第74話 Wishがゴイスー

 クロウと薔薇母バラモが険悪な雰囲気を察することもなくスタスタと歩いているリーフ。

 頭の中は『お舟』支払いの事でいっぱいなのであるクロウのことなんか構ってられない

「『しずか』が病など世迷言で惑わすか!! 狐めー!!」

薄緑うすみどり』に手を掛けるクロウ。

(抜けない?)

『クロウ…落ち着け…妖狐の言うことは本当じゃ』

「なっ…誰…薄緑オマエか…」

『聞け、クロウ…ワシは妖狐の妖気を感じることができる、元々、ワシは妖狐によって目覚めたのでな…その妖狐の状態くらいは解る』

「そういうことだ九郎義経」

「解らぬ…なぜ話してくれなかった…なぜ、傍に居てくれなかったのだ…」

「それはの、腹に子を宿していたからじゃ」

「子供…拙者の…か」


 ベンケーとヒトミの耳がダンボを超えた他の事など耳に入って来ない

(畳みかけてくるわね…大好物よ)

(止まんねぇな…おい…)


 どエライ内容の話が転がり続けているわけだが、リーフとミゥだけは、まったく別の事を考えていた。

(貯金が…蓄えが…王都制圧やる気満々が…)

(フワフワいいな~ミゥもフワフワしたいのにゃ)

 お船の事お支払いと、お空の事浮遊妖狐で頭いっぱいなのである。


『静』は『白拍子』として育ち、その舞の美しさから神へ捧げられた女性である。

 それは、つまり『器』として神を受け入れなければならなかったわけなのだが、クロウと逃げてしまった。

 あるいは病のことを自覚していたのかもしれない。

 残された時間をクロウと共に過ごしたかったのかもしれない。

 クロウに看取られて死ぬつもりだった…だが、クロウの子を身籠ってしまった。

『神』の妖気を辿り、妖狐の封を解いた。

「私の身体を器として使い…どうか、お腹の子を救ってください」

しずか』は子を産むまで命が持たないと悟り、身体を妖狐に譲ることでクロウの子を救おうとしたのだ。


わらわは、その願いを聞き入れた、異国に渡り子を産み、御前に渡し全てを話すつもりでいたが…御前の方から来るとは驚いた、それも『リーフレス・ティ梅可愛メィカァ』と一緒とは…運命を感じたよ」

 薔薇母バラモは頭を抱えるリーフを見ている。

(『造魔ゾーマ』の造りし『最初の人リーフ』が斯様かように育つとは…面白いものよ)


薔薇母バラモ…『しずか』はどうなる? いや…どうなった」

「今…わらわが離れれば子を産む前に死ぬであろうな」

「助けられないのか?」

「ん? 『しずか』が助けろと言ったのは腹の子だけだったが」

「助けられるのか?」

「ふむ…」

「もう一度聞く…助けられるか?」


 ベンケーとヒトミが唾を飲みこむ。

 しばしの沈黙、思わず息を止めて聞き耳を立てるベンケー。

「助けなさいよ!! アンタ神なんでしょ!! そのくらいのことやって退けなさいよ!!」

 ヒトミが薔薇母バラモの胸ぐらを掴む。


「まずは…子を産んでからじゃ…約定は守る主義でな…」

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