第3話巨大鳥とバトル

今日も肉体労働を終え、駅ビルで買い物をしていた。

何処から現れたのかお酒の試飲販売のお姉さんが居た。

スレンダーなのに胸が大きい。ウェーブの掛かった長い髪、耳が少し変わっていたのが印象的だ。


そう言えば初めて異世界に飛んだ日も2回目の日もこのお酒を試飲した日だったな。

銘柄は『MUSOU』とラベルに書いてある。


無双=2つと並ぶ者無しか、、大層な名前だな。


買ってみる事にした。


家に帰りシャワーを浴びて『無双』をお猪口で一杯飲んだ。

ほわ〜とした気分になり、気が付くと最初に目覚めた部屋に居た。


やはりそうかビンゴだな。

それにしてもおちょこ一杯で酩酊めいてい状態になるとは驚愕きょうがくだな。


今日は明け方らしく陽の光が窓から差し込んでいる。

陽光は虹色の光でキラキラ輝いていた。


部屋を見渡すと石版の他に机の上に日記らしき物が置かれている。

その本を手に取って捲るとこう記されていた。

『昨日は広場で昼寝をしたハズなのに気が付いたら家で寝ていた』

『ワゴンでお酒を売りに来ていたお姉さんが美人で試飲したお酒が強かった』

『もうお酒はやめよう、90歳にも成って記憶を失う程にお酒に弱くなったか』

『それにしても身体中、筋肉痛だ。今日はおとなしく寝ていよう』


ふと横を見ると『無双』のラベルの一升瓶と小さいガラスのコップが使用済みで転がっていた。


意思の弱い爺さんだな。


どうやらこの爺さんと怪しげなお酒の所為で入れ替わっているらしい。

(出来れば美少女と入れ替わりたかった、、)


部屋に石版が増えていた。

『人は生きる為に、他の生物、、、』下の方は字が崩れていて読めなかった。


どうやら哲学者らしい。


机の上には巾着袋からコインが何枚かみ出していた。

お金あるじゃん。でもまぁ、他人ひとのお金を遣うのも気が引けるか。


前回、棚に置いておいたお金がそのままだったのでポケットに入れた。

棚にはベルトと空の水筒が置いてあったので借りる事にした。

ベルトには水筒を取り付けておけるホルダーが付いていて便利だ。


街に繰り出すか。


先ずは情報収集だな。RPGの基本だ。

散策だ。大通りとは別の方に行ってみようかな。

門を出て上機嫌で歩き出した。


〜城下町〜


道には四角く黒い煉瓦れんがが敷き詰められていて、建物の壁は白く屋根は赤に近い茶色で統一されていた。

建物の一部にはアンティーク風の飾りが付いているがセンスが若干微妙だ。

余り背の高くない木にはピンク色のワサワサした花が付いている。


少し歩くと噴水があった。噴水の水は朝日でキラキラ輝いている。

舟の白い銅像のいかりが出る箇所から、水が絶え間無くチョロチョロ出ているので

水を少し飲んで水筒に補充した。軟水のミネラルウォーターだ。美味いな。


噴水のそばには大きくて立派な階段があった。

小道こみちの方は小さな雑貨屋が並んでいた。


どちらに行こうかな?

お店に興味を引かれて小道に決めた。


まだ朝が早いらしく、人の気配は無かった。

小道を進んで行くと海が見えてきた。

どうやら港町の城下町らしい。


海の色は透明で透き通っていて海底が見える。

水平線がやけに急カーブを描いているな。

水平線の奥はまだ夜だな。


地球とは違って星が小さいのかもしれない。

異世界だと改めて実感させられる。


不意に「ゴッゴゴッゴ〜!」という大きな音が2度、響き渡った。


何事かと身構えていたら、家から人が出て来てお店が開店し始めた。

朝の合図らしい。時刻を知らせる鐘の音と同じ様なものか。

それにしてもあんな低くて太い音にしなくても良いのにな、驚いたじゃないか。


〜リストランテ〜


お店が開いたので朝食にしよう。

建物の二階に港が見渡せるテラス席があるので、建物の外階段を登って席に座った。


港は小さい、右手には浜辺が広がっていた。

反対側の左手には不自然な程の鋭角な岩山が幾つか並んでいる。


店内はビュッフェスタイルでパンや果物やコーヒーが自由に飲める様になっている。


白いチーズの塊とクロワッサン風のパンを取り皿に取り、カプチーノっぽいコーヒーを頂いた。

絶好のロケーションを見ながら優雅に食事、セレブだな。


ヒョロっとした痩せた男のウェイターに話し掛けた。


『ここは素敵な所ですね』

他所よそからのお客さんでしたか。有難う御座います」

『何処か観光できる場所は無いですか?』

「そうですね、、他所よその方は珍しいのでご満足頂けるか分かりませんが武具屋などはお薦めですよ」


武具屋!?何だかワクワクするな。


朝食を終えコインを支払い、店を後にした。

武具屋の場所を書いたメモを貰ったので読みながら武具屋を目指した。


ふと、ウェイターが忠告していたのを思い出す。

「海辺の左手の山々には近寄らないでください。石の塊が積んであるだけの様なもので崩れ易いです。人の手で管理されていません。それと城壁の外は危険ですので出ない様にお願いします。門番が居ますので出られないですが」


山賊でも出るのかな?そう言えばギルドの依頼書にも護衛任務の募集の紙が貼ってあったな。

山賊なんか出たら怖くて戦えないな、殴り合いの喧嘩だって数えるぐらいしかした事ないのに遭遇したら腰を抜かすかもな。


目当てのお店は直ぐに見付かった。城壁の門があるそばにあった。

西洋のツルツルした鎧がショーウインドウに飾られていた。

城門は馬車が通れるサイズの大きさだった。


〜武具屋〜


カランカラン


『ごめんください』

「いらっしゃい」


余り繁盛していないらしく、お客さんは居なかった。

小太りで髭を蓄えた店員はダレていたが

客の姿を見ると元気になった。


「なにかお探しですか?コレなんかどうですか?コレもおススメです」


次々と甲冑かっちゅうやら剣やら小手こてやらマントやら見せてくれる。

本当はダメらしいが試着させてもらう事になった。


鎧は皮の鎧と金属の鎧があった。

値段は皮の鎧が[2,0000L]、鉄の鎧が[24,0000L]の値札が付いていた。


「こちらがは24万リラですがお安くしますよ」


L=リラが通貨らしい。

日本円に換算して2万4千円ぐらいかな?



金貨1枚=10,0000L=1万円

銀貨1枚=1,0000L=千円

銅貨1枚=1000L=百円



だと思っておこう。

それにしてもカンマの場所は日本とは違って4つ目なんだな。

まぁその方が読み易いけどな。


お金は足りなかったけど折角だから鉄の鎧を着させてもらった。

思った程重くない。金属というより軽量プラスチックみたいな感じかな?


武器も様々あるが流石に銃は無かった。甲冑着て銃で撃ち合ったら台無しだな。

少しホッとした。

真っ直ぐの西洋の剣、弓、槍、鉤爪、鉄球に鎖が付いた武器まである。

何故か木製のブーメランまで展示されていた。需要があるのか、コレ??


やはり剣だろう。剣を鞘から抜いて悦(えつ)に入っていると

壁に飾られている武器の数々の中に日本刀を見付けた。

コレは高価たかそうだな。値札は付いていない。


「それはかたなと呼ばれる物です。数年毎に人気になったり、見向きもされなくなったりしますが一部のマニアには根強い人気があります」


(知ってるわ)心の中でツッコミを入れた。


手に取ってやいばを上に返して左手の親指で少し押し出し、右手で縦に抜いた。


スラッ


「そ、そうやって抜く物なのですね!」

店員が驚いていた。悪い気はしないな。


西洋の剣は下から抜くけど、日本刀は刃を逆さにして縦に抜くのだと店員に説明した。

刀をさやに納めた。


ふと城壁の門番の2人を見ると談笑している。

片方は岩に腰掛けて兜も抜いでいる。

勤務中だろうにだらし無いな。


服装は鉄の鎧に西洋の剣を腰に左右に一本づつ、二本差している。

立っている方はやや小柄だけど兜もしている。


大丈夫か?この国は。

まぁ平和なんだろうな。


心配した顔を見られたのか店員が「この国では300年ぐらい戦争も無いですからね」

そうなのか、戦争とかに巻き込まれずにスローライフを過ごせそうでホッとした。


ふと見ると子供が2人駆けて来る。前回痛い目にあったからなと思っていたら見た顔だった。

あの幼女だ。確か名前はもえちゃん。もう1人は神子園で叱られていた男の子だな。

もえちゃんを追い掛けている。


『待ってよ〜、そっち行っちゃダメだよー』


子供2人が城壁に駆け寄ったかと思ったら木の陰でいきなり姿が消えた!


不安に駆られて店を出て見に行ったら木の陰に城壁の壁に子供だけが通り抜けられそうな穴が空いていた。

そこから出てしまったらしい。


大変だ!


門に走って行った。


『子供が壁が崩れていた穴から外に出たぞ!』仙

「た、たいへんだ!ど、どうしよう」門番1

「私は衛兵を呼んできます!」門番2


立っていた方は女性だった。木の影に繋いであった馬にまたが颯爽さっそうと消えて行った。


男の門番に門を開けてもらい外に出た。


〜城外〜


一目見て危険の意味を理解した。

外の景色はまるでサバンナだった。アフリカの野生動物が多く生息しているのだろう。


外から見た城壁には無数の爪痕つめあとが残されていた、それも大きい。

ライオンかバッファローでも居るのだろうか?


近くにニワトリが群れを成している。

近くで??遠くかな?やけに木が小さい。


目がおかしくなったのかと思ったが違った。

遠くで、デカイのだ、鶏が!


理解した!


巨大なのだ。


朝を知らせる音は巨大な鶏の鳴き声か!

そして外は危険の意味も瞬時に理解した。


城壁に沿って子供達を探しに走った。


子供達は直ぐに見付かった。

林の直ぐ裏の溜め池の側に居た。


女の子は笑顔だったが男の子は顔面蒼白でうずくまって震えている。

目の前には6〜7mはありそうな巨大な鶏が子供達に襲い掛かろうとしている様に見える。

羽根を拡げ左足を子供達に向かって振り挙げている。


絶体絶命!


男の門番が剣を二本とも抜き、剣で剣を叩き音を出した。ガイン!ガイン!


しめた。鶏の注意が逸(そ)れた。


刀を抜いて鞘(さや)は投げ捨てた。

子供達の前に飛び込んで立ち塞(ふさ)がれた。

後ろの様子は見れないが男の子は泣き出した。


鶏が暴れる!ギャワワゥワ!ギャア!


羽根をバタバタさせて、鋭い爪が容赦無く襲い掛かる。

この為の甲冑か!


鶏の右足の鋭い爪が袈裟斬けさぎりに振り降ろされた。

兜の左頭部をから左肩に掛けて衝撃が走る。

鉤爪かぎづめに巻き込まれ刀を持って行かれそうになるも、手に力を込めて踏ん張る。


音は聴こえなくなった。

刀を下から斜め上に胴体を切り上げる。

ただガムシャラに振り回して何発か入れたが

鶏はひるまない。


右側の視界が不意に白くなった。

左の羽根で殴られた。


飛び散る羽根、羽根、意識が飛びそうになった。


無理だ。勝てない!

視界の隅では門番が必死に剣を剣で叩いているが効果は無い。鶏に効いたのは最初の1音だけだったか。

遠くでドドドドと何かが駆ける音がわずかにした。


せめて子供達だけでも守ろう。

鶏に背を向け女の子を庇う様に抱き締めた。


『よくやった若人よ』


銀色の何かが鶏に跳び掛かったかと思った。


ガュワワ!ギャヴァ!


目の端に赤い水が飛び散った。


後ろを振り返ると巨大な鶏がヨロヨロしていた。

鶏の首の左後ろに大きなナタの様な剣を持った老剣士がしがみついていた。


ズウウウン!


巨大な身体が倒れた。


老剣士はヒラリと着地した。


女の子は目を輝かせて笑顔だ。

男の子は泣き腫らした目で震えている。


た、助かったのか。


鶏は動かなくなった。


騎馬にまたがった衛兵隊が駆け付けてくれた様だ。

周りにも巨大な鶏が居て襲い掛かって近付いてきたが

衛兵隊が何かを唱えると空中で爆発音がいくつもした。


バババババン! 周りの鶏達は驚いて逃げて行った。


俺は恐怖のストレスで誰かれ構わず独り言を喋りまくっていた。

ふと良い匂いがしたかと思うと門番の女性に抱き締められていた。


「もう大丈夫ですから」


スッと精神の水面が安定した。

ヤバイ惚れそうだ。よく見ると小顔で可愛らしい。


甲冑かっちゅうが顔に当たるのが勿体無いな。

私服で抱き付かれたかった。


門番の女性からさやを受け取って刀を収納した。キン!


子供達は門番が安全な所まで連れて行ったらしい。


衛兵隊の人達は物凄い嬉しそうだ。


「うぉおおー!」

「やったー!」

「ワハハハ!」

「やったぞー」


この人達は強いだろうに、そんな強敵を破った訳でも無いだろうに

と疑問に思ったがその答えは直ぐに解決された。


「肉だー!」

「塩胡椒だー」

「バーベキューだー!」

「久し振りの肉だー!やったー!」

「シェフを呼べー」


門番の女の子も目がお肉になっている。

あ、ダメだコレ。もう食事にしか興味無くなっている。


その日はお祭りになった。


〜城下町〜宴会


門の内側の芝生の上で衛兵隊と戦いを振り返って話していたら、何か偉そうな人がやって来て

ニコニコしながら「祝い酒出します、良いですね?」と聞いてきた。


宗教か何かで飲めない人もいるからか、

タダで飲ませてくれるのなら有り難く頂くか。


『はい』


偉そうな人は何処どこかに消えて行った。


ワイワイ、ガヤガヤ


大通りにはテーブルと椅子が出されれ、頭上にはロープに張られた小さい旗が幾つも付けられた。

街には様々な楽器が用意され、ダンス用のパネルまで床に敷き詰められた。

何処かで換気扇(かんきせん)が回る音がする、お肉を焼くからな。


炭で火を起こす者、お酒のグラスを並べて、ジュースの瓶やビールっぽい飲み物を氷水にドブロク漬けする者、花を並べる者、料理テーブルをセットする者、フォークや細かい宴会アイテムの紙ナプキンまで。


皆、なんて仕事の速さだ。

あっという間にセッティングを終えてしまった。


お店も今日は仕舞いらしい。

思い思いにグラスに飲み物が注がれた。

立っている人も座っている人もウェイターでさえグラスを持っている。


壇上にあの老騎士がグラスを持って上がった。


「今日は目出度い!市長もたいへん御喜びである。飲み物は全て市長の奢りだ!」


ワッ!聴衆から歓声があがった。


「いいぞロビー!」


「それでは乾杯!サルーテ!」


「サルーテ!」

「サルーテ!!」


ワイワイガヤガヤ


軽快なタンゴの音楽が鳴り響く、

タダ酒程美味しいお酒は無いな。

美味しいお肉も食べ放題だ。サラダ系は少ないけどそんなに皆食べないか。


「お肉は久しぶりだー!」大人の男達は口々に叫んだ。

「お肉初めてー!美味しいー!」子供達も満面の笑みだ。


同じテーブルに座った男に話し掛けてみた。

『肉は街に余り入って来ないんだね?』仙

「あ、あんた他所者か?そうなんだ。鶏がデカ過ぎてろうとしたら命懸けなんだ」


大きい生物しかいない世界なのかな?

一寸ちょっと不安になった。


「だから武具屋があるのさ。最近は狩猟する勇気のある奴がいなかったからね」

『衛兵隊の人達は?』仙

「あー、あの人達は普段、皇帝陛下を守っているからね。今日は偶然、来ていたみたいだよ」

『そうなんだ、運が良かった、は〜』溜め息を吐いた


話し掛けた男は顎がしっかりしていてサッカー選手にいそうな顔立ちだった。

雑談して分かった、この男の出身はこの街から北にある首都らしい。首都か行ってみたいな。


老剣士は子供達と向き合っていた。


『凄かったねー』と女の子、

『どうしたら強く成れますか?』と男の子が聞いた。

「精神を強く保つ事かな、それと健康な身体が大事だよ」


女の子はヒラヒラと落ちて来る木の葉に興味を取られたらしく、少し離れた所で空中でキャッチする遊びをしだした。


それを横目で見ながら男の子は聞いた『誰かを守れる強さが欲しいです』少し顔が紅い。

老剣士は苦笑しながらも優しく語り掛けた「私のロベルトって名前はいにしえきずなを表す名前らしい。

君が本当に強く成りたいと願うなら、戦いの時に炎の様な気持ちを保てる名を名乗ったら良いだろう」


パーマ掛かった銀髪に整った高い鼻、瞳は透明なブルーの老剣士に言われて男の子は決意した。


『僕、[もえる]と名乗る事にするよ!』


〜3日目終了〜

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