第13話 幕間の帰路

僕たちは暗い校内を抜けて、校門まで戻ってきた。

「今って何時?」

波留は誰というわけでもなく尋ねた。

「午前1時半になるところですね」

唯一の後輩が律義に答える。

「んー早く終わったような、遅いような…よく分からない感覚ね」

「時間も時間だし、眠くて頭が回っていないんだろ」

「やっぱりまともっぽいことを、ユウトが言うのは何だか気持ち悪いわね…」

「ぽいってなんだよ、ぽいって!さり気なく気持ち悪いとか言っているし!」

「あー、大きい声出さないで。頭に響く」

「くっ…」


「それじゃあ、今度こそ解散よ。明日も学校があるのだから居眠りとかしないように、早く帰って休むのよ」

地研メンバーは柚木さんの言葉に素直に従い、別れ際の言葉を交わす。

「柚木さん、今日はありがとうございました」

僕は三人が思い思いの方向へ歩き出したタイミングで柚木さんに小さく御礼を言う。

「なんのことかしら?」

当の柚木さんはとぼけている。

「今回の仕事、僕のために受けてくれたんですよね?」

「それは買いかぶりすぎよ。偶然仕事の話が来て、偶然最後の止めをあなたがさしたのよ」

「そうですか。なら今はそういうことにしておきます」

「ただ、みんなには御礼を言っておくことをオススメするわ」

やっぱり柚木さんは、なんだかんだで優しい。口では厳しいことを言いつつも後輩のことを心配してくれる。

そして、それに付き合ってくれる地研のメンバー達。

「あなたの状況はみんな知っているもの。大変な時は大変と言いなさい、嫌な顔せず助けてくれると思うわ」

にわかには信じられないことを柚木さんが言う。だが、今日の活動の様子から本当に柚木さんの言う通りなのかもしれないと思う部分もある。が、どうしても疑いの目を持ってしまう。

「そろそろ私たちを信じて欲しいわ」

柚木さんは、まるで心を読んだかのように話を繋ぐ。

「何を言っているんですか!僕は地研のみんなは仲間だと思っていますよ?」

「簡単なことだけれど、仲間だと思うことと信頼することは違うのよ」

僕は言葉が詰まる。

「かと言って、人の信頼なんて簡単に得られるものではないことも重々承知しているわ。だから、いつかあなたにも信じて欲しいっていうのが勝手な私の願いよ」

「…分かりました」

謝ればいいのか感謝すればいいのか分からず、曖昧な返事になる。

「みんなに大分置いて行かれてるわ。もう行きましょう」

柚木さんに促され、僕は歩き始める。


次の日は案の定、眠い目を擦りながら過ごすこととなった。

授業中に何度か意識を失っていたのだが、特にお咎めがなかったので良しとしよう。

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