私の人生は、こんなものだったのだろうか?

 そう考えるとむなしくなる。

 その思いから逃れるために、阿片の煙をまた吸い込む。


 その煙の中では、私はいつも微笑んでいる。


 隣には夫がいる。夫も笑っている。

 清国王朝の皇帝と皇后の衣をまといながら、私たちは顔を見合わせて微笑むのだ。


 そう、夢の中では、夢の中ぐらい、幸せな夢に酔っていたい。


 いや、こんなのは現実ではない。

 私は満州国の皇后で……あの夫の妻で……。


「吸うと楽になれますよ?」

 男が笑い、また煙を吸うように促し、私はまた甘い煙を吸い込む。


 筒を傍らに置き、彼と抱き合いながら、私は快楽と夢に溺れる。

 いつか、自分は自分でなくなる、という不安を忘れるように。

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