第3話  日常3

「やあ、冬真。学級委員の仕事は終わり?」

「え?どなたですか?部外者がここに居てはダメですよ」

「あ、やっぱり僕の扱いはそうなるのね」

一日部活をサボっただけで、この扱い。

なかなか心にくるものがある。

だって仕方がないじゃないか!

どうしてもやりたいゲームがあったのだから!

だが、正直な事を言ってしまえばどんな仕打ちをされるか…。

部内唯一の男子ということもあり肩身が狭いのだが、より一層狭くなってしまう。


「四季の跡取りならば、もう少し慎みを持ってください」

凛は僕の存在をそのままスルーし、騒ぎの元凶たる柚木さんと波瑠に声をかける。


四季とは、僕の住んでいるこの霞友市を代表する4つの家の総称だ。

愛紀の春葉家、柚木さんの夏木家、波瑠の秋音家、そして凛の冬間家。

それぞれの頭文字を合わせて春夏秋冬。合わせて四季。

この四家は互いに抑止力となり、古くから均衡を保ってきた。

と、最近地研のバックナンバーを眺めて知識を得た。

四季の政治的戦争は、時には血を流す程のこともあった。

その中に、一際目を引く逸話があった。

四季は最初から独立した四家ではなく、元は一つの一族だった。

この地域で長らく強大な権力と財力を持っていた母体が、何かをきっかけに四家に分離した。

だが、その元となる一族の情報が全く見つからないと先輩は綴っていた。

市で発行している地域史では、ある時期を境に四季が突如現れた。

そして、四家は最初から絶大な影響力を持っていたかのように市政や経済を支配していく。

そこからが長い因縁の始まりだった。



「でも不思議よね。私たち四季がこんな風に集まるなんて」

一瞬、空気が張り詰める。

波瑠が発言主の柚木さんを睨む。


「ま、まあ。でも、こうやって争いもなく平穏に暮らせるのは、本当にありがたいことですよね」

何故か部外者の僕が、必死にフォローに回っていた。

僕の気など知らないように、柚木さんの黒髪は風に揺られて気ままに動いている。

こっちの身にもなって欲しいものだ…。


もしあのまま話を続けていたなら、水面下の争いが表に出てきてしまっていたかもしれない。

折角、良い関係性になってきているのだから、どうにかそれは避けたい。

と、僕は勝手に思っている。


「そういえば今日の活動はどうします!?」

僕の思いを察してか、愛紀が声を唐突に上げる。

「どうする…って、いつも通りで良いんじゃないの?」

波瑠は気怠そうに答える。

「でも、そろそろ学校祭に向けて動いた方が良いんじゃないかな?」

「私は今年入部したばかりで、どれぐらい作業に時間がかかるのか分かりませんので、先輩方にお任せします」

「えっと…」

愛紀が助けを求めるようにこちらを見る。


「そうだね。今年は人数も居るし、少し力を入れてみるってのはどうかな?」

「まあ。ユウト君がそう言うのであれば、それでも構わない」

柚木さんは不敵な笑みを浮かべながら、こちらを見る。

「みんなはどう?」

僕は他の三名に話を振る。

「私は良いよ!」

「先輩方に従います」

「賛成多数なら、仕方ないでしょ!」

と、全員から了承を得る。


「よし!じゃあ今年は、今の内から動き出………」

「なら今日はひとまず終了ね」

「え…?」

僕の出足を挫く柚木さんの衝撃的な一言。


「あら、聞こえなかったの?今日は終了と言ったのよ」

「いや、たった今…」

「私は唯一の三年生で、部長」

柚木さんの笑顔は状況が状況なら惚れているレベルでキラキラしていた。

「ね?」

笑顔の圧力が凄い。

人の笑顔って、こんなに怖いものにもなるのか…。


「じゃ、じゃあ、今日は解散しましょう…」

プレッシャーに負け、降参してしまう。

「はい。それなら後は自由ってことにしましょう」

各々が了承の返事をする。



僕の精神力が無駄に減った時間だった。

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