一
私は、17歳のとき、皇帝の皇后に選ばれた。
それは、寝耳に水の出来事だった。
私は、ミッションスクールで学び、西洋風の教育を受けて育った。王朝の皇后になるなんて、古臭い因習に縛られるようで、泣いて嫌がった。
でも、皇帝命令は絶対で。逆らうことはできなかった。
同い年の皇帝は、幼いころから皇帝だっただけあり、威厳があった。
でも、話したら、宮殿の外の世界に憧れを持っていることもわかった。
「私は、宮殿の外に出たことがない」
皇帝は私と会うと、いつもそう言っていた。
「だから、外の世界の話を聞きたい」
そう続ける皇帝に、私はいつも、他愛もない――だが、もう私も得ることができない、と当時は思っていた――『外』の世界の話をした。皇帝はいつも目を輝かせて聞いていた。
そんな皇帝の様子は、いつもの威厳のある様子とはまるで別人で。
そんな彼を可愛らしく思う心は、いつしか愛に変わっていった。
――ような、気がする。
愛、というものが、目に見えたら、これが愛なのか、がわかるのに。
あの気持ちが、本当に愛だったのか。正直よくわからない。
ただ。
皇帝がきさきを決めるとき、最初に選んだ女が、私・婉容ではなく、淑妃・文繍という女性であった、と聞いたときは、激しい怒りと嫉妬に苦しめられた。
私より美しい女性なのか、優れた女性なのか、ずっとずっと心からそんな思いが離れなかった。
だが、紫禁城は広すぎて、彼女と会うことはめったにない。たまに見る姿かたち以外、彼女の人となりなどはまったくわからない。
「皇后さまのほうが当然、お美しいですよ」
そう言う周りの声に、ほっとしたり。
周りの者は、みな私に気を使ったり、おべっかでそう言っているのではないかと思ったり。
私より姿かたちが美しくなくても、心映えが美しい女なのでないか、などど思ったり。
淑妃の存在を知ってから、彼女の存在が心から消えることはなく、私を苦しめた。
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