第7話魔法の杖と災い

前回はえらい目にあった。

疲れ過ぎて洞窟の中で現世に戻っちゃうぐらいだったな。


現世が夢で異世界が現実か?

異世界が夢で現世が現実か?


「我々は今夢を見ているのかもしれない」

「もしかしたらそれも夢で、夢を見ている夢を見ているのかもしれない」

昔の哲学者がそんなアホな事を言ってたな。

夢の中であっても生きる努力をするだけで何も変わりは無いがな、、


それにしてもアレは流石に夢だな。洞窟で見た

イルカとたわむれる少女、、癒しを求めているのか?俺。


石版で観た映像の言語は欧州の何処かの国の言語に似ていたな。

帰りに本屋に行って調べてみるか。



ビュウ、、やや冷たい風が吹き抜けた。



そろそろ上着が必要な季節だな。気温も下がって風邪をひきそうだ。

今日もしっかり働いた。帰り仕度を済ませヘルメットを腰に付け歩き出した。


街は仕事帰りのサラリーマンや労働者で溢れている。

皆どんな気持ちで歩いているのだろう?


俺のように夢叶わず、その日その日頑張って生きるしか出来ないのだろうか?

あの異世界に行けるのは今のところ俺だけだろうけど、皆にも見せてあげたいものだ。


おっと本屋だったな。本屋寄らないとな


〜現世の本屋にて〜


キョロキョロ


あ、この辺かな。

ん〜、欧州だと思うけど英語っぽくは無かったな。

あ、これかな?オランダ語


もしかしてコレ持ち込めるのか?

思い付きだけど実験する価値はあるな。


早速、オランダ語の辞書を購入して帰宅した。

辞書を腕に抱いてMUSOUを飲んでダイブした。


〜異世界にて〜


目が覚めると辞書を探した。

部屋の隅に開いた状態でうつ伏せに落ちていた。

『やった!異世界に持ち込めた!』


こちらに来た拍子に吹っ飛んで部屋の隅に投げ出されたみたいだ。

ほこりだらけだ。少しは掃除しろよ。

少し本が痛んだけど上手くいったな。

本を拾い上げなながらほこりを叩いた。

後で学問所に持って行ってあげるかな。


家を出て紫色の空を眺めた。ここが異世界だと改めて実感した。

ガラスの階段を降り、噴水広場の階段を登り、林道を抜けた。

今日はゴブリン達は居なかった。


〜雀街91にて〜


学生達が男女のグループをいくつも作って雑談している。青春だな。

老人のグループも居る。

おばさん達も井戸端会議をしている。


「あ、こんにちは」背後から声を掛けられた。

『あ、スエキチ君、良いところに。今日は君にコレをあげようと思って持って来たんだ』

「サトキチですよ」

『そうだっけ?はい』オランダ語の辞書を手渡すと

「こ、コレは辞書!?天の国言語の!?良いんですか?こんな高価な物を」


ん?高価なのか?辞書が。現世でも価値があるから安くは無いけど、

異世界だったら高級品か〜、なら売り付けるか。


『やっぱり、、』

「ありがとうございます!大事に使って勉強します!」早口で言って駆け出した。ダッ!

チッ心変わりを悟られたか。サトキチ君はオランダ語の辞書を両腕で抱えて脱兎のごとく逃げて行った。


〜街中にて〜


ブラブラ歩いていると懐かしの立ち飲みバーに行き着いた。

懐かしと言ってもそれ程、日にちは経って無いけどね。


一杯やって行くか。

時間が早過ぎたみたいだ。閉まっていた。


ふと背後に紫色の液体が滴る木を見付けた。季節毎ごとに変化するのかな?

そこは現世と一緒だな。紫色の液体が木全体を覆っているのは異世界だけ〜だけどね。

なんだか毒々しい気がするのは気の所為せいか?


「あ、お客さん。この間、杖を忘れて行きましたよ」バーの店員に呼び止めらえた。

『え?』記憶に無かった。

「酔ったお客さん達数人に担がれて来た日ですよ」

(そう言えば家の前で杖を拾ってガラスの階段を叩いて渡った記憶がある)


バーの店員が店の奥から杖を持って来て渡された。


「この杖凄いですね。仕込み杖って言うんですか?」

『え?』

「ほらココのボタン」

『何だコレ??』カチッ

ボワッ!『オワッ!?』「うわっ」

一瞬、杖の先端から火の玉が出て空中で消えた。


『危ないな〜。コレは封印だな、家事になっちゃう』

「凄い!炎だ」店員


その時近くの老人が声をあげた。

「火は災いを呼ぶ!軽はずみに点けてはならん!」

災いが何かは知らないが『そうですね、スイマセン〜』と言って杖を左上に引いた。

ん?重い。


ブラ〜ン、幼女が杖にぶら下っている。


カチッ!


ボワァー!


『キャハハハ』


また君か!もえちゃん!


『キャハハハ』


ピョン!飛び降りると満面の笑顔でお友達の所まで走って行った。


(ん?焦げ臭い)

背後で音がする、パキパキパチパチパチ……おわっ!?紫の木が燃えている!


ビー!ビー!警報音が鳴り、ガランガラン!ガラーン!鐘の音が人々に火事を伝えている。

(やっちまった)『水、水』オタオタする。


ふと横を見るとひかる君が炎をみつめている。

ひかる君が炎に魅入みいられている。

「大変だー!燃えているー!」誰かが叫んだ。

『コレが燃えるか!凄いな』ひかる君が呟く。


炎を見過ぎると目に悪いので見ない様に後ろを向かせた。


何か嫌な雰囲気がして空を見上げた。

モクモクと黒煙が立ち登る。黒煙は空中で留まり1ヶ所に集まって行く。

空に魔法陣が現れたと思ったら、

黒い煙の中から何かが飛翔して来た。バサッバサッ!


黒い3つのかたまりがひかる君目掛けて上空から遅い掛かって来た。

杖から手を離して、ひかる君の前に回り、抜刀し、先頭の黒い塊を力任せに叩き落とした。


バシッ!ギョ!黒い塊が地面に激突した。

パタン、同時に杖が倒れた。


残りの2体は左右に散った。バッ!バッ!


ギュワ!ギュワ!滑空し家の屋根に停まった。


黒い塊を見ると大きな黒い鳥だった。

恐竜の図鑑で見たプテラノドンみたいだ。

他にも何体も召喚されて侵入されたみたいで辺りはパニックに陥った。


「ワイバーンだ!」誰かが叫んだ。


コレが災いか。街中でいきなり戦闘になった。

偶然近くに居た冒険者達が武器を手に戦いだした。

鉄球で怪力で戦う者、槍で勇敢に戦う者、剣で戦う者、弓で戦う者はへっぴり腰だ。


足元でバタつく鳥にトドメの一撃を真上から加えた。


再び右側から滑空してくちばしをひかる君に伸ばしてきた。

間一髪ひかる君をかばってかわす。

『痛っ』

左肩を足の爪でえぐられた。

ブン!

離れぎわに刀を振るが空を切った。

もう1匹を見ると慎重で襲って来ない。


『走れ!』


ひかるを促して一緒に建物の陰に走った。

背後から迫る2匹のワイバーン。


建物の角を右に曲がり通路を逃げる。

ワイバーンは右旋回して追い掛けて来た。

旋回性能も高いな。


1匹が嘴で頭を突っついてくる。

振り向きざまに刀を振るも逃げながらでは腰が入っていなかった。躱された。


もう1匹に前に回り込まれた。


一本道で前後をお抑えられた。

逃げ道は無い、絶対絶命!


ひかるを壁際に左手で押し付けて屈ませ、右手の刀をワイバーンに向けた。


ガキッガッキッ


刀がくちばしに挟まれる。

その時頭上で音がした。

ガチャ、ガン!ドサッ。


巨体が地に落ちた。

見上げるとフライパンを持った女性が震えている。

窓を開けて助けてくれたのか。


もう1匹が女性に向かって突進して来た。

きゃあー!


『させるか!ウラァー!』

下から全力で突き上げると思いの外ワイバーンがった。

見た目に反して軽いみたいだ。


ひかるが飛び出してワイバーンに飛び付いた。

いきなり勇気を出されて吃驚びっくりした。


しかし、ひかるが逆に邪魔になり刀が振れない。

ロデオボーイよろしく振り回されるひかる。


ドサッ。振り落とされた。


チャンス!刀を頭上に持ち挙げ、袈裟斬けさぎりに振り下ろすもわずかにかわされた。

ワイバーンが逃げようとした瞬間、白いシーツがワイバーンにかぶさった。


もがくワイバーンにシーツの上から数発、刀で叩くと大人しくなった。


3階のおっさんが親指を立てて笑顔を向けてくる。シーツを落としてくれたのか。

『ありがとう、助かったよ』

「おうっ」

『お姉さんもありが、、』

『女性は僕が守る!騎士になって守るよ』

ひかる君は女好きだな。さっきまで震えてたのに女性の為に頑張っちゃう性格みたいだ。


何とか3匹退治出来た。

大通りに戻るとまだ戦闘中だった。


敵は空を飛ぶのが厄介だな。


棍棒を持った冒険者が家の屋根に停まったワイバーンと退治している。

戦闘の後がそこかしこに見受けられる。弓矢が落ちていたので拾って弓を番えた。

ワイバーンに狙いを定めた。

ワイバーンが一瞬硬直する。知能が高いな、危機を感じ取ったか。

『喰らえ!』バッ

弓はあさっての方向に力無く飛んだ。ヒョロ、、弓って思ったより難しい。

「ぎゃぎゃぎゃぎゃ」

ワイバーンに笑われてしまった。

落ちていた杖を拾ってボタンを押す。

ボワァ!

ワイバーンが火に包まれた。ザマアミロ。


バタバタ、、パタッ

羽根が焦げて穴が空いたので上手く飛べなくなったみたいだ。

地面に落ちて冒険者に退治されている。


ダカッダカッ!

警備隊が駆けつけて来た。

コレでもうひと安心だろう。




ガチャン!




そして俺は放火犯として投獄された!

牢屋の鉄格子を握り締め、同じ境遇になったら誰もが口にするであろうセリフを吐いた。




『俺は無実だーーー!!』




〜7日目終了〜



貴族が集まって皇帝陛下の前で御前会議が開かれた。

ワイバーンとの戦闘に手こずった事により

航空戦力を研究開発するべきではないかと話し合われた。

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