第24話

春場愛紀の父にして春場家現当主、春場義久(はるば よしひさ)。

初老の域に入ったが未だにその肉体は衰えを知らず、愛娘曰く、日に日に研ぎ澄まされている、らしい。まさに伝統ある家の当主なのだろう。


…その逞しい右肩に、僕は担がれていた。

多感な男子高校生としては、なかなか人に見られたくない姿だ。

と思っていると玄関に愛紀が立っていた。

「おお、愛紀!帰ってきていたのか!」

愛娘を見つけるなり、義久さんは締まりのない顔になる。

声を掛けられた当の本人は、顔を真っ赤にし仁王立ちした。

「お父様!だから、そういうのは止めてって言っているでしょ!?」

「どうして怒っているのだ、愛紀よ…?」

泣きそうな表情にみるみる変わっていく義久さん。

「手土産に婿を持ってきたというのに…」

僕を肩から降ろして愛紀にスッと差し出す。

ヒョイヒョイ扱われているが僕は貢物じゃないぞ。

「そういうのが恥ずかしいの!もし、さっきの声がご近所さんに聞こえたらどうするの!」

ちなみに隣の家まではキロ単位程離れている。

「儂は愛紀が喜んでくれるかと思っとったんだが…」

「喜ばないから!結婚相手は私が自分で手に入れるから!」

「そうか…ならば仕方ない…」

義久は諦めたようで僕を地面に解放した。

「ごめん、ユウト」

愛紀は顔の前で手を合わせ、頭を下げる。

「いいよ、いいよ。いつものことだし」

この茶番は義久と会うたびに繰り広げられているのであった。

「ユウト、貴様が良いのであれば儂のことをお義父さんと呼んでも良いぞ」

「お義父さん」


「誰がお義父さんじゃあ!図に乗っているとコンクリートに詰めるぞ、この若造があ!!」

憤怒の表情を浮かべる、よく分からないお義父さんである。

暫く騒いだところで、僕たちは家の中へと入っていった。

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