第7話 銀髪さんと第二生徒会
1.部活動紹介は中止になりました
入学式から間もないある日、
男子学生2名がけだるそうに会話していた。
「部活動に入ろうと思ってるんだけど…」
「部活かぁ。そういえばこの学校の部活ってどういうものがあるか、
まだ知らされてないよね」
「そうだよ。まだ部活に何があるか知らされていない。
校内のホームページには掲載されてるみたいだけど、
意欲のある人以外は見ようと思わないよね、
校内のホームページって」
「校内SNSを見るといいよ。
部活動やってる人がさかんに宣伝してるから」
「なるほど……ちょっと見てみるわ」
「しかし、おかしな話だな。
俺が前にいた学校では、
4月のこの時期、毎年なら部活動紹介イベントを
全員集まって行うはずなんだけども」
「そういえば…そうだね。
なんでまだやってないんだろうね」
「ん? 俺の携帯端末に通知が……。
生徒会広報部からのお知らせか。
『今年度は部活動紹介イベントは行いません』だって!?」
「なんだって!?」
「『校内ホームページまたは校内SNSで各部活を自分で確認してください』
と書いてある」
「自分の目で確認しろってか。
セルフサービスかよ」
「部活動がセルフサービスだと…」
「生徒会は何を考えているんだ、まったく!」
2.生徒会への抗議
生徒会室では、生徒会長と副会長が話をしていた。
あたりには不穏な空気が漂い、
緊張感のある会話であることがうかがえる。
「生徒会長、部活動紹介中止について、一部学生から抗議が来ています」
「抗議?」
「はい。
おもに、部活動をしている学生からの抗議なのですが……。
『例年どおり、部活動紹介イベントを開催してください』という嘆願も」
「だめよ」
「だめなのですか」
「……部活動に参加する生徒が年々減少していってるのは知っているわね?
そんな状況で、部活動紹介をわざわざ開催する手間を考えると、
『自分で調べましょう』が一番いいと思ったの。
情報化社会なのだから、校内ホームページやSNSを活用すればいいのだし」
「そうなのですか」
「そうだよ」
「ところで、生徒会長。
部活動紹介開催の中止について、『第二生徒会』からも抗議が来ています。
それに、生徒会室前や校庭でデモをするんだとか……」
「また『第二生徒会』ね……どうしようかしら」
「粛正委員会を使って鎮圧しましょうか?」
「……粛正委員会は、生徒会から独立した組織なのだから、
コマのように使えるわけではないわ。
権力分立って知ってるでしょう?
生徒会・粛正委員会・第二生徒会……。
この三者がお互いを監視しあって、暴走しないようにしているの。
停滞も生むけどね」
「はい、わかっております。
このところ、粛正委員会は、生徒会の味方であることが多いもので、つい」
「まず、生徒会の見張りだけつけて。
第二生徒会が暴動になりそうなら、粛正委員会を呼んで鎮圧すること」
「承知しました。ではさっそく私が見張りに……」
「待って、あなたは行かないで。
私のそばにいて」
「いいんですか?」
「だって……あなたは私の秘書のようなものでしょ」
生徒会長は、副生徒会長の腕をぎゅっと引っ張り、
胸に抱き寄せる。
「会長。ち、近すぎます……」
副会長は顔を赤くする。
「こんなかわいい副会長を……
しかも私の従妹を、
危険な見張りに送るわけにはいかないの」
「会長……」
「というわけで、生徒会の下っ端に行かせましょう」
3.校庭へ
俺が登校したとき、すでに学校全体が騒がしかった。
教室も、その周辺も。
学生たちの怒りや戸惑い、あきれ、いろんな感情がうごめいていた。
「おい、織枝。なんでみんなざわついてるんだ?」
「次郎……。
『生徒会』と『第二生徒会』が衝突したんだって」
「は? 事情がよく呑み込めないんだが……?」
なんだ? 第二生徒会って。
「次郎は、第二生徒会って知らないの?」
「知らないな」
「この学校には、
『生徒会』『粛正委員会』『第二生徒会』
という組織があって、それぞれ監視しあっているんだって」
「……なんで監視する必要なんかあるんだ?」
「この学校の生徒会は、『校内法』を作る権限を持ってるんだけど…
つまり、校内法で学校を支配下におけるの。
でも、生徒会が校内法を悪用して、
めちゃくちゃな学校運営をしたら、
罰せられるように、粛正委員会と第二生徒会がいるんだって」
「なるほど…」
と言ってはみたものの、正直なところ「?」が多い。
言葉だけ聞いて、実際の姿を知らないわけだから、
イメージが結びつかなかった。
仕方ない、第二生徒会というものを実際に見てみればわかるかもしれない。
「第二生徒会は、今、校庭で、各部活動の人たちと一緒に、
デモを行っているんだって」
「なんで部活動の人たちが?」
「生徒会が、毎年恒例の部活動紹介イベントを中止したんだって」
「えー!?」
「それをよくないと思ってる人たちが
多くいたらしくて、
第二生徒会の力を借りて、生徒会に抗議してるらしいの」
「なんかとんでもないことになったな。
よし、俺も校庭に行って、確かめてみるか」
「陽子はすでに校庭に向かったみたい。
陽子は……好奇心旺盛だから」
「陽子らしいな。
織枝も一緒に行くか?」
「私は……」
織枝はなんかためらっているっぽいな。
そんな俺たちの様子を見て、級長が声をかけてきた。
「次郎さん、織枝さん、おはようございます。
話はすべて聞きました。
私も校庭に向かいたいと思っています。
第二生徒会の活動を間近で見てみたいので。
1年5組のクラス委員会として……一応はね」
「級長、俺も行こうと思ってたんだ。
織枝は……」
「私も……行ってみようかな。
よ、陽子が心配だし」
頬を赤くして、陽子のことを心配する。
お、おう……。
そういう理由でいいのか。
まあいいか。
俺と級長と織枝は、
第二生徒会と部活動メンバーたちがいる、校庭に向かった。
4.第二生徒会!
校庭広場には、すでに多くの人だかりができていた。
部活動メンバー、野次馬、生徒会の見張り、粛正委員会メンバー
そして……第二生徒会の人たち。
「カメラは回っているか! この映像は生放送としてアップするんだ!」
男子学生が叫ぶ。
「おう、カメラは準備万全だ。
そろそろ始めるか」
「よし!」
ひときわ目立つ雰囲気の男子学生が、声を張り上げる。
「みんな、集まってくれてありがとう!
私は第二生徒会長、睦月秋秀だ!
きょうは、ほかでもない、生徒会を糾弾する為に動いた!」
全体に緊張が走る。
「今回の糾弾は、部活動紹介イベントが中止になった件だ。
わが校の伝統である、部活動紹介イベントが、
生徒会の独断で中止になった!
許されることではない!」
睦月会長は続ける。
「中止理由は、
『部活動入部希望者が年々減少しているから』という
ものだ。みんな納得できるか!?」
「納得できなーい!!!」
第二生徒会メンバー、部活動メンバーが声をあげる。
「みんな、校内法をよく読んでみろ。
『自由で健康な学生生活の為、学生は部活動をする自由がある』
部活動をするための自由があるにも関わらず、
部活動を紹介する自由はないということか!
こんなバカげた話はない!」
「そうだそうだ!」
睦月秋秀と、その取り巻き、部活動メンバーの人たちは
ヒートアップしていった。
俺は、この一連の行動を見て、そこまでヒートアップできなかったが、
何やら怒っている人たちがいるというのは理解できた。
級長は冷静な顔で見ていて、織枝のほうは若干引いている。
ヒートアップしている人たちとは反対に、
野次馬や、粛正委員会らしき人達の目は、
何やら冷ややかなものを感じる。
「待て! 反論させてもらおう!」
ん? 誰か出てきたぞ。
「私は生徒会の牛木日生(うしぎ ひなせ)。
生徒会は、部活動紹介を一切やらないとは言っていない。
校内SNSやホームページを見ろ、と言っている。
そこに部活動の情報はたくさんある」
日生は続ける。
「それに、イベント準備には、お金も時間もかかる。
イベント準備にかかる費用は、生徒会費用だが、
その生徒会費用は、学生の皆さんの校内通貨から
いくらかいただいている。
合理性を追求した結果、イベント中止になった。
どうかご理解いただきたい!」
日生は、生徒会の立場を示し、それなりの説明をした。
とはいえ、この場にいる全員が納得したわけではなさそうだ。
睦月会長も、日生に対して、さらなる反論を行う。
「生徒会の人はそう言っているが、
無機質なSNSやホームページの紹介が、
部活動の『熱』を伝えることはできると思えない。
イベントという舞台に人物がしっかり登場してこそ、
部活動の具体的な姿、イメージがはっきりわかる。
結果として、入部者が増える。
学校も盛り上がる。
そうだろう? 違いないだろう?」
「部活動の入部者数は年々減少している。
部活動に関心のない人が増えている。
部活動はお金もかかる。
少ない入部希望者のために、
生徒会はイベントを主催することはできない」
「今からでも部活動入部者数を増やしてみせるさ!
部活動紹介イベントが必要だって、
今から証明してみせる!
部活動のみんな!
この映像は生放送だ。
今から、順番に、カメラの前に出てきて、
部活動紹介をしてもらおう!
生徒会がやらないなら、第二生徒会がやる!」
デモを生放送しているであろうカメラが、
部活動メンバーたちに向けられる。
このあと、第二生徒会が、
デモ用の生放送経由で部活を次々紹介する展開となった。
運動系部活に、文化系部活。
正直、こんなにいっぱい部活動があったのか、
と思えるほど、多彩で多用な部活動紹介となった。
そんなこんなで、部活動紹介が終わったあと、
最後に付け加えるように、睦月会長は話す。
「最後に紹介するのは、我ら第二生徒会です。
生徒会にモノ申したいそこの君!
第二生徒会に入る素質がある。
一緒にやっていこう!
みんな憶えていてくれ。
『生徒会がやらないなら、第二生徒会がやる!』だ!」
大歓声が上がる。
野次馬や粛正委員会、生徒会の面々は、相変わらず冷ややかだが、
睦月会長は、なかなか人望があるようだ。
「すごいな……。これが第二生徒会のデモか。
織枝、見たか?
なんかうまく言葉にできないけど、熱かったな」
「ええ……。
でも、第二生徒会のあの熱狂は、少し怖いかも」
織枝は不安そうな表情を浮かべた。
デモで熱狂する人々のことを、あまりよく思っていない様子だ。
「そうか。織枝は、あれが怖いんだな」
「だからって、生徒会を支持しているわけじゃないけどね。
どこだって……言い分はあるよ。
私は、大勢の熱狂が怖いんだと思う。止められないから」
大勢の熱狂は止められない……。
織枝の言葉に俺は息をのんだ。
たったひとりの熱狂は無視できても、
それが何万人にもなると、一体どうなるだろう。
たしかに怖い。止められないかもしれない。
俺はそんな物思いにふけっていると、
級長が横から割って入る。
「次郎さん、織枝さん。見ましたか。
第二生徒会の今のデモを。
すごかったですね。
デモが、いつのまにか、部活動紹介に変わってましたよ。
睦月会長もなかなかやり手ですね。
最後は、第二生徒会のアピールになってましたし、
一番得したのは第二生徒会なのかもしれません」
級長は分析的に話す。
なるほど……言われてみればたしかに、
第二生徒会が一番目立った紹介だったかもしれない。
「一番得したのは第二生徒会か……。たしかに」
「ところで、陽子はどこにいったんだろう?」
織枝はきょろきょろと陽子を探す。
そういえば姿が見当たらない。
校庭広場のデモを見に来たと聞いていたが。
「あっ、いた! 陽子ー!」
織枝は、陽子の姿を見つけたらしく、陽子に駆け寄っていく。
俺も織枝のあとを追いかける。
「織枝! どうしてこんなところに。
織枝は、デモを見に行きたがっていなかったから」
「その、陽子が心配で……見に来たの。
次郎と級長も一緒にいるよ」
「うれしいこと言ってくれるねー!
私は、第二生徒会の様子を写真で撮ってSNSに上げまくってたよ。
参加者というか、野次馬だけどね。
さっき、第二生徒会の人とも話をしてみたけど、
結構おもしろい話をしてくれてね……。
あ、そろそろ授業だから、あとで話すよ」
「うん」
「部活動紹介も楽しかったなー。
私、新聞部に入ろうかなって思ってるよ。
織枝は何か入る?」
「私は何も決まってなくて。
まぁ、クラス委員でいいかなって思う」
「ふーん。
次郎や、級長さんは何か入部するの?」
陽子は、俺と級長にも話を振ってきた。
いきなり入部の話を振られても、なんと答えていいかわからない。
正直、部活動のノリは、俺はあまり好きではないし、
先輩後輩の上下関係も苦手だ……。
それに、部によっては、活動に使うお金もかかる。
道具を多用する部活・遠征の多い部活なんかは、特にお金がかかる。
俺はとても払う気が起きない。
「部活動の入部者が年々減少している」と生徒会は言っていたが、
俺みたいな感覚の学生が増えてきたんだろうな。
俺が答えに窮していると、先に級長が答える。
「弁論部とか面白いなって思いましたよ」
「あれ? 意外だな。
級長なら、生徒会や第二生徒会だと思ってたよ」
「生徒会や第二生徒会には私より有能な人も多いはずなので……」
級長は、なんだかお茶を濁すような言い方で答える。
弁論部かぁ。
部活動紹介でもちらっと出てたけど、
いかにも弁が立つ人ばかりで、ああ言えばこう言う感じの雰囲気だったな。
正直、生徒会と第二生徒会の弟分みたいな部活だなぁと思った。
「で、次郎は?」
「あー、俺か。俺は……」
「俺は、フリーで」
つい、変な言葉が出てしまった。
普通に「何も入る気はない」とか「帰宅部」とか言えばよかったのに。
「フリー!?
あはははは! いいね!
なんにでもなれるじゃん。
最高だよ、次郎!」
なぜか陽子に褒められてしまった。
いや、笑われているだけなのかもしれないが。
「わ、私も、フリー……かな? うふふ」
織枝もなぜか話に乗ってきた。
おいおい。フリー社会かよ。
フリーかぁ……。
自由と言っていいのか、何もないと言っていいのか、
英語にすると、なんにでもとらえることができて便利だよなぁ。
さて、そろそろ授業が始まる。
俺たちは、校庭をあとにした。
続く
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