第4話強制労働

入れ替わりにも慣れたものだ。

今日も爽やかに異世界で目覚めた。


背伸びをして部屋を見渡すと窓から光が差し込んでいた。

壁に立て掛けて置いた刀に光が差している。


人を助けたんだな〜と思い返す。


嬉しかったけど、助けた子供の親とかから涙を流して「ありがどうございます〜」とか言われて、

『フッ、大人として当然の事をしたまでデス』と名も名乗らず格好良く立ち去る、、、

何て事は無かった。


まぁ良いことをしても、そんなもんだよな。

『感謝されたいから助けた訳じゃないからな〜』と強がってみる。


それにしても巨大生物と戦ったり、少しだけだったけど魔法も見れたしな。

この世界はワクワクするな。


子供の頃にやっていた剣道をもう一度、本格的にやってみようかな?


壁に立て掛けてあった刀を手に取り、刃を上に返しスラッと抜刀した。

鞘はズボンが紐で縛るタイプだったので左腰に差した。

左手はしっかり握り、右手は軽く添える。足は右足が左足の少し前。

肩の力を抜き正中線で構える。刀の鉄の重さが伝わってくる。


『ちぇすとー!!』


一歩踏み込んで縦に刃を振り下ろす。


ビュッ!空を切り裂く音が軽快にした。

刀の重さにグッ力を込めて刀を止める。

刀を返し左肩の上まで持ち上げて今度は左上から右下へ振り下ろす。


『せいや!』


グッと刀を止める。

右手を離し、左手だけで右から左へ振る。


『フッ!』


調子に乗ってランダムにかつ、いい加減に振り回す。

(拙者は剣豪=宮本武さ、、)


カチャン


軽く軽快な音がした。窓の一部が小さく割れた。


『あっ、、』


『……』


『……』


そっと透明なジグゾーパズルを窓に嵌めて、何事も無かったと言い聞かす。


『今日もいい天気だな〜』

独り言を言って街に出掛けた。


祭りのアトはすっかり片付けられていた。

小道を歩いていると小さい噴水や水場が幾つもあった。

小さい噴水で瓶に水を補充した。


舟の噴水広場に出ると以前には無かった食べ物の屋台と花が咲いた鉢植えが置かれている。

屋台かフードスタンドってやつか。イタリア語だとスタンドガッストロナンチャラーだな。


鶏肉とパンの美味しそうな匂いが鼻腔をくすぐる。


「美味しいよ〜」

40歳ぐらいの中肉中背のおっさん店員に呼び掛けられて1つ注文した。


『前は無かったよね?オープンしたてなの?』

「久しぶりに良い鶏肉が手に入ったからね。今まで休業してたんだ」


そう言えば鶏を仕留めたのは老剣士だったな。

俺も少しは戦ったから少しぐらいオコボレを貰えないかな?


少し卑屈に思ったけど気持ちを改めた。

こんな綺麗で素敵な世界で、俗世に塗れたお金を欲しがったり、

邪な気持ちを持つのはイカンな。

首をフリフリ。


「お待たせ、本当は5000Lだけど4000Lにまけておくよ」

「ありがと」

やはり人の優しさは良いな。


しっかり火を通したお肉をスライスして、ひじきみたいな食物と豆をパンで挟んだ

ケバブみたいな見た目だった。

噴水の縁に腰掛けて一口食べる、美味い!

これならお米が合いそうだな。


『お米は無いの?』

「お米?無いよ。お米は外で、、」


「あー!!」会話は中断された。

振り返ると武具屋のオヤジがこちらを指さしている。


(あっ)


そう言えば鎧と兜と刀の代金を支払っていないじゃないか、、

緊急時だったのでお金を支払わず飛び出したんだった。


「アンタ代金払ってないでしょう!鎧と兜はどうしたんですか!?」

凄い剣幕だな。


(あっ) 思い出す記憶、、


そう言えば鎧と兜はあの鳥に壊されたので、門の側の芝生で脱いだまま置いてきてしまった。

困ったな。


暫し流れる沈黙


店員に向かって喋る『まぁまぁまぁ、周りをご覧よ。精錬された建物、綺麗な噴水、美しい花々、快適な空気。これ以上何を望むんだね?』

両手を後ろで組んで店員に背を向け『お金なんて価値の無い物じゃないか。それなのに人間はそれを得る為に自分の時間を削って必死に働いている』


ジー


振り返える『愚かな事だと思わないか?』右手の人差し指を立てて語り掛けた。ピキッ。


『俺はお金に支配されないぞ!』


ボカッ!


殴られた。


90歳の爺さんに何してくれんだ。コッチは体罰オーケイか!


〜武具屋にて〜


結局、店番をして鎧と兜の代金を返す事になった。


武具屋の店員が言うには自分は現在49歳で、50歳の節目になると何かの儀式があるらしくその情報収集で忙しいみたいだ。おっさんがそわそわしているが興味が湧かない。

バタバタと支度をしてひらりとマントを羽織り、

何かの鳥の羽根の付いた帽子を被って出掛けて行った。

格好付けていても身長とか風格とか無いから威厳は無いな。

老騎士の様にマントを着こなせていないとモヤモヤと思ったりした。


そういや店員が出て行く時に今日は雨の日だからお客様さんは少ないから

アンタでも大丈夫だみたいな事を言っていた。失礼な奴だな。


店番しながらボーと通りを眺めると道行く人々は皆若い。

外はいい天気だ。でも雨が降る気配も無ければ傘も持っていないな。


カランカラン


20歳ぐらいの男2人組がドアを開けて入って来たので

両手を前に出しガオーのポーズで迎えた。

『よ・う・こ・そ、魔女の呪われた武具屋へ、ヒッヒッヒッー』

「す、すいません間違えました〜」バタン!ダダダ…

小さく「ヒェー」と聞こえてきた。


アレ?リップサービスのつもりだったのに帰っちゃった。

まぁ良いか、どうせ売り上げ減っても関係無いし。


次は30歳ぐらいの男が来たので雑談した。

何でも鶏の狩猟の成功を知って狩猟者を目指す者が増えたらしい。

アレは良いイベントだったな。でも二度とご免だけどな、こうして強制的に働かされてるし。


男に『20歳の2人組には悪い事をしたな〜』と言ったら

「なぁにそれぐらいでビビる様じゃ狩猟者なんて成れないさ」と言っていた。

そうですよね〜。俺は悪くないと自分に言い聞かす。

男は大きな盾を購入して行った。短冊を束ねた様な出納帳に記入して代金を綴り箱に容れた。


次に来たのは若い女性だった。20歳過ぎくらいかな。

斜めにカットされた長目のスカートに胸元が見えそうな大きめで緩いTシャツを着ていた。

顔は小顔で『半額にしますよ〜』と言ったら笑顔がチャーミングで可愛らしかった。


でも手にしたのは棘が付いたムチだった。

「これください」左手薬指の指輪がキラリと光った。

『はい』

、、それ以上聞けなかった。


次に来たのは門番の女性だった。


『あ、この間はどうも』

「たいへんでしたね、元気そうで何よりです」


優しい。女性は優しさだな。さっきの女性の方が美人だけど気遣いが出来る女性の方がいいな。顔が緩む。


店員に無理矢理働かされて、店員はどっかに行ったと愚痴を言ったら説明してくれた。

50歳を過ぎると多くの人がこの街から出て行くか要職に就くらしい。

儀式は「成大式せいだいしき」とか「ツウコク」とか呼ばれているらしい。


ふ〜ん


カランカラン


店員が帰って来た。


「ふ〜色々話を聞いてきたよ、あ、これはお客さん。いつもお世話になってます」

「こちらこそお世話になってます」と門番さんが返した。

「こちらの方がもっとお世話になってます」店員

『……』


「そう言えばアンタはいい年だな。50歳の儀式はどうだったんだ?」

『俺はまだ40歳だし、、』

あ、転生前の年齢を言ってしまった。まぁ良いか、儀式なんて記憶に無いから説明出来ないし。


「その見た目で40歳か、髭伸ばし過ぎじゃないのか?若いなら若い格好しないと」

店員にそう言われて見た目って大事だなと思った。

店員は奥で片付けをし始めた。


ドタドタ


何処から現れたのか店内に幼女が2人走り回っている。


イタタタ『やめて』髭を引っ張ってくる。


「キャハハハ」「キャッキャッ」


片方は運がカンストの幼女じゃないか。

『もえちゃん』と言うとキョトンとしていた。

どうやら散々世話をしてあげたのに忘れているらしい。


「ひかりちゃんだよ」ともう片方の子が名乗った。

「子供好きなんですね」と門番さん


ナイスだ!もえちゃんひかりちゃん。門番さんの好感度上げるチャンスだ。


「ん〜」奥で作業をしていた店員が出て来た。

「子供が来ていい場所じゃないぞ!」


振り返ると、さっきまで幼女達が居た場所に男の子がちょこんと立って涙目だ。

幼女2人は通りの向こうを走り回っていた。さすが運カンストの幼女。怒られる前に居なくなる。

誰かに怒られた事など無いんじゃないかとさえ思う。運なのか計算なのか。


男の子、運が悪いな。確かもえちゃんと一緒に居た子だな。


『もえるだよ』

「ハイハイ、ひかる君」

『もえるだよ!』

「ハイハイ、ここは危ない物もあるから外で遊んでね」


子供の両脇を抱き上げると店員は外に出してドアを閉めた。パタン。


「あ、そう言えば貴方に賞金が出てますよ」門番さんが思い出した様に俺に言った。

『えっ!?』顔が青くなった。


(何かやったけ?窓ガラス壊した件か?広場の像を壊した件か?)


「コイツ何かやったんですか?」店員がニヤニヤしながら聞いた。

「えっ?違うんです。鶏の狩猟成功報酬ですよ、懸賞金じゃないですよ」


『ホント!?』サプライズだな嬉しい!


横を見ると店員が驚いた顔をしている。


「ギルドに行って報奨金を受け取ってくだ、、」

『行ってきます!』バタン!ダッ!!

脱兎の如く駆けていった。


〜ギルドにて〜


「お待ちしておりました。それではこちらにサインをしてください」

『あの依頼札とか持っていないんですが大丈夫何ですか?』

「今回の場合、現物があるので証明出来ております」

『そうですか』ホッした。


紙にサインして清楚な受付嬢に返した。


「それではこちらがクエスト達成の報奨金の3百マ、いえ、3千万Lリラになります」


おぉ〜!周りから歓声が上がる。

ちょっと恥ずかしい。


「仕留めた方は幾ら受け取ったんですか?」

『ロベルトさんは4千万Lですね』


どうやら貢献度や危険度によって報奨金が違うらしい。


今回のケースでは獲物を仕留めた人が一番高く40%

対象の正面が一番危険度が高いので次ぐ30%

斜めの位置に居た門番の男は10%

周りで他の鶏を追い払った人達は其々5%ずつらしい。

狩猟に参加した人数でも変わるみたいだ。よく出来ているな。


そうか、だからお店に来た男は大きい盾を買って行ったのか。納得。


鶏肉は競りで引き取られるらしい。値段を付けていって高い方に落札される仕組みだ。

御祝儀相場が付いて1億Lの値段で副市長が競り落としたらしい。

マグロの競りみたいなものか。あれだけ巨大だからな。


報奨金を受け取り出口まで歩いて行くと次々に声を掛けられ祝福された。


「よくやった!」

「鶏肉美味かったぞー!」

「やったな!」

紙吹雪がキラキラ舞っている。

清楚な受付嬢が笊から紙を掴んでは、ばら撒いている。

「おめでとー!」

「次は豚肉が食いたいぞー」

「大したもんだ」


ギルドの隅のテーブルでは

「ケッあれぐらい俺でも出来るぜ」

「そうだそうだやってやろうぜ!」


妬みの声も薄っすら聞こえるが無視してギルドを後にした。


一度防具屋に戻って鎧と兜の代金を店員に支払った。


芝生広場の側のリストランテでピッツァとプロシュートを堪能して家路に着いた。

サラダも充実していると良いのだがな。


日が暮れそうだ。虹色の空が迎えてくれた。


今日も濃い一日だったな。お金も入ったし次来た時は何をしようかな?


〜4日目終了〜

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