第5話学問のスズメ

ドドドドド!

気温が落ち着いてきた今日この頃、俺は道路を砕いていた、、

と言っても現世でだ。


朝からの小雨が本降りになってきた。

コリャ仕事にならん。現場監督の指示で作業が中止された。

アスファルトはゆっくり冷まさないと強度がでないらしい。


そう言えば前回の異世界で店員が「今日は雨の日だから…」と言っていたが降ってなかったな。

雨宿りしているとパタタッと2匹のスズメがやってきた。


スズメ、


ススメ、、


何か思い付きそうだったが思い付かなかった。


チュンチュンと仲好さそうだ。コイツらもカップルか。

顔を上げると学生カップルが1つの傘で相合傘をしているのが目に付いた。

その鞄の中には絶対、折り畳み傘入ってるだろ?


『そうだ!学生に成って彼女を作ろう!』仙


ダッ!


善は急げ。速攻で帰宅して異世界にダイブした。


〜異世界の自宅にて〜


スゥッと目が覚める。起き上がって部屋を見渡すと石版が増えていた。

『人は知らない方が幸せである』と書かれていた。


引き出しに仕舞ってあった日記に

『泥棒に入られた。地下の秘密のワインセラーがやられた』

『ゴッソリ持って行かれた。ちくしょう!』と書き殴られていた。

この世界にも泥棒が居るんだな、夢が壊れるから見なかった事にしよう。

そっと日記を閉じた。


壁に立て掛けておいた刀を腰に差し、家を出た。

家の外のマリモが今日も緑色でテカテカ輝いている。


そうだ門番さんに聞きに行こう。

(そして少しでも親密に成ればワンチャンあるかも)


テクテクと城壁を目指して歩いていると

「あ、良いところに」と呼び留められて振り向いたら武具屋の店員だった。

『…』仙

「嫌そうな顔をするな、ちょっと手伝ってくれ」店員

リヤカーを押しながら頼み事をしてきた、、

『何ですか?』仙


店員には兜と鎧の件があるから無下には出来ない。

刀は何も聞かれ無いのでそのまま持っていた。

店員に連れて行かれた場所にはレンガ造りの3階建の細長い建物が3つ並んでいる。

その内の1つの建物に入ると鉄の柵をした窓口に初老の爺さんが居た。


どれだけ治安が悪い場所なのかと思ったが横から簡単に出入り出来るので

単なるデザインだろう。


初老の爺さんが重々しい鉄の扉に鍵を挿し、回すと鉄の扉はギギギと重厚な音を立てて開いた。

扉の奥は地下へと続く階段だった。ヒヤリと冷気が流れ込む。

壁と天井には薄っすら光る苔みたいな植物が付いていて暗くはなかった。


2人は先にスタスタ進んで行く。俺は気味が悪いので一瞬躊躇したが後から階段を降りた。


直ぐに奥から光が漏れていて、広い部屋に出た。

その中央には木箱が幾つも置かれており、地面には魔法陣が描かれていた。


店員が言うには魔法の札を買って欲しい商品を書くと数日後に魔方陣を通して送ってくるらしい。


『魔方陣を通すのに数日掛かるんですか?一瞬じゃないの?』仙

「魔方陣の移動は一瞬でも向こうで用意する時間があるからな、そんな事はどうでもいいから運んでくれよ」少しイラッとしたのか口調がキツイ。


おかしい、さっきまで肉体労働していたのに異世界でも肉体労働だ。

店員は何処からか連れて来た馬にリヤカーを括り付けている。


10分程汗を流した。

運び終えて少々腰が痛む。


〜学問所への道〜


学問所が多く集まる集落は雀街(スズメガイ)91にあるらしい。

番地を言われても分からんが噴水広場の階段を登って行くらしい。


芝生広場のお店で小さめの皮で出来たリュックを購入し、

噴水広場で食料と水を補給して意を決意して階段に足を掛けた。


階段を登り振り返ると街が見下ろせた。息が切れる。ハッ、ハッ。

カメラがあれば写真を撮りたいものだ。

街並みは美しく均整が取れている。


大階段には平らな部分も多く、そこで絵を描いている人を見掛けた。

若い小柄な男性で口元にはちょび髭があった。ベレー帽が似合っている。

しかし、思い悩んでいるのか、あまり筆は進んでいない様子だ。


山の尾根を行けば学問の集落に着くらしい。

階段の上の建物の隙間から抜け出ると林道に出た。


背後から風がソワっと吹いて少し悪寒がした。

転移場の爺さんに「林道は変なのが出るから気を付けろよ」

と言われたのを思い出した。


林道の横に10名程の目つきの悪いおっさんとおばさんの団体を見掛けた。

木の椅子を持ち込んだりタオルを首から掛けている者もいた。

手には棍棒、センスの無いドドメ色の服など。よく見ると茶色と緑色の身体だ。

通る人を待ち構えているんだな。


(あ〜嫌だ嫌だ、絡まれるな)


「はいはい止まってね〜」おっさん1

「何処に行くのー?」おっさん2

と矢継ぎ早に言ってくるので、中年サラリーマンの特技[チョップで行きたい方向を空けて謝りながらさり気無く通る]を実践。『すいませんね〜すいませんねー、ちょっとすいませんね〜』仙


数メートル進んだ所で気付かれて

「待てや!」おっさん1

バタバタバタ

「検問で〜す」おっさん2

「顔見せろや」おっさん3

追い付かれて再び囲まれた。


我慢出来ず『何の権利があって検問なんか勝手にするんだ?』とボソッと言ってしまった。

火に油を注いだみたいだ。


「ああ″〜?」

「俺たちゃこれがシゴ、、ごちゃごちゃうるせぇ」

ひざまずけ!」

おっさんゴブリンに背後から右肩を掴まれて引き倒されそうになった。

幸い、身長が俺の方が若干高いので踏ん張れた。

おっさんの手を右肘で払い除けたら左側から棍棒で殴り掛かってきた。

「うらっ」

サッ

おっさん運動不足じゃないのか?鈍かったので簡単に右斜め前に避けられた。


ドキドキドキ、心拍が上がってくる。


こっちは何も悪くないのに理不尽に絡んでこられて少々怒りを覚える。

しかし、怪獣を相手にするのとは違って切れ味抜群の日本刀で戦う訳にもいかない。

側にあった木の枝を使うか。

木の枝をカットしようと柄に手を掛けた瞬間、


「あー!一般人が襲われてるぞ!」と少し離れた場所から声がした。

見るとこちらも10名ぐらいの団体で皆、布で顔や頭を隠している。


戦闘になるのかと思いきや、その後は言い争う罵声が飛び交うだけだった。

どうやら先に手を出した方が負けらしい。

俺の場合はどうなるんだ?手で払い除けたのが初撃か?


相手にしてられんわ。コッソリ逃げ出すか。ドキドキ。


ダカッ!ダカッ!通報を受けた馬に乗った警備隊が来てお開きになった。

「何をしているか!人様に迷惑を掛けるな!」警備隊員

警備隊の姿を見ておっさんゴブリン達は散り散りに逃げて行ったので

顔を隠した団体も居なくなった。


警備隊は甲冑をきらめかせ颯爽さっそうと帰って行った。


ハァ、膝がカクカクする。荒事あらごとは慣れないな。


クイクイ、目の端で服を引っ張る小さい手が見えた。

『ねぇねぇ、猫ちゃんにご飯あげるから、お弁当ちょうだい』もえ

またこの幼女か。何処にでも自由に現れるな。

精神的に動揺していてひと呼吸入れたかったのでリュックからケバブもどきを取り出してもえちゃんに渡す。『はい』仙

『ありがと〜』満面の笑みだ。


草の影に木箱に入れられた子猫が1匹居た。

真っ白で所々に黒い線の模様がある。


その猫を2人の幼女が面倒をみているらしい。

おや?もう1人はひかりちゃんか。


『グルル〜じゃないよ、ミャーだよ』もえ

「そうだよね〜、お腹空いてるんだね」ひかり

ミャ〜ミャ〜ミャ〜、幼女達が猫の鳴き真似をしている。

子猫に可愛い鳴き方を教えているみたいだ。


『はい、お食べ』もえ

ケバブもどきを少し千切って猫に与えていた。

生まれたての子猫で余り食べられないみたいだ。


「どうじょ」ひかりちゃんが鞄から水筒とコップを出してミルクを与えていた。


ペロペロペロ、ミュー!ミュー!美味しいみたいだ。


もえちゃんがケバブもどきを半分に割ってひかりちゃんに手渡すとパクパク食べ始めた。

あれっ?自分達で食べちゃった。


『可愛いね〜』もえ

「可愛いね〜」ひかり

『白いね〜』

「白いね〜」

『お目めキレイだね〜』

「そうだね〜」

『水色だね〜』

「水色だね〜」


道端に生えていたネコジャラシっぽい植物を引っこ抜いて幼女に渡すと猫をあやして遊んでいた。


『飼うんなら家の人に言うんだよ〜』と忠告した。

『はーい』もえ

「は〜い」ひかり

幼女達は猫の箱を抱えて街に降りて行った。


林を抜けると目当ての集落を見付けた。

長方形の石の部屋が乱雑に積み上げられている。

ビルをフロア毎にカットして適当に置いたデザインだった。

役所みたいに扉は無く開放的だ。そこに木の階段や木の通路が張り巡らされていた。


中央の花壇にはスズメのイラストで案内が書かれている。


歴史学、背を伸ばす方法、金銭学、人と緊張せずに話す学、建築学、

整体学、調理学、、何でも[学]を付ければいいと思ってるのか?

剣術学、魔法学、天の国の語学まで興味が惹かれるものもあった。


老若男女が行き交っていて中々盛況だ。皆、勤勉だな。


整体学を除いてみた。其々の部屋には扉は無く誰でも入れるみたいだ。

ちょうど講義中で壇上の先生らしき人が

「腰痛の原因は腹筋と背筋のバランスが崩れた時に起こる」

「腹筋を使い過ぎてパワーアップしたらバランスが崩れて背骨が引っ張られて神経に触れて痛むと考えられており対処方は使っていない筋力を筋トレしてあげるべきだ」と語っていた。


ふむふむ、中々役に立つな。中学校から段々と学校が嫌いになってきた俺だけど本当に役に立つ教えや仕事に直結する授業だったら歓迎だな。


魔法学の教室はかなり奥だったので[天の国語の授業]を受けに行く事にした。

探しながら歩いているとボロボロの小さな看板が路地の奥を指している。

気が付かずに通り過ぎてしまいそうになるな。

不安になりながらも教室というか道端というか、に入ると生徒は2人しか居なかった。


80歳は超えていそうな爺さんと10歳ぐらいの子供が熱心に紙に何やら書いてメモしている。


「天の国語には様々な種類があり〜、それは大昔に派生して〜、歴史が〜、言語が大分違う〜」云々。

あ〜欧州の言葉みたいなものか面倒だな。欧州の言語も統一して欲しいものだ。


「天の国には我々が見た事も無い空を飛ぶ生き物に人が乗って生活しているそうだ〜」

「お〜」子供が一人で興奮している。


「天の国の誰某は〜」


すすす、、話が長くなりそうだったので教室を後にした。

語学の勉強ではなく語学の歴史についてだったな。


教室を出て近くの岩に腰掛けて水筒の水を飲んで休んでいると先程の子供が出て来て話し掛けてきた。

「先程、教室にいらした方ですよね?」やけに丁寧な口調の子供だな。

『えぇ、まぁ』仙

「あ、わたくしサトキチと申す者です」深々とお辞儀をした。

『あぁ』仙

一瞬名刺を出されるんじゃないかと錯覚した。何だこの子は、新橋に居るサラリーマンか!?

「貴方様も天の国に興味がおありですね?」『え』「天の国は〜!」『ちょ』「天の国の人々は〜!」『まっ』「天の〜ペラペラ〜!!」『あの……』


一気に捲し立てられタジタジだ。


「でも語学を習得するには洞窟の奥深くの石版まで行かないといけないんですけどね」とシュンとした。

ん?語学を習得するのに冒険が必要なのか??


『そこのところを詳しく』仙

「え?子供だから洞窟の奥まで行けないってところですか?」サトキチ

『いや、言語を習得するのに石版がどうたらこうたら』仙

「あ、その事ですか。何か技術を得る場合、石版の力を使って取り込むんですよ」サトキチ

『ふむふむ』仙

「そうする事で地道にコツコツ覚えるよりも一瞬でマスター出来るアイテムなんです」サトキチ

『ほほう』仙

「もっとも語学の場合、辞書も碌に無いので石版に頼るしか無いのですが、、」サトキチ


いい事を聞いた。次回は洞窟を探して行ってみよう。

語学をマスターしたらモテモテに成れるな。


雀街でレストランに入って食事を済ませた。

レストランは港街よりも半額ぐらいだったな。

味はやや落ちるな。


帰宅


〜5日目終了〜

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