第15話 鑑定屋2
坂道には橙色の光が差している。
「なんていうか学校の近くに専門の店があるって変な感じだよな」
隣を逞しく歩く、小柄な少女に何気なく話を振る。
「あんたって本当に何も知らないのね。鑑定屋はずっと昔からあそこにあったの。学校の方が後追いよ」
鑑定屋の建物を思い浮かべた僕は、波留の言葉に頷く。
「まあ、そうだよな。あんなボロい建物っていうか小屋?あれが最近出来たわけないよな」
「店主は何度も代替わりしているらしいけれどね。ちなみに、今の代は一番長いらしいわよ」
「え!?そうなのか!?てっきり、新人なのかと思っていたぞ?!」
あれが一番長いとなると、やはり普通の物差しでは差し測れない業界だと実感する。
「あんな、人を馬鹿にしたような軽薄な店主、さっさと変わってしまえばいいのよ」
「秋音家のご令嬢は、酷いこと言いますなあ」
後ろから聞こえた妙に色気のある男の声に、僕と波留は驚いて声を上げた。
振り返ると目的地の主たる鑑定屋がそこに立っていた。
狐目で艶のある黒髪、高い鼻とニヤついた口の鑑定屋は、いつ見ても信用という言葉が似合わない。今時珍しく着物を身に着けていることもあり、得体の知れなさが溢れ出している。
「あんたって本当に良い度胸しているわよね…」
「いやー、そんな風に次期当主様に褒めてもらえるとは光栄ですわ」
「盗み聞きして何をしようとしていたのかしら?」
波留のこめかみに青い筋がうっすら浮き出る。
「偶然後ろを歩いていたら私の店の話が聞こえてきましてな。やっぱり商売する人間としては評判っちゅうもんを気にするところがあるんですわ」
これも一種のアンケートみたいなもんですわ、と鑑定屋は笑う。その姿は、まるで狐が笑っているようである。
「アンケートって、対象に合意をもらった上で成立すると思うんだけれど…」
「まあ、そんな細かいことは気にしないで下さいな」
「全く細かくないわよ!人のプライバシーを踏みにじるようなことを簡単にして!」
「そこまで怒らんでもええやないですか御令嬢」
「私を秋音家の人間だと知りながら、その態度なのも問題よ!本当、代わりが出た瞬間あなたを追放してやるわ」
「怖いでんなあ」
ケタケタと鑑定屋は相も変わらず笑う。
「ところで本日はどういったご用向きで?」
鑑定屋は懐から煙管を取り出して火を着ける。
生まれて初めて見た煙管を何となく眺める。
「ええやろ?家では煙草なんやけど、やっぱ雰囲気だす為には煙管思っていてな」
と僕の思考を読み取ったかのように応える鑑定屋。
ワザとなのかよ。どんだけ雰囲気を重要視しているんだ。
というか、現代で煙管を使う方が異様な目で見られると思うのだが…。
「今日はこいつの持ってる札の換金といつものヤツの補充をね」
嫌々というように波留は答える。
「おー、兄さん、最近よう持ってくるなあ。頑張ってるのはええことや。御令嬢もいつも贔屓にしてくれてありがとさんな」
着いてき、と背中を向けて鑑定屋は歩き出す。煙がゆらゆらと空へと昇っていく。
僕と波留は顔を見合わせて肩を竦め、彼の背中を追いかけた。
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