第88話 Experienceがゴイスー

「にゃぁぁぁー!!」

 ミゥが吠える。

 龍人ロンレェンの鱗に覆われた肌を爪が切り裂く。

 ベンケーのメイスは鎧のような鱗ごと骨を軋ませる。

 クロウの居合は皮膚の薄い個所を確実に捉え斬り裂いている。

 個体のスペックでは、確実に劣っている、にも関わらず怯むことなく向かってくる敵に龍人ロンレェンは戸惑っていた。

(コイツ等、何を考えているんだ…)

 そもそも、訓練以外で戦ったことなどない龍人ロンレェン達にとって、コレが初めての実戦になる。

 命のやりとりが、こんなにも怖いモノだとは…

 結果的に、実戦慣れしたミゥ達に対し、気後れしてしまい防戦に回っていた。

「ふざけるな!! 俺達は最強の戦闘種族として造られたんだー!!」

 龍人ロンレェンの1人がベンケーのメイスを受け止め下へ受け流す。

「っと…」

 ベンケーがバランスを崩した所へ、別の龍人ロンレェンがベンケーの顔面に蹴りを放つ。

「甘いな」

 クロウが放たれた龍人ロンレェンの蹴り足を斬り落とした。

『ふっ…これでワシ『草薙』に並ぶんじゃなかろうか』

薄緑うすみどり』がフルフルと震える。

「今日の『薄緑うすみどり』は一味も二味も違うでござる…」

「死ぬにゃ…」

 ミゥが片足の龍人ロンレェンの首をゴキリッと蹴り折った。


「クククッ…アーハッハハハー」

 笑うリーフの表情が邪悪に染まる。

「人造の神? 所詮、紛い物ってことかしら?」

「そうでもない…私の創造主は、私を紛い物とは呼ばなかった」

 造魔ゾーマが千切れそうな手足を引きずってリーフの方へ歩いてくる。

「無様ね…」

「身体など…肉の器など、いくらでもスペアがある、この身体も創造主の現身に過ぎぬ、オマエの姿とて私と同じ『泰梅ティメィ』の遺伝子から再生されただけだ…リリスよ」

「リリス…泰梅ティメィ…」

「思い出せ…リリス、自分が何の為に産み出されたかを…」

「思い出す…何を…」

 ズキンッ…ズキンッ…

 リーフの頭に痛みが走る。


「私を選べ…その身体を私に差し出せ…」

 造魔ゾーマが手を差し伸べる。

「アンタに? 冗談でしょ!! 私の身体は…いえ、この世界は全て私のものよ、石ころひとつ、オマエなんかに渡す気はないわ!!」

「どこまでも傲慢な…」

「アンタに言われたくないわ、どうせ考えていることは同じでしょう」

「まさか…傲慢な人間から秩序ある亜人種へ、この大地に人が蔓延る必要名は無い、この箱舟は、未来を託すにふさわしい種を選び、造るための物だ」

「それをアンタが決める? それこそ傲慢よ!!」

「私は、『泰梅ティメィ』から、その役割を与えられた…当然のことだ…リリス、あなたは私と違い、自ら選択する権利を私が与えた…結果、あなたも人を支配することを選んだ…違うか?」

 造魔ゾーマの身体が崩れ始める。

「さぁ、その身体を渡せ…時間が無い、あなたが望んだ世界は、私が造る、あなたが得た知識と経験を使って」

「私が望んだ?」

 リーフの表情が険しくなる。

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