第8話天使教

虹色の朝日と清々しい風で目が覚めた。

今日も異世界は心地良くて素敵だ、、、




、、、ここが牢屋では無ければな。



前回、放火犯で捕まってまだ投獄されたままでした。

シクシクシク……。


狭い二畳程の部屋にトイレが付いている。

酷い環境だ、家賃いくらだ?

隣の部屋の住人が衛兵と何か騒いでいる。


「神を信じよ!不埒者ふらちもの!!」

「えぇい黙れ!天使教はこの国では禁止だ」

「何故いけないのだ、お前の為だと言うのに!」

「貴様が皇帝陛下を侮辱ぶじょくするからだ!」

「人は神の下で平等だ!お前も救われるべきなのだ」

「お前に救って貰わなくても結構だ!問題無いわ!」

「神は万能であり全治であり絶対なのだ!」

「だから皇帝陛下の命令は無視して良いとでも言うのか?」

「神の意思に反する事ならばやむを得ないではないか」

「馬鹿め、我々が皇帝陛下の命令を聞くのは、聞きたいから聞いているのだ」

「神に逆らうつもりか!天罰が下されるぞ」

「命令を聞かないぐらいで天罰を落とすのか。矮小わいしょうな神様だな」

「何だと神への侮辱ぶじょくは許さんぞ」ガシャン!

「皇帝陛下は我等われらに愛をくださる、お前の神様とやらが愛をくださるとは思わん」ガン!

「馬鹿な神の愛が感じられないのはお前の心が荒んでいるからだ」

「うぅ、お前とは話にならん!かく、天使教は禁止されている。初代の執政官が決めたのだ、我々はそれに従う!」


カツーン、カツーン

看守はどこかに行ってしまった。


「救いようの無い奴だ、そうは思わんか、隣りのお人よ」

(うぇ、コッチに話し掛けて来やがった)

『えぇ。でも宗教は押し付けるものでは無いのでは、、、』

「馬鹿な!間違っている者を正してやる事のどこが悪い!?それが正しい事ならば良いであろう!」

『えぇ!?』

「教えを受けた者の魂が救われるのだから強引にでも構わないのだ。善い事だからな」

(宗教の押し付けが正しい事だと疑わないみたいだ……)

『はぁ、そんなもんですか』

「何だ張り合いがない奴だな」

『スイマセン』


「お前は何をやって捕まったんだ?神の前で懺悔ざんげすれば報われるぞ」

『いや〜、行き違いと言いますか。ワタクシは何もしていないと言いますか、、』

「愚かな人間よ。己の罪をみつめてい改めなさい。さすれば救われるだろう」

カン!看守が警棒で牢屋を叩いた。

「おい!余計な事を吹き込むな。爺さんお前は釈放だ」

『え?何で?』

「知らん、かく出て来い」ガチャリ、キ〜

小さな鉄の扉が空いてかがんで出た。


隣りの部屋で捕まる時に預けた物を返してもらった。

驚いた事に仕込み杖まで返却されるとは思わなかった。

よく分からない書類にサインして無事、監獄を出た。




シャバの空気は美味い。圧倒的開放感!大きく息をするのも、公園で寝転ぶのも自由だ。

好きな所へ行き、好きな物を買い、好きな景色をながめる。それだけの自由に少し感動した。


それにしても何もしていないのに逮捕されるとか権力とは恐ろしいものだ。

なるべく関わらないようにしよう。



芝生広場で寝転がって心を癒していると新しい診療所の噂を聞いた。

男達が何やら真剣に話している。

「あの診療所は天の国からきた方が貧しい人には無償で診てくれる場所らしいぞ」

「本当か?オラの目も治してもらえるのか?」

「あぁ、視力が落ちてきているのだろ?診てもらえ。場所は海の側だ」

「確か名前はヘップパーンとかへパーンとか言ったかな?早速行ってみるよ」


(なぬ?ヘップバーン?オードリーヘップバーンみたいな美女の女医か?これは癒して貰わねば!)


起き上がると小走りに浜辺に足を向けた。

そこは銀杏並木の通りにあった。1つだけ雰囲気の違う建物だったので直ぐに判った。

ガラス張りの建物に何かとクリスタルみたいな宝石を散りばめている。


診療所の窓からコッソリ覗くと患者とこちらに背中を向けている人が居た。真っ白な羽根が見えた。背中に生えているみたいだ。期待がふくらむ。

おぉ!天使か、顔が見え、、、




、、、もみあげがモッサリしたおっさんが振り返った。鼻が高く彫りが深い。


ガラガラガラ……精神の壊れる音がする。



フラフラしながら噴水広場に行くと人集りが出来ていた。

背中に白い羽根が生えた黒い服装の男が噴水のふちに立って何やら演説をしている。

周りの人集りは農民かな?麦わら帽子が似合う。


「ヤーウェを信じなさい!そうすれば貴方の魂は救われます!」

「本当だか?オラも救われるだか?」

(素朴な農民達だな、半分信じてる顔をしてる)

「そうです神は万能にして絶対です。信じる者は救われ天国で暮らせます。信じない者は地獄に堕ちて苦しみます」

「じ、地獄に落ちるだか?」

「そうです信仰の無い者は地獄行きです」

「オラの祖先はどうなるだ?信仰していないから地獄行きだか?」半分泣きそうだ。

「残念だがそうだ、だが貴方あなたは救われます。ワタクシに出会えて救われるのです。さぁ神を信じなさい!ヤーウェに祈りを捧げなさい」少しドヤ顔が目に付くな。

「ならオラは地獄でいい。オラの祖父も祖母も神様を知らなかったから地獄に居るだ!」

「え!?、え!?」


やれやれと言いながら聴衆は散開していった。

牧師は一人ポツンとたたずんでいた。



ケバブもどきを屋台で買って食べると浜辺を散歩した。

浜辺の岩に腰掛けて異世界の海を眺めて居ると、もみあげの天使が横に来て話し掛けてきた。


「ここは美しい国ですね。でも眼病に対する治療が全く行われていない」

『そうですね。目の痛みは仕事が何も手に付かなくなるぐらい辛いですからね。みんな、貴方には感謝していると思います』

「ワタシはこの国の人々を治療していますが本国から役目も与えられているんですよ」

『そうですか』

「……」

『それが苦しい事なのですか?例え、何であろうと貴方がしてくれた治療はぜんでしょう?』

「治療は無償で行なっていますが、必要なお金は何処から出ていると思いますか?」

『それは、、』

「その役目を果たす代わりに本国から出して貰っているお金なのです。貴方あなたも将来考えさせられる時がくるでしょう」

『……』

「その役目の代わりに自由にやらせてもらっています。でもそれも終わりにしないと」

『その役目は悪なのですか?』

「……その答えは外の国を見て判断してください。ワタシは妻の看護があるので、それでは」

頭を軽く下げ帰って行った。


外の世界か、、、


〜8日目終了〜


ある宣教師が本国に宛てた手紙の一部が残っている。

「もうダメだ。この国は手強い。喫茶店のウェイトレスでさえ字が読める。彼等かれらと話せば話す程、私達が信じていた教義に矛盾が生まれる。仲間の宣教師の多くも棄教した。 この国は[宣教師の墓場]だ!」

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