第31話

階段を登り切ると石畳の先に本殿があった。

街の中心にあるこの神社は歴史が古く、長い間奉られている。

建立されたのは千年以上も前のことらしいが、時間と共に劣化した部分はその都度改修されているようで建物自体は綺麗なものだった。

「目的地に着いたことですし、流石に今日の目的を教えてもらえますか柚木さん?」

「既に今日の目的の半分は達成されているから、残りの半分だけ話すわね」

「待ってください。達成した方の目的が凄く気になるんですが」

特にここまでこれといったことは何もしていないため、つい聞いてしまう。

「いちいち小さなことを気にするようでは地研の男失格ね。そもそもいちいち教えなくても、その内分かることよ」

この話はここで終わりとでもいうように柚木さんは咳ばらいをした。

「そうですか…」

僕の返事を聞いた彼女は、迷いなく本殿へと歩を進めた。

「今日は定期報告みたいなものに来たのよ」

柚木さんは振り返らずに話す。

「え!?そんなことしていたんですか?」

「そうよ、あなたみたいに只々毎日涎を垂らして生きている訳ではないの。まあ、これは情報収集も兼ねている、というよりもそっちが主目的かしらね」

僕への罵倒はしっかり回収する柚木さん。

「柚木さんは学校裏に行かないんですか?」

「名無しの所のことね。全く行かない訳ではないのだけれど、あまり自ら進んでは行かないわ。それこそ偶に戦利品を買ってもらったりはするけれど特殊な物品の場合だけで、基本的に私はこっちだから」

「神社でも御札とか買ってもらえたんですか!?」

「ええ。でも、私がどうして”こっち”を利用するのかというと、早く言えば手段が違うからなの」

「手段…ですか」

「少し分かり辛かったわね。私のように式神の類を操るのが神道。対して秋音さんのように呪術を使うのは仏道、これは俗に言う仏教ね」

「急に宗教的な話になってきましたね」

「私たちが接しているものとは切っても切り離せないものなのよ。同じ怪異を清めるという行為でもね」

「それもまた複雑ですね」

「生きるってことは複雑なのよ、後輩君?」

振りむいた柚木さんは優しく微笑んでいた。

「だから私たち側に足を踏み入れてしまったユウト君は少しずつ業界の事を覚えておかないといけないのよ?」

「分かりました!より一層頑張らないとですね」

よろしい、と彼女は腕を組んで胸を張った。

「正直、私としては しがらみ に縛られ続けられて変な維持を張っている四季の家々にはいずれ滅びて欲しいわ」

余程柚木さんは辛いことがあったのか、苦虫を噛み潰したような顔をする。

「大丈夫ですか?そんな過激なことを言ってしまって」

「小娘の戯言よ。それに誰も聞いていないのだから問題無いわ」

「僕が居ますよ…?」

「四季の力を使えば少年一人、誰にも知られず消すことが出来るわ」

「あれ?僕は今脅されてますか?」

「言語理解能力は正常なようね、安心したわ」

悪魔のような笑みを浮かべる柚木さん。

「僕は柚木さんの従順な後輩です!」

「よろしい。まあ、そもそもあなたはが言い触らさないと分かっているわ」

「信頼してもらっているようで涙が出てきます」

涙を拭く仕草をする僕を見て、柚木さんは可笑しそうに笑う。



「夏木の御令嬢。さっきのような怖い発言は外ではしない方が良いと思いますよ」

ふいに横から声を掛けられ、僕と柚木さんは小さく跳ねた。

「本当に人が悪いわよ、あなた」

柚木さんは眉間に皺を寄せて、声のした方向を見る。

僕も釣られ見ると、口が開いたままになってしまう。

そこに見知った顔があったからだ。

いやらしい笑みを浮かべた細目の男。

つい先日会ってきたばかりの得体の知れない男。

鑑定屋が立っていた。

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