三章中断 クロウの過去編

第59話 Zipanguがゴイスー

「ジパングって、どんな国なの?」

『ドジョウすくい』でジパングへの興味が中途半端に湧き出たリーフがクロウに尋ねる。

ほうでごさるな~そうでござるな~

 鼻に割り箸を突っ込んだまま、腕組みをして考えこむクロウ。

(きっと真顔なんだろうな…)

 そうとは見えないクロウの顔鼻割り箸をじっと見ていたヒトミは、少しだけ可哀想な人を見る目になっていた。

 鼻割り箸を取りながらクロウがジパングの話を始める。

「そうでござるな、この大陸より四季がハッキリとした小さな島国でござる」

 春には『桜』というピンクの花が咲く

 夏には『新緑』に覆われ

 秋には『朱に染まる木々』を眺め

 冬には『雪』が一面を白く染める…

 それぞれの季節を色で感じ…季節の『月』を眺めながら酒を飲む…そんな国でござる。

「ずいぶんと悠長な国ね」

 リーフがシナモンスティックを紅茶に浸しながらボソッと呟いた。

「そうでもござらん…戦は絶えぬし、その戦にすら美を見出す…今に思えば、随分と変わった国でござる」

(アンタクロウ見てると…解るわ…あぁ、やっぱり変わった国なんだって)

 ヒトミが頷き、1人納得する。

 クロウの杯自前の持ち物に注がれた澄んだジパングリカーに綺麗な赤鼻血がポタリと零れる。


 クロウが鼻にティッシュを丸めて詰めて、深く深呼吸する。

「上を向いて、首をトントンするのよ」

 ヒトミがジェスチャーで首をトントンしてみせる。

「意味ねぇだろ…さっきの割り箸を抜くときに切ったんだから…」

「そうよ、のぼせたんじゃないのよ、トントンに意味はないわ」

 リーフが呆れた顔でクロウを見ている。

 ポンッ…ポタリ…

「にゃはははっ」

 鼻のティッシュを抜くと血が零れる。

 ミゥにはたまらなく面白いらしく、隙あらばクロウの鼻に手を伸ばしティッシュを引っこ抜いて笑っている。


「クロウ…誰を探して此処へ来たの?」

 リーフがふいに尋ねるケロッと忘れていた

「拙者…狐を追っているでござる」

「はい?」

「九つの尾を持つ妖狐…拙者の妻を…『しずか』の身体を奪って逃げたのでござる」

「なんじゃそりゃ?」

 ベンケーがさっぱり解らんといった顔でクロウを見る。

「バカね…奥さんを寝取った狐を追いかけてきたのよ」

 ヒトミが要約してみせる。

「違うでござる…封じられていた化け狐の封を解いてしまい…身体を乗っ取られたのでござるよ…」


九郎義経くろうよしつね』は『静御前しずかごぜん』という白拍子神に仕える踊り子と恋に堕ち、逃亡中であった。

 神に仕える白拍子しらびょうしは神の僕であり、人間の男になど嫁ぐなど許されない。

 2人は朽ちた城に逃げ込んだが、そこは妖怪の根城、天守閣に封じられた妖狐に魅入られた『静』は、封を解き…妖狐の器となった。

「その城で拙者…この『薄緑妖刀』を抜き…」

「アンタも呪われたのよね…」

 ヒトミが解るといった顔似たような呪われ仲間でクロウの肩を叩く。


「この刀には…妖狐の気配が解るようなのでござるほんとかよ? 導かれるまま大陸へ渡ってきたけど…」

「アレかな、同じ城に居たから、なんとなく妖気を帯びちゃった的な」

 軽くまとめるリーフであった。

(なんとなくで妖気って移るもんなんかい?)

 ベンケーは疑問に思ったが、特に気にするほどのことでもないので黙っていた。

しゅき隙あり!!ありにゃ」

ポンッ…ポタリ…

「にゃはははっ」

ミゥは今夜も楽しそうであった。

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