチュルンチュルンとベロですするように股ぐらをつかみながら吸い上げて体内に取り込む必要性を感じたのである。またボクはたくさんの雌地鶏を食べてきたので、特に注目すべきはそれら一般の雌鶏と「おっ!?」との格差である。この差がわかれば、それはそのまま一般の女子と「おっ!?」の女子との差ということになるから、興味津々であるし、事は重大である。
そしてボクはこの「おっ!?」的ニュアンスから判断して、ママに塩唐揚げをつくってもらうことにした。なぜならこの「おっ!?」を損なわずに味あうには、塩唐揚げしかないことがわかったからである。
料理を待つ間ボクは鳥飼ナオコーラのプロフィールに目を通した。宮崎地頭鶏(宮崎じとっこと読む)は、宮崎、大分、熊本が共同開発した『九州ロード』という品種をベースにした宮崎の地鶏である。この『九州ロード』から生まれた地鶏は、他に熊本の『熊本コーチン』『天草大王』、大分の『豊のしゃも』などがある。
さて鳥飼ナオコーラは、鳥飼俊太郎を父に、鳥飼卑弥呼を母に生まれた。先天的な傾向によるものか、ナオコーラは幼少の頃から飛びきりおしゃれなギャルだったようだ。水浴びや毛繕いを一日中行なっては、身だしなみを整えることに異常に気を遣っていたし、木の枝に嘴を絶えずこすりつけては形を整えることに心血を注いでいたのである。
またIQもかなり高かったと思われ、ある日猪が突進してきた時などは他の地鶏を盾にして難を逃れるというような狡猾な一面をも垣間見せた。
唐揚げが出来てきたので、ボクはまずおしゃれな側面がどのように味に多彩さをもたらしているかを、自分のズボンの中心部を鷲づかみしながら、口の中で吟味した。すると、味の中に人を突き放すようなクールなニュアンスが微かに漂っていたので、ああ、地鶏のおしゃれな側面って、このように味の中に含まれるものなんだな、ということに想定外の驚きを感じた!また狡猾な側面は二重三重のコクとなって味をことさら多様にしておるように感じ取られ、これは一流のシェフでさえもなかなか出せないような微妙な隠し味だと思わず舌を巻いた。
明日はぜひ学校に鳥飼ナオコーラの写真を持って行って、クラスのみんなにその味がいかに絶妙であったかをひけらかしてやりたいと思う。
◆セレブな秋刀魚の小室権三郎君◆
今日ママに取り寄せてもらったのは、セレブな秋刀魚の宝庫といわれる新潟沖で獲れる秋刀魚である。一般にはあまり知られていないが、秋刀魚という魚は獲れる海域によって貧富の差が激しく、この海域で獲れる秋刀魚はとりわけリッチな生活を営んでいる者が多いようで、そのため脂の乗りきった身は、関係者の間で非常に重宝されている。
ボクがその中でも特に小室権三郎君に目をつけたのは、写真の顔がお笑い芸人みたくおちゃらけた風だったからだ。庶民ならいざ知らず、セレブで顔がおちゃらけているというのは珍しい。
ママには塩焼きを頼んだ。まあ秋刀魚といえば概ね塩焼きであるが、これはサバの塩焼きに比べて味が細かく、しょっぱさばかりでなく苦みや渋味などいろんな味が綺をなしていて、サバが初級者向きの味とすれば秋刀魚は上級者向けの味といえるだろうw
また秋刀魚の表情にあたる身の部分は、通常秋刀魚の身の中でも味がドギツイ傾向にあるものだが、権三郎君の顔はおちゃらけているため、そのおちゃらけた表情はドギツサに何らかの変化を与えているのか?それともドギツサはドギツサのままなのか?ということは、人間としての探究心を覚えずにはいられないだろう…。
食ってみると、小室権三郎君のおちゃらけた傾向は想定通り、通常はドギツイ部分をまるで大根おろしをかけたみたいにマイルド化されていたので、拍子抜けする一方でボクの味を読む力も段々とレベルアップしてきたなと妙な自信にもつながる面もあったわけである。
小室権三郎君は3歳の時、小室らいてふと結婚し、小室飛び丸、小室厚切りジェイソン、小室三太夫、小室次郎長、小室ふく子などたくさんの子宝に恵まれ大家族を引っ張ってきた。ボクは尻尾のあたりの身の堅さが、その家父長としての責任感の表れとなって出ていることに気付き、それをモグモグ食べながら思わず敬いの念を感じたのだった。
だがそろそろ秋刀魚の旬も終わりである。来年はぜひ小室権三郎君の次男坊である小室厚切りジェイソンをママに買ってもらおう。
個人のプロフィールを見ながらの食事は、いや実に心温まるものだw
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