第71話 Knowledgeがゴイスー

薔薇母バラモ…」

 ベンケーが横目でにらむ様に薔薇母バラモを睨む。

(静…)

 音も立てずに立ち上がり、『薄緑うすみどり』に手を掛けるクロウ。

 背中のショーテルすらカチャリとも音を立てないのは、所作に無駄がない証拠…それは、動揺などないという心理状態を表している。

「リーフ…御前おまえが、なぜ『厄災』や『ボンド』『アマルガム』などの知識を持っているか…教えてほしい?」

 白い顔でニコリと笑う。

 他者を籠絡して権力を振るう妖狐は美しい。

しずか』という器の特徴を残しつつも…それは似て非なる存在だとクロウにも理解できた。

 ゆえに動揺などない。


わらわも混ざってよいか?」

 薔薇母バラモがベンケーの脇をスッと横切りヒトミの隣に座る。

(化け物が…動けやしねぇ…)

 油断は無かった、しかし手が出せなかった。

 ベンケーがギリッと歯ぎしりする。

 その身体は汗ばんでいた。

 薔薇母バラモに敵意は感じない、その金色の瞳が見ているのはリーフだけだからだ。

「リーフ…御前おまえには解るだろう…童と主が似ているということが…」

 金色の瞳が興味深い色を発し、リーフを見据える。

「どういうこと?」

 リーフの隣にチョコンと座るミゥ、立ったままのクロウ・ベンケー・ヒトミは蚊帳の外であった。

(ミゥが大人しい?)

 ヒトミの疑問は最もである。

 敵と認識すれば、誰より早く飛びかかりそうなミゥがリラックスおくつろぎしているのだ。


「厄災後…に放たれたのは『ボンド』と『アマルガム』だけじゃないってことだよ」


 その昔から、人類は様々な生き物を空想してきた。

 その発想は、実在する生き物を変化させることから始まり、異なる生物を切って張った姿へ、いつしか混ぜ合わせたような姿へ空想は移りゆく…

「猫又がミゥに変化したように…」


ゲノム設計図』を保存していく過程で、それの解析も行われる。

 この世界に現存する生物の解析を終えた『ノアの方舟』は興味で、空想と同様の手順で生物を造りだしてしまった。

「双頭の蛇からキメラへ…そして人に他の生物を混ぜていく…」

 リーフがチラッとミゥを見た。

 クスッと笑って薔薇母バラモは言葉を続けた。

「数多の空想上の生物が厄災という時期を経て…解き放たれた…」


「だが…御前リーフは違う」

「どういうことよ」

「気づいたんだよ、『ゲノム』とは別の設計図が生き物の中には存在することに…」

「何の話か理解できないわ」

「今は…な…『霊子』と呼ばれた、そう『魂』とも言うべきものが宿っていることに気付いた人類は、新たな生命を造りだそうとした…」

「生命?」

「ハデスが解き放った『死怒』も…わらわも、その過程で産まれた唯一の生命だ」


 繁殖はせず、身体を持たぬ代わりに死を迎えることがない、唯一の存在。

 自由意思を持ち、物理的接触には『器』を必要とする。


『神』『悪魔』などと呼ばれる存在

「それがわらわだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る