第22話

坂道を下ると田んぼの世界が目の前に広がった。

小さい頃の記憶にも同じ風景が刻まれている。

引っ越し先も地方だったため、似た風景はいつも見ていたがそれとは感じるものが違った。

俗に言うノスタルジックな気分とでも言うのだろうか。まあ、実際に風景を見ているのだが。


「自転車で2ケツでもしていく?」

愛紀の家は、ここからまだ距離がある。

歩いていくだけでも僕にとっては良い運動だ。

目的地に到着した頃には疲労感で一杯だろう。

「じゃあ私は走っていくから、ユウトは自転車に乗ってよ。通学・下校も立派なトレーニングだから、あまり楽はしたくなくて」

「本当にブレないな…」

「お父様との約束だからね」

律義というかドMとでもいうか、春場は自分いじめが好きな家系なのだろうか。

「ほらほら!自転車に乗るんなら、さっさと乗る!」

僕の背中を押して急かしてくる愛紀。

「わかったよ。後から後ろに乗せろだの言うんじゃないぞ」

「私を甘く見るんじゃない」

愛紀はフッフッフと胸を張った。

「じゃあ、お言葉に甘えてっと」

僕は愛車に跨り、ペダルを回し出した。


「着いた…」

15分後、僕たちは目的地へと辿り着いた。

時間で見ると全く辛くない行程なのだが、如何せん僕と一緒に居たのは体力お化けだった。

何故か自転車の僕が必死に付いていくこととなり、全力疾走してきたのだった。

「お前…おかしすぎるだろ…」

肺がはち切れそうになり、滝のように汗が流れていた。

「女の子に負けるなんて男として恥ずかしいんじゃないですかー?しかも、自転車に乗ってー」

愛紀は勝ち誇り、ニヤニヤと笑っていた。

「愛紀のスタミナは無尽蔵か…」

「いやー私なんてまだまだだよ。お父様にはいつも負けるもの」

少し運動した程度の汗しかかいていない彼女を超える父とは、驚愕を通り越して恐怖に変わる。本当に頭のおかしい一家である。

「少し休んだら稽古に入るから、しっかり休んでおいてよ。サンドバックにもならないのは勘弁して欲しいわよ」

「おい、お前今何て言った!」

「忘れっちゃた」

愛紀は自分の頭を軽くコツンと叩く。

何なんだこいつは…。

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