第18話
分かれ道で波留と別れた僕は、帰路をゆっくりと歩いて帰った。
日もだいぶ暮れ、辺りはオレンジと黒の混ざった景色に変わっていた。
田舎であるこの真鳴市は街灯の数も少ない。
加えて、長年電球が代えられていないため光も薄暗い。
不可思議な出来事の起こりやすいこの街では、ちょっとしたことにも身を構えてしまう。
些細なきっかけでさえも怪異が発生する。
僕たち…いや、彼女たちにとって怪異とは天災の一種という捉え方らしい。
人間が言葉を覚えて世界を認識し、その認知の祖語から生まれた存在。
人間が存在し続ける限り、怪異も存在し続ける。
科学的に怪異の存在を否定しようとしても、文明進化の根源たる想像力・イメージがある限りどう足掻いても不可能だ。
どこまで行っても人間と怪異は隣り合わせで生きていかなければならないのだ。
そこでバランスを取るために秘密裏に動いているのが、僕たちのような人間だ。
代々家業として引き継いできた者・偶然怪異を認知できるようになってしまった者など、そのきっかけや理由は様々だ。
だが、彼らを総称する呼び名は無い。
取り決めや掟はもちろんあるのだが、存在を縛る名前をつけることは危険だということで決められた名前が無いのだ。
とは言っても、生活や活動をする上で呼び名が無いのも難しいので、その地区や家・団体での呼び方は存在している。
有事に発展してしまった場合、大人数ではなく少人数レベルの怪異なら対処できるということで、小さなコミュニティ内での呼び名は自由にしていいとされているのだ。
結局は、ミイラ取りがミイラにならないようにという配慮の末の結論である。
ちなみに、僕たち地研の中での呼び名は「魔法少女」だ。
確かに魔法少女っぽさが、あるにはあるが限りなく少しである。
肉弾戦やら監禁やら泥沼な戦いを、キラキラしている魔法少女は絶対にしない。
妙に逞しい少女たち(僕もこの場合入るのか?)は、自分たちの存在を認識し直すべきである。
だが、下手したら可愛い女の子怪異が生まれてしまうかもしれないので、それはそれで良いのかもしれないと迷ってしまう。
最後の曲がり角を過ぎ、やっと僕の家が見えてくる。
築年数の長い二階建てのアパート。
玄関の鍵を開けると、カビっぽい臭いが鼻をついた。
引っ越してきた当初は、さらに臭いが酷かった。その時と比べると、今はもう大分マシになった。
玄関に備え付けられた郵便受けを確認するも、そこには何もなかった。
面倒な書類は全て叔母さんのところへ行くようにしている為、郵便物が届く機会は少ない。
何気なく確認してしまうのは昔の名残だ。
僕の毎日の仕事だった郵便物確認。
遠い昔のように感じる記憶では、母に偉いねと頭を撫でてもらっていた。
確か優しく嬉しそうな表情だったと思う。
両親のことが大好きだった僕は、ただそれだけで満足だった。
部屋の中にはどんよりとした空気が溜まっていた。
建付けの悪い窓を開け放つと心地の良い風が身体を撫でた。
自然と力の抜けた息が漏れる。
疲労感が全身を覆っている為、ゆっくり夜を迎えようと部屋着に着替えた。
精神的な疲労が強いため、今晩活動が無いことに気持ちが楽になる。
夕食やシャワーを終えて、布団にゴロンと横になる。
ゆっくりと迫りくるまどろみの中で昨年のことを思いだした。
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