第83話 Instructionがゴイスー

 甲板ではワーワーギャーギャー海面から爪を立てて船を昇ってくる人魚と船員が大乱闘を繰り広げていた。

 クロウとベンケーも混ざってはいるが、この場合、地の利はどちらにあるのだろう?

 海の怪物『人魚』なのか、甲板で戦う海戦慣れした『船乗り』なのか…


「ところで…アンタ、海に出てからめっきりおとなしいわね」

 ヒトミがクリームソーダを堪能しているリーフに話しかける。

「ん…別に…取り立てて騒ぐような事が起きないだけでしょ」

 シレッとした顔で答えるリーフ。

「騒ぐようなことね~」

 ヒトミが混戦を極める甲板の攻防を指さす。

「陸に上がった時点で魚類人魚に勝ち目はないわよ」

「お魚…なのかにゃ?」

「フフフ…そうではなかろう」

 薔薇母バラモがコーラにリンゴシャーベット黒に赤、参号機?を浮かべてカランと涼しげな音を立ててヒトミの脇に立つ。

 黙っているリーフ、薔薇母バラモとは目を合わさない。

「海上では役立たず…そうであろう?」

「うっさい!!」

「火は使えぬ…水は効かぬ…土は無く…風は船上では狭すぎる、不便なモノよの」

「ゲッ…そうだったの? どうりでね~おとなしいわけね~、役立たずの無力だったのアンタ」

 ヒトミがリーフの顔をニタニタと笑って眺める。

「誰が無力なの…」

「ぎゃぁぁぁぁあ」

 呪いは時と場所を選ばない…。


「ミゥも、お魚捕まえにいくにゃー」

 飛び出していくミゥ

「お魚咥えた、ウチの猫♪追~かけて~」

 リーフが歌い始める。

「誰が? 追っかけるの?」

「アンタも行くのよ!!」

 リーフがヒトミの形のいいヒップを思い切り蹴り上げる。


 手を回す様に振り回し甲板へ這い登ってきてはビタンビタン暴れる人魚

「キモいーーー」

 それを海へ蹴り落とすヒトミ

(変なお魚にゃ…)

 あまり食べたくないので、蹴り落とすミゥ


 ショーテルで斬りまくるクロウ、メイスで海へ叩き返すベンケー、船員達もモリで突く、船長、海で吐く…


 20分が過ぎる頃、ようやく甲板が落ち着いてきた船長の顔色がよくなってきた頃、魚臭くなった甲板にスタスタ降りてきたリーフ。

「ご苦労!!」

 その一言で、皆、疲れがドッと湧き出たのであった。


 船旅は順調である。


 そして…彼の地『チャイナ』の灯りがリーフ達を迎えた。


「キツイ船旅だったぜ…」

 船長バッカスがパイプを吹かす。

「船長…帰りもあるんですぜ」

「言うな、気が滅入る…」


「んじゃ、行ってくるけど、アンタ達は船を守り、名産品を買い漁りなさい…詰め込めるだけね、限界を超えなさい!! いい? 食糧より金目の物を優先させるのよ、食糧は新鮮なシーフードを都度確保すればいいの、スペースをケチるな!!」

 リーフが船員達にビシッと指示を飛ばす。

「それと…船を死守するのよ、何があっても…何を犠牲にしてもね」

 リーフが船長を指さしギロッと睨む。

(あの目が怖ぇんだよ…この娘っ子はよ)


 そんなわけで、御一行は薔薇母バラモに先導されて『チャイナ』に降り立ったのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る