第19話
一人暮らしを始めてから一年と少しが経った。
高校生に上がる頃、僕は真鳴市に戻ってきた。
僕は小さい頃、この街に両親三人で住んでいた。
だが、ある日突然何の説明もなく遠方の親戚の家へと預けられることになった。
両親は一緒に行くことは出来ないと言い、僕だけが知らない土地へと行った。
急な引っ越しは、愛紀に別れをしっかり伝えることも出来なかった。
両親や愛紀のことはずっと忘れることはなかった。
そして、小学何年生かの頃、親戚の家にある連絡が入った。
それは両親が行方不明になったというものだった。
親離れ出来ていなかった僕には、世界が終わってしまったかのように思ったことだろう。
その後しばらく真鳴市に行くと泣き喚いていたらしい。
…らしいと表現したのは、その時期の記憶があまりないのだ。
無理に思い出そうとすると頭に痛みが走るオマケも付いている。
強いショックによる部分的な記憶喪失…辛い現実から子どもが逃げる術はそれしかなかったのだ。
とは言っても、両親が居たことも小さい頃の愛紀も覚えているし、そんなに酷いものではない。
いずれ時が来たら治るだろうと医者は言っていた。
真鳴市に降り立った時、数年振りの里帰りに心懐かしく思う部分もあった。
だが、素直にそのことを喜べない自分もいた。
顔を覚えていない両親を思い出すからだ。
何故か記憶の中の両親の顔にはいつもモヤがかかっていた。
親の顔を知らない子どもとは、とんだ親不孝者だと思う。
訃報を聞いてから幾年か経ち、僕は高校進学に際して生まれの地へ戻ることを決めた。
そして念願が叶い、今に至るというわけだ。
色々な意味で騒がしい地研メンバーと知り合ったのも、怪異という存在に初めて触れたのもこの一年の間だった。
今ではみんな仲良く…なっているかは分からないが、上手くまとまりつつあることは部外者である僕としてもどこか嬉しい。
確か最初に会ったのは…。
と、思い出し始めたところで意識は暗い場所へと沈んでいった。
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