第76話 Fishがゴイスー

「船の準備に1周間だってさ」

 ヒトミが宿の方へ歩いて行こうとする。

「アンタ、どこ行くの?」

「いつもの宿」

「野宿よ!!」

 リーフが外堀の外を指さす。

「そこまでつぎ込んだの…船に…」

「ほぼ全額よ、後は旅の支度に回して…ノーマネーでフィニッシュです」


 ある意味では、いつもの宿…というか野宿という名の日常である。

「組木は四角でお願いします」

 ヒトミの強い要望でオーソドックスなキャンプファイヤーである。

「安心するわ…空高く立ち昇らない炎って…いいな」

 安心、安定のキャンプである。

 暗い湖面にウォータードラゴン

「帰ってきたって気がするわね」

「平和ね~」

 ウォータードラゴンを眺めながら、よく言えるものだが、御一行はドラゴンを前に肉の焼き具合の方を気にする余裕っぷり。

「にゃはっ…にゃにゃにゃは」

 ミゥが楽しそうに右手に串刺しトカゲ肉リザードマン左手に湖で釣った魚を持って焼いている。

「なんで、この湖は魚がいないのかね~」

 ベンケーがピクリとも動かない釣竿を不思議そうに眺めている。

「あんな竜が住んでいるのに…魚もロクに釣れないとは不思議でござるな」

 隣で釣り糸を垂らすクロウ、バケツには数匹の魚小型種しかいない。

「かれこれ3時間でコレだよ…アレじゃない、竜がいるから魚がいなくなったよく食いそうだからんじゃないかしら」

 珍しく、ごもっともな意見を言い放つヒトミの顔を見て驚くベンケーとクロウ。

(そりゃそうだ!!)

(盲点でござった…)

「大概の竜は草食よ」

 リーフがシレッと意外な真実を話す。

「左様…あんなバカデカい生物が肉食なら、あっという間に生物は滅ぶであろう…ついでに言えば、結構小食じゃ、個体数も制限されておる」

 薔薇母バラモがリーフの言葉に付け加える。

「じゃあ…単に腕の問題じゃないの」

 ヒトミの遠慮ない一言がベンケーとクロウの心をザクッと貫く。

(グフッ…)

「ヒトミ…せめて場所の問題とかさ、気を使いなさいよ…アレでも必死なのよ」

 リーフが気を掛けているようで、無神経な言葉が川辺の2人ベンケーとクロウを緊張させる。

(釣らないと…飯は抜きということになりそうだぜ)

(場所を変えるでござるか?)

(いや…地引網って漁も…)

(網が無いでござる)

 小声で話すベンケーとクロウ

「いっそ、竜でも狩ってくれないかしら?」

 リーフがジロッと川辺の2人を睨む。

 圧力を感じる…軽く殺意も感じる…緊張が竿に伝わり、魚が寄りつかない悪循環である。

(あのおっきい蛇ウォータードラゴン…食べれるのかにゃ?)

 今までとは違う目食べ物でウォータードラゴンを見始めたミゥ。


「にゃ?」

 ウォータードラゴンに気を取られ、気付けば真っ黒に焦げた魚…

「にゃ…にゃ…にゃ~…」

 悲しそうに黒ずみと化した小さな魚を見つめるミゥであった。

(ギリギリ食べれるかにゃ?)

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