第16話 鑑定屋3

鑑定屋がガチャガチャと鍵を開ける。いくつもの南京錠があるせいで、開錠に時間が掛っているようだ。

「本当こんなん毎回やっていられませんわ」

額の汗を袖で拭う鑑定屋。

「なら、鍵なんて一つにしなさいよ。そんなにつけるから馬鹿みたいなことになるのよ」

波留は僕が心の中で思っていたことを代弁する。

「いやー、なんていうか代々のしきたり言うか、お約束事なんですわ」

最後の鍵を外しながら話を続ける。

「訳ありな物がぎょうさん集まってくるここは、心理的な意味合いで強く守られなきゃいけないんですわ」

「真っ当な事を言われると何故か腑に落ちないわね」

鑑定屋が言っていることに僕たちは納得してしまう。

「っていうか、そんなことを私たちに話しても良いわけ?」

眉を寄せながら首を傾げる波留。

「話したところでどうということは無いですわ。それどころか意味を知った人が増えて、余計封印が強くなることになりますわ」

「あんたの店の封印を解いて、自分ごと世界を滅ぼしたいとかいう頭のおかしい人間もいないだろうしね」

「ご名答ですわ。だからこそ、私の店は誰にも手出しをされない聖域になっているんですわ…と、さあさあ、我が家へようこそ」

鑑定屋は両手を広げて商売人の笑顔を僕たちに向けた。



店内はとてつもなく乱雑な状態だった。

色々な物がところせましに並べられ、重ねられ、置き去りにされている。

「相変わらず汚いわね」

顔の前で埃を払う波留。

「歴史が詰まっているとでも言ってくださいな」

ハハハと笑う店主。そして彼は僕に視線を移す。

「どれ。あんさんの用事を済ませましょうか」

「あ、はい…。よろしくお願いします…」

僕は鞄の中から昨日の御札を取り出し、鑑定屋に手渡す。

波留は手当たり次第に周りを掘り起こし始めた。

「んー、この程度の怪異なら、本当におこづかいくらいの報酬になってしまいますわ」

「大丈夫です。それが目的でしたから」

「そうかい、そうかい」

鑑定屋は、じゃあコレと懐から生身でお金を差し出してくる。

しわの入った三枚のお札は、何ともありがたさを失わせる。

「ありがとうございます」

お尻のポケットから年季の入った長財布を取り出して、年老いた野口英世をしまう。

「あんさん達もさっさと経験値積んで、大物を取れるようになりや」

いつの間にか鑑定屋は煙草を取り出してプカプカと煙をふかしている。

「そうなりたいですよ。生活の為にも」

「本当に難儀なこっちゃなあ」

愉快そうに笑う鑑定屋だが、当の僕にとっては笑い事ではなく死活問題である。



「ちょっとクソ店主!どこにも見当たらないんだけれど!」

波留の呼ぶ方を見ると、雑多な棚を引っ繰り返していた。

「御令嬢、やめてくださいな。一応、その辺りも大事な商品なんやわ」

と鑑定屋は少し焦った様子で駆け寄っていく。

そこから暫く、二人のワーキャー騒ぐ声が店内に響き続けた。

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