第12話 いつもの非日常5
「愛紀!」
素手で打撃を流しながら愛紀は振り返る。
「ユウト!手が足りない、助けて!」
「見れば分かるって!」
愛紀は僕の返事に笑う。
割と余裕がある態度に、。
「お前、もしかして手を抜いていないか…?」
「そんな訳ないじゃん。もう彼女の攻撃を防ぐだけで精一杯だわー」
よそ見しながら避ける愛紀に呆れが出てしまう。
「今から僕も入るからな!」
「了解ー」
愛紀と怪異の戦闘に、僕も介入しようとタイミングを見計らう。
どことなく長縄跳びに参加する感覚に近い。
愛紀が意図的にか、一人分のスペースが空くのを僕は見逃さなかった。
怪異の懐に飛び込もうと小走りすると、動きに反応したのか髪の毛の一部が僕めがけて飛んでくる。
だが、攻撃は後ろから飛んできた波留のつぶてに阻止される。
何とか潜り込めたところで愛紀と呼吸を合わせる。
愛紀とは昔から組手などをしてきたためか、動きの癖や考えが読める。
愛紀が前に出る。
怪異は彼女に攻撃を集中させようと、僕を追おうとしていた触手の数を減らした。
流石の愛紀も至近距離では全てを受けきることが出来ず、二・三本の触手が身体を打った。
その僅かな一瞬、怪異は僕から注意を逸らした。
宙に浮いた愛紀を横目に、僕は怪異の元へと思いきり踏み込む。
僕に気が付いた怪異は、触手で攻撃しようとしするが間に合わない。
…実のところ、またベストなタイミングで氷塊と火炎が飛んできたためだ。
二人の援護により触手は消え去り、がら空きとなった胴体が目の前に現れる。
息を一気に吸い込み、踏み込んだ勢いのまま怪異の腹部に掌底を打ち込む。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
怪異は悲鳴を上げ、そのまま崩れ落ちていく。
「愛紀、大丈夫か?」
僕は地面に倒れた愛紀を起こそうと近づいた。
「まだ終わっていないんだから集中を切らさない!」
心配をされた当の愛紀は、顔を背けて手厳しく返してくる。
「はい…」
「でも、ありがと」
ボソッと愛紀は呟く。
「お?」
「何よ」
「声がちょっと小さいかなぁと思って」
無言で拳を振りかぶる愛紀。
「怪我人は大人しくしていろって!」
「その怪我人に無理なことをさせようとしているのはどこの誰よ?」
「うーん、誰だ?」
僕は腕を組んで考える。
「あんた、覚えておきなさいよ…」
「ほら二人とも。だから、ふざけてはダメよ」
後ろから柚木さんと波留が近寄ってくる。
「全く。あんた達は全然成長しないわね」
「柚木先輩!怒るなら、このロクデナシだけにしてくださいよ!私は被害者です!」
「それもそうね。後でそれなりの罰を受けてもらいましょうか」
愛紀と波留が、うんうんと頷く。
酷い!女社会の男に対する横暴だ!
とは、口が裂けても言えない…。
「余計な話はこれくらいにして…」
柚木さんは視線を僕たちから前方へ向ける。
その先には崩れ落ちたままの怪異が居る。
「もう夜も遅いから、パパッと終わらせない?」
波留は伸びをしながら言う。
「私も疲れたから波留ちゃんの意見に賛成ー」
地面に腰を下ろしたままの愛紀が手を上げる。
「はいはい、わかったわ。好き勝手を言う部員ばかりで、部長は大変よ」
溜息を吐く我らが部長。個性的過ぎるメンバーをまとめ上げる心労はかなりのものだろう。
かく言う、その部長自身も群を抜いて個性が強過ぎるのだが、その自覚はあるのだろうか…。
柚木さんは、首元から服の中へ手を入れる。引き出したその手には、御札が握られていた。
いや、どこにしまっているんだよ。
「さてと」
怪異の傍へと行き、柚木さんは御札を頭に貼り付ける。
すると、淡い光が怪異を包み込む。
小さな光の玉が、その身体からポツポツと浮かび上がる。
光の玉は御札にゆっくりと吸い込まれていく。
怪異の身体は、存在がなくなっていくかのように透明になっていく。
数分後、怪異は完全に消失した。
「これで封印は完了ね。今日のお仕事はこれで終わりよ」
光の玉が現れる様子は幻想的な光景で、地研メンバーは封印の間、ただ無言で眺めていた。
「よし!じゃあ、早く帰りましょう!」
「あなたってムードって言葉知ってる?」
柚木さんは僕をなじるように言う。
「もちろん知っていますよ…?」
はぁ…と言葉を吐き出す柚木さん。
「なんですかその反応は?」
「それは意図的なのかしら、それとも真正なのかしら?私には測りかねるわ」
「夏木、残念ながら後者よ」
「大変よね。私たち」
今度は二人そろって溜息を吐く。
一方で、愛紀は何の話をしているんだろうっていう顔をしているし、凜は我関せずといった感じだ。
「と、どこぞの使えない生ごみに呆れたところで、そろそろ帰りましょうか」
「そうね。なんか変なところで疲れちゃったし」
「あ。じゃあさ、今日の報酬は誰が貰う?」
座ったまま足をバタバタとする愛紀。
「最後に美味しいところを持って行った生ゴミで良いんじゃないかしら」
「私は問題ないです」
「私もそれで良いよ」
「仕方ないわね」
「お前ら…人のこと生ゴミとか言ってるやつが居るのに何も思わないのか…。いや、ありがたいけれどさ…」
「はい、これ」
柚木さんから御札を渡される僕。
「納める場所は大丈夫よね?」
「あー、あそこですよね。学校前の坂を登っていった」
「そうそう。今にも崩れそうなところ」
「了解です。明日にでも行ってみますよ」
「そうしてちょうだい」
柚木さんは部長らしく部員達を見回す。
「それでは本日の活動、もといお仕事はここまで。みんなお疲れ様」
労いの言葉をそれぞれが言い、僕たちの今夜の活動は終了した。
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