そんなとき、側仕えのものから、阿片をすすめられた。

「吸うと廃人になるものでしょう?」

 はじめて聞いたとき、私は小さく叫んだ。

 その彼は、

「吸うと、何もかもを忘れられますよ?」

 と言った。

「私も吸っていますが、普通でしょう?」

 とも。

 確かに、その彼は廃人には見えなかった。

 吸うと楽になるという言葉と、好奇心から、私は、彼の持っていた筒に手を――。


 そっと吸うと、確かに気持ちが少しだけ、楽になった気がした。


 それからだ。

 辛い気持ちになると、彼の持つ筒に手を伸ばし、煙を吸うようになったのは。


 だんだん、阿片の見せる夢の時間が長くなっていく気がする。

 それが恐ろしかった。

 でも、その夢の甘美さから逃れることはできなかった。


 筒を持つ彼に、抱かれたのも、夢うつつの中だった。

 皇帝は私を抱いたことはなかったから――、その行為は初めてで。

 でも、阿片を吸ってからのその行為を拒むことはできなかった。むしろ、溺れた。


 1934年、夫が満州国皇帝となると、私も再び皇后になった。

 夫との仲は、冷え切ったままだった。

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