第31話 Windがゴイスー

「んにゃん♪」

 そのヌルンッとした動きにミゥが目を丸くして獲物を屠る狩人の目反応した。

 ダンッとベンケーにその爪を剥き出して捕獲屠るしようと襲い掛かる。

「獲物をほふるイェーガーにゃー!!」

「俺は獲物じゃねぇ!!」

 ベンケーの頬を軽く引き裂いてミゥがオロトロスの脇腹に突っ込む。

 ツツーッと生暖かい血がベンケーの頬を伝う。

(恐ろしい生物だぜ…狩猟本能全開じゃねぇか…見境なしかよ)

 当のミゥはオルトロスの程よく凍った腹をカシャカシャと両手で引き裂いて遊んでいる。

 すでにヌルンッに興味は無いようだ。

 頭は1個になるわまぁ普通は1個、4脚は粉砕骨折だわ、腹は麻酔なしで裂かれているわ、もうボロボロの魔犬オロトロス。

「所詮は飼い犬…こんなもんね」

 リーフが長い髪を勝ち誇ったように、かき上げる。

「ウハハハハ…ハーハッハッハー」

 高笑いというか、美少女にあるまじきバカ笑い。

「飼い犬<野良犬ってことかしら?」

 ヒトミが首を傾げる。

「犬種によるんじゃねぇかな」

 ヌルッビタンッ…ヌルッビタンッとベンケーが重い足取りで自業自得合流する。

「野良チワワと飼い土佐犬なら、土佐犬100%でござろうからな」

「いや…魔犬…オルトロスよ、犬っていうか怪物よ、土佐犬ひと飲みしそうなビーストなのよ」

 ヒトミが昇天寸前のオロトロスを指さす。

「ひと飲みって…どっちの口で食っても、胃はひとつだろうにな…食事事情が気になるぜ」

「考えてみれば、そうでござるな、仲悪くなりそうな気もしてきたでござる」

「いいじゃない、じゃあ、首がひとつになったなら、いい事したんじゃないの」

 バカ笑いに飽きたリーフがシレッと言い放つ。

「嬢ちゃん…あのざまを見て、いい事って…よく言えるな…」

「早々に下敷きになった男が、よく言えるわね」

「好きで下敷かれたんじゃねぇよ!! ていうか、知ってて、あの魔法連発か?」

 無言で頷くリーフ。

「なにがイケないの?」

 といった表情でベンケーを見ている。

(怖ぇよ…この女、怖ぇよ)


「さて…躾のなってない犬は放っといて…飼い主の方を探しに行くわよ」

「そうね、躾は飼い主の責任だしね」

 ヒトミがリーフに珍しく同意する。


 スッとローブの裾を捲り上げるリーフ、白く細い足を露わにする。

「ふふん」

 自慢げにだ。

「あの椅子が妖しいのよ…ね『フー』」

 宙を斬り裂くように右足を振り抜く。

 壁際の椅子が吹き飛ばされたように弾け飛ぶ。

 舞い上がるホコリがスーッと下に吸い込まれる。

「ビンゴ!!」

 玉座の下、隠し階段が現れた。

「案外…お約束なのね」

 上機嫌ではしゃぐリーフの気分に水を差してしまったヒトミ…

「ぎゃあぁぁぁぁぁー」

 無言でヒトミの大きな胸目障りな胸に指をかざすリーフ。

 その顔は…言うまでもない…羅刹であったという。

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