第9話巨大豚登場

異世界で目覚めると肩に異変を感じた。

イタタタ、どうやら肩凝りしているみたいだ。左肩の内側が痛む。でも動作には支障は無い。


日記を見ると[コレは何かの間違いだ。陰謀だ!◯△〆……]後半は書き殴られて読めない。

パタン、日記を閉じた。相変わらずネガティブだな。


(いい天気だ。今日は豚を狩って巨大鶏の時の様にまた皆でパティーするかな)肩をほぐしながらそう思った。快晴の紫色の空が眩しい。



〜ギルドにて〜


ギルドに行くと男に話し掛けられた。頭はツルツルで50歳に届きそうな、だがたくまましい身体の男だった。

「今日も狩りに行くのか?」

『そうです。メンバー募ってクエスト受けようかと思っていたところです』



前回は成り行きだったけど今回はしっかり計画して行こう。



「豚?鶏?」

『豚です』

「良かった。俺も討伐に参加するよ」

『……そうですかよろしく』少しメンバーに加えるか考えたがコレもえんだ、加える事にした。

「鶏だったら逡巡しゅんじゅんしたけど豚なら安全だ」

『そうなんですか?』

「豚は大きいとはいえ襲って来ないからな。だけど巨体だから危険が無いとは言えないけどな。襲って来ない分だけマシだよ」

『それなら安心ですね』

「何人ぐらいで行くつもりなんだ?」

『余り参加人数が多過ぎると成功報酬の取り分が減るから8名ぐらいですかね?』

「よし。豚狩りに詳しい奴を探して来てやるよ。俺はツキオだ」

『仙です、よろしく』



ツキオは討伐メンバーを探しに行った。



丸いテーブルがある椅子に座っているとダイキとヒロキがギルドに居た。

「こんにちは仙さん、何かクエスト受けるんですか?」ダイキ

「こんにちは仙さん」ヒロキ

『おぉ、今回は豚肉が食べたくてね』

「豚狩りですか、俺達も行きます」


ダイキとヒロキが仲間に加わった。


頭の中で音楽が流れた。


ツキオは小柄な小肥りのおっさんを連れて来た。

「討伐経験者を連れて来たぞ。タナオさんだ」

「タナオです。よろしく」

『仙です』

「ダイキです」

「ヒロキです」


更に2名加わった。

「カズです」

「モズです」

2人共30歳ぐらいで痩せ身だ。

2人で来ていたので誘ってみた。



〜討伐メンバー〜

20歳ダイキ、ヒロキ

30歳カズ、モズ

50歳手前ツキオ、タナオ

90歳(中身40歳)俺


見事に年齢バラバラだな。



タナオの説明ではどう獲物を追い込んで行くかがポイントらしい。

捕獲用の特殊な網と道具はギルドで借りられるらしい。


作戦はタナオが立てた。

豚を捉える為の道具は電気ショックを与える魔石が付いた長い棒が借りられるらしい。

カズとモズは馬で来ていたので包囲の一番外側でショック棒を持って追い込む役目、

ダイキと俺とタナオは網を持って追い込み、ヒロキが魔法で援護と周囲の警戒をする。

城壁の壁には網を固定するフックが無数あるらしい。

城壁の上でツキオが鉄球でトドメを差す。


「落ち着いてやれば暴れる前に壁際まで押し込めるから慎重にやろう」

コクッ。コクッ。



ギルドの受付でクエストを受注してメンバーを記入。

ショック棒と網を受け取った。網が意外と重いな。


「頑張ってくださいね」受付の清楚なお姉さんが頬を赤らめて笑顔でエールをくれた。

『任せてください。今夜は寝かせませんよ』

「まぁ。豚祭り期待してますよ」

『行ってきます!』


周りからの期待の眼差しと妬みの眼差しを一身に受けて堂々と出発した。

カズとモズは馬に乗り、他は徒歩だ。徒歩組は網を背負い歩き出した。



門は鶏の時と違う門だった。

鶏の門番とは違う男女の門番が居た。


「お待ちしていました。聞いております」女の門番

「ツキオ様はこちらです」男の門番がツキオを城壁の階段に案内した。

ギルドから寄り道していないのにもう伝わっているのか。誰か早馬でも来たのかな?


「門の外側には半分放置気味ですが畑があります。豚はその野菜を食べているかもしれません」女の門番が説明した。


この子も鶏の門番さんとは違った魅力がある。顔が細くて美人系だな。髪も金髪ストレートだしな。


ギギギと門が開いた。

男の門番が城壁の上の部屋でハンドルを回している。

人と馬が通れる幅の鉄格子は閉まったままだ。

人は通れても大きい豚は通れない設計か、よく出来ているな。


ドキドキドキ


(大丈夫、大丈夫。できる、できる)自分に言い聞かせる。



門を潜ると、むわっと植物と土の臭いがした。

豚は見えない。目の前には小高い丘、左手には林と藪があった。


城壁からツキオが声を掛けた「しっかりなー!」

棒を挙げて返事をした。緊張して声は出ない。


カズとモズが丘の上まで馬を駆けた。

発見したみたいだ。カズが腕で大きく丸を作って合図した。

小走りでカズとモズの居る丘まで登った。

俺、タナオ、ダイキ、少し遅れてヒロキが登って来た。

ヒロキは相変わらず屁っ放り腰だ。


大きい豚が3匹呑気に畑の野菜を食べている。

高さ2m、横幅8mぐらいか。鶏に比べたら簡単そうだな。


タナオはスルスルと近くの木に登ってしまった。

「俺が高い所から指示するから追い込んでくれ」

一人だけ安全圏に避難して指示か?

作戦は何だったのか?少々納得いかないものの行くしかない。


ドキドキドキ


豚の配置は左側に少し離れて1匹、右側に畑の中と外側に1匹ずつ、こちらは豚と豚の距離が近い。


刺激しない様に歩いて近付く5人。カズとモズは馬でゆっくり。俺、ダイキ、ヒロキは忍び足だ。

大豚は一瞬、気が付いたが直ぐに餌を食べるのを再開した。


ダイキとヒロキ2人で網を直ぐに使える様に手に持って用意した。


「どうするつもりですか?」小声でダイキが聞いてくる

『まぁ見てろ』

畑のレタスもどきを右手で掴むと豚の側に放り投げた。

それを豚が気が付いて、食べている野菜を放って、投げたレタスに食い付いた。


ヒロキがレタスを集めだした。

やろうとしている事をぐに理解してサポートする、優秀だ。

ダイキもレタスを集め出した。

カズとモズも理解したようだ。豚を誘導する方向を開けて周りを警戒しだした。

良いチームワークだ。


ポイッ、ドサッ!ドドド、モシャモシャ


ポイッ、ドサッ!ドド、モシャモシャ


ははっ簡単だ。投げたそばから食い付いているわ。

所詮豚か、単純だな。

「慎重に!慎重に!」樹上から野次が聞こえる。


丘の上まで大豚を誘導出来た。

ここで餌で誘導するのはヒロキに任せて、ダイキと俺で豚のお尻から網で押す作戦にした。

『少し離しても大丈夫だから』ヒロキに指示した。

頷くヒロキ。


感覚を拡げて豚が食べると同時に順次レタスを置いた。壁まで続けた。

俺とダイキは強過ぎず弱過ぎず力加減に細心の注意を払いながら網で豚の尻を押した。


城壁まで到着した。


壁際まで来ても気が付かないので網を素早く上中下のフックに掛けた。

2mぐらいの高さのフックと1mぐらいの高さのフックと地面スレスレのフックに網を掛けた。


ビキィ?プギィ!プギィ!


『今だ!』

「任された」


城壁から鉄球を大豚の頭上に叩き付けた。ガン!


プギィ〜、、、


、、、ズーーーーン!巨体が一撃で気を失って横に倒れた。


「やった!」ダイキが叫んだ。

「やった!」ヒロキも叫んだ。

丘の上で警戒していたカズも「おぉ、凄い!」と感嘆の声が漏れた。育ちが良いんだろう素直な奴だな。


ツキオが城壁の上でドヤ顔だ。

タナオがいつの間にか側に居て、まるで自分の手柄の様に頷いている。

(お前何もやってないだろ、、)


その時、やぶの裏にもう1匹獲物が居たのをモズが見付けた。

馬で周り込むとやぶから壁の方にオドオドしながら出て来た。

高さ1.5mぐらいの一回り小さいサイズだったがこの豚は茶色かった。


カズとモズが電気棒で突っついて壁に誘導している。

ダイキは別の網を用意している。



誘導は上手く行きそうだったがある事に気が付いた、この豚には小さいながらキバがあった。

茶色い肌じゃなくて茶色い毛並みだ!

『あ、マズイ!誘導止めろ!』

一瞬何を言ってるんだという表情を2人が見せた。

もう壁際まで追い込んでいる。


『うり坊だ!』

カズとモズ、2人の顔が青ざめる。

ダイキとヒロキは網を構えているが、何の事か解っていない顔をしている。


その瞬間、やぶの中からけたたましい轟音ごうおんが響いた。

ブォオオオオオン!


ガサササ、薮の中から高さ3m、横幅10mはありそうな怪物の猪が鼻息荒く現れた!


ブヒン!ブヒン!右前足で2回地面を掻いた。


「早く!早くこっちへ!」門の側からタナオが呼び掛ける。

逃げ足早いな!いつの間に。


俺とダイキとヒロキの方に突進して来た。

猪突猛進ちょとつもうしんってやつだ。


ドドドドドド!ドン!ドン!地面が揺れる


巨大猪は俺をターゲットにした様だ。ダイキとヒロキの背中を押して駈けさせた。


避けきれない!腕を畳んで胴体にピッタリ付け衝撃に備えた。


ボン!


気持ちが良いぐらいの感覚で宙を舞った。


バシン!


左側頭部に衝撃が走って気が飛びそうになった。

猪の突進で跳ね飛ばされ壁に叩き付けられたみたいだ。


ズーーーーン!


そのまま城壁に突っ込んで城壁には小さな穴が開いた。


俺は壁際に崩れ落ちた。一撃でやられるとは不甲斐ない。

もっと力が欲しい、、、


うり坊が逃げて行く。


衝撃で網が外れ、気が付いた大豚もブギブギ言いながら逃げて行った。


怒れる猪の化け物はドスドスと距離を取ると俺にトドメを差す気マンマンだ。

城壁の上ではツキオが必死に猪を制止しようと騒いでいる。

大猪は右足で地面を掻きだした。


起き上がれない。


これで終わりか。


呆気無かったな。


良い人生だった、、とは思えんな。せめて彼女をつくりたかった。






『あーワンちゃんだ!』


(ワンちゃん?猪だろ?)


気を失い掛けていたがわずかに目を開けると確かに黒い犬が居た。

ん?隣に大きい犬も居るな。親子か?


子犬に抱きついているのはまたあの子か。

人生最後の夢か、、、




『ハチミツ食べるー?』幼女の声がした。


身体を起こして猪を見ると何故なぜ硬直こうちょくしている。


犬を見ると大きい方が身体を起こして人間が胡座あぐらをかく様に座ってハチミツの瓶を舐めている。



熊だった!!




親熊が猪を一瞥すると猪は慌てて逃げて行った。ドドッドドッ……。うり坊も続いて逃げた。ドドッ。


助かったのか?


身体を起こし、ふらつきながら立ち上がった。



親熊が幼女を左手で優しく俺の方に行くように促した。

幼女が熊に振り返ると親熊が優しく微笑んだ気がした。

『ワンちゃん、バイバイー!』満面の笑顔で熊に手を振って駆け出した。



頭上ではツキオが驚き過ぎて絶句していた。


壁に手を掛けて門までもえちゃんと並んで歩いた。


ふと畑を見ると、西瓜すいかに大きな爪痕つめあとが残っていた。


門を通るともえちゃんは街中に走り去った。門番が心配そうに駆け寄って来た。




この後は思い出したくないな。


ギルドに戻り失敗の報告をして軽く反省会をして解散した。


家に戻り寝床に着くと悔しさが込み上げてきた。


強さが欲しい!強さが!


顔に手を当て声を押し殺しながら泣いた。涙が止まらない。


強さだ!強さが要る!




……やがて深い眠りに着いた。


夢を見た。プロペラ機で空を飛ぶ夢だ。


夢の中で誰かが[虎徹こてつ]と言った。


〜9日目終了〜

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