第3話 ゴブリン強襲

一夜が明けた。

結局、葵はドボルグの家には行かずに、少女魔王、エルゼルタートが住んでいる例の講堂で一夜を過ごした。

結果的に枕を取りに行ったのは無意味だったと言える。


「……普通に自分のベットで起きて、普通に朝日を浴びている……僕ってこんなに順応度高かったんだ……」


朝日が隙間から指しており、葵はボーっとする頭を徐々に起こしていく。

すると、ガチャリと奥の扉が開いた。

葵が振り向くと、そこにはなぜかメイドが立っている。


「め……メイド?」


アメ色の髪のメイドは弾けんばかりの笑顔で手を叩いた。


「おっはよーございまぁぁすっ!いやー、いい朝ですね、アオイ様。よく眠れましたか?」


不意に話を振られ、少々押され気味に葵は答える。


「あ、ああ……はい。自分でも不思議なくらい……」


葵の答えを満足そうに聞いたメイドは、窓を開けながら口走る。


「それはなによりです!あ、申し遅れました、私はエルゼルダート様に扱えしておりますメイドが一人、キナです。キナ・アルザー。どうぞお見知り置きを!あ、それとどうぞ奥の食堂へいらして下さい。朝食の準備が整っておりますので!」


はぁ、と生返事をしながら呆気に取られた葵はおずおずとベットから降りた。

ありがとうございますなのか?よろしくなのか?

葵はとにかく彼女の勢いに押されっぱなしのようだった。


「……ど、どうも。直ぐに行きます!」


結局簡単な返事をして葵は言われるがままに、奥の食堂へと歩を進めた。

この講堂は少し変わっている。

建物の作りは講堂というより古い教会のようだった。

二階建てになってはいるが上は物置として活用されており、実際、玄関すぐの開けたスペースと奥の食堂、エルゼルダートの簡易的な私室ぐらいしかなかった。

古びているが、この建物がこの東地方の外れの森の中の村で一番大きな建物だった。


そうこうしている間に、葵は食堂へ行きつく。

ギイイという大きな音を立てて葵の手の動きと共に扉が開いた。


「お、おはようございます。……うわぁ……」


葵は入ったすぐの光景に完全に眠気を奪われる。

ポツンと大きな机……というより、木の塊のような雑な机が一つあるだけ。

椅子も二、三ほどしかない。

机に被せられた白いシーツの上には、日本の一般家庭並みの朝ご飯しかない。

葵は尚更、昨日聞かされた、この魔族の置かれている状況を思い知ったのだった。


「……おはよう、アオイ。ん?……ああ、朝食のことか?気にするな、アオイの分は用意させた。まぁ大したものは出せないがな。魔王と言っても今は一大事。贅沢など持っての他なのだ。」


それを聞いて葵は大きくかぶりをふる。


「あ、いや、用意してくれてどうも……でもさすが魔王と思ってちょっと驚いて……よく、考えてるなって……」


エルゼルダートは少しおかしそうに笑って葵を席に促した。


「大したことはない……というか、出せるものがないだけなんだ。……まぁ座ってくれ、食事にしよう!」


葵は座って食卓のものに手を伸ばした。

メインはパン。

パンといっても、葵が食べてきたものよりずっと乾燥していた。

葵は次にスープに手を伸ばした。

赤い色のスープだった。どうやら肉と野菜が煮込まれているようだった。


(これ、昨日の晩に食べた確かマルシナ豚……だっけ?豚ってこの世界じゃその、コスパいいのかな?)


葵は他愛ないことを考えながら、スープのスプーンを動かしていると、不意にエルゼルタートの背後の三人に目がいった。

エルゼルタートもそれに気づいたのか、動かしていた手を止めた。


「ああ、紹介が遅れたな……彼女達は、まだ魔王城があったころから私の身の回りの世話をしてくれているメイドだ。左から……」


言葉を引き継ぐように、左端の金髪の女性が話し始める。


「はじめましてアオイ様。紹介が遅れました、カーミヤ・サクシャラと申します。以後お見知り置きを。」


うやうやしく、頭を下げた。

次に一歩踏み出したのは紫色の髪の少女。

葵はおとなしそうな印象をうけた。


「ルナカ・ベイです。担当は主に食事です。

お口に合いましたでしょうか?……まぁ!それはそれは、ありがたきこと。どうぞよろしくお願い致します。」


葵の笑顔に嬉しそうに笑ったのだった。


最後のメイドは先程の


「自己紹介は……さっきしましたよね!どうぞよろしくっス!」


これまた弾けるような快活さで自己紹介を終わらせたのだった。


「ははは……どうも、よろしく……」


メイドに全然慣れていない葵はしどろもどろしながら苦笑いで返事をする。

自己紹介がひとしきり終わると、エルゼルダートは葵に今日の予定を訪ねた。


「そう言えばアオイ、今日はどうするつもりだ?」


「今日?……どうしよう……」


葵はこれには困ってしまった。

帰る方法を探す……と言っても状況から察するにそんな召喚魔術に詳しい魔術師はこの村にいないような気がしていたからである。


(一応約束もしたしな、となれば目先の目標は)


「エネミーガーディアン?を……自分なりに調べてみようと思う。」


それを聞いて、エルゼルダートは予想していたと言わんばかりの顔で後ろの一人、カーミヤに目配せをした。

カーミヤは一礼をして、玄関の方へと歩いて行く。


「ふふふ……そう言うだろうと思って、ドボルグを呼んでおいた。戦士の在り方、エネミーガーディアンの手がかりを手伝うように言ってある。」


葵は内心ほっとした。

気さくなあのゴブリンなら、うまくやれると思ったからだ。


「ありがとう。」


朝食を食べ終えて玄関に行くと、もう既にドボルグが立っていた。

二人は連れたって広場の方へと歩いて行った。


「昨晩はすみませんでした。コーネリングのやつが……まぁあいつなりに魔王様のことを考えてのことなんだ……許してやってくだせぇ……魔王様のお達しは聞きましたぜ。もちろん、俺はハナっからアオイ殿の命を代償に……なんてことは考えてなかったですよ!」


ドボルグは豪快に笑い飛ばした。

葵もこのゴブリンの真意が改めて見て取れたようで安堵した。


「ありがとうこざいます。それと、僕にはかしこまるなんてやめてください。ドボルグさんは確か、魔王の右腕なんですよね?」


ドボルグは幾分嬉しそうにしながら、申し訳なさそうに頭をかいた。


「そう……か?いや、魔王様から、客人だと聞いていたし、対等の存在とも聞いたが……そう言うなら……すまねぇな、やっぱケーゴは慣れねぇんだよな!」


(だろうと思った!)


葵とドボルグはやがて、村の中心のちょっとした広場についた。


「よし……んじゃ戦ってみるか!」


「いや、なんでぇ!?」


ドボルグの唐突な提案に葵は声をうわずらせる。


「なんでって、エネミーガーディアンについて調べんだろ?でも調べ方なんてわからない。なら、まずはアオイ自身の戦闘能力でも調べてみるしかねーだろ?他になにかあるか?」


言われて葵ははっとした。

無茶なようだが、筋は通っているように思えたのだ。


(そうだよ……エネミーガーディアンの詳しい情報は魔王城が落とされた時に無くなったってエルが言ってたし、それに確か正翔まさとが言ってたな。異世界に召喚されたやつって大概チート並みに強いって。よぉおし!)


「分かった。じゃあ、どうするの?」


ドボルグはポキポキと関節を鳴らしながら、葵と対峙する。


「そうだな……組手形式でいこうか。まずは様子見だ。まぁ、アオイはとりあえず全力で来い!本気を見せてみろ!」


「おう!」


実のところ葵に戦闘経験など微塵もない。

ましてや、拳を使った喧嘩の一つもしたことがなかったのだ。

中高と部活はボランティア部。

学校の奉仕活動に日々汗を流していたので、運動オンチでは無いが、これといって動けるわけでもない。


(……な、殴りかかっても平気かな?い、いいや相手は突撃隊長なんだ。取り敢えず、接近する!)


「行くぞおおおおーーっ!」


「むっ……!?」


葵は少し声を張り上げて、走り込んだ。

見様見真似、と言うより、姉が前に見ていた不良高校生の映画のケンカシーンを思い出してなんとなくやってみたのだ。


ブオォン!


大きく張り上げた葵の拳は虚しく宙をきる。


「……あれ?」


しかもそのままの勢いで前のめりに転んでしまったのだ。


「……お、おい、大丈夫か?」


恥ずかしくて赤くなりながらも葵はさっと起き上がって果敢に攻めた。


「おりゃあ!せいっ!ふっーっ!」


「根性はまぁあるようだが、全体的に動きが大きすぎるぜ!」


パシッと葵の突き出た腕を掴んだドボルグそのままの勢いで葵を後方に投げ飛ばす。


「うわぁぁぁぁあーーーーっ!」


人間では考えられない怪力だった。

数メートル先まで転がる葵。

土煙の中、葵はなんとか立ち上がったが、すぐに尻餅をついてしまった。


「はぁ、はぁ、はぁ……す、すごいパワーだ……」


葵はまだ少し呆然としていると、ドボルグが少し申し訳なさそうに近づいてくる。


「い、いやそのすまなかったな……まさか、ここまで弱いとは……オマケに特別力があるってわけでも……」


「はっきり言うなぁぁっ!!」


葵は少しだけ傷ついた。


(分かっていたけど、改めて言われるとこう……)


葵は肩を落としてジト目でドボルグを見た。


「それにしても、本当に、ドボルグさんは守られるような存在なの?力も僕なんかよりすっごく強くて……その……どうして勇者なんかに……」


ドボルグは腰に手を当てた格好のまま笑って空を見上げた。


「確かに、力は人間なんかより強いな。だがな、実はゴブリンてのは魔術抵抗が極端に低い種族なんだ。それに俺はもう、何十年も戦闘訓練を続けてきたし、今もそうだ。だが、全てのゴブリンが俺のようって訳でもない。きっと、ゴブリンはどこの世界でも下級魔族なんだろうな……」


ドボルグは諦めにも似た、どこか悲しそうな遠い目で雲を眺めていた。

葵はその様子に言葉が出ない。

実際、その手の話をあまり知らない葵ですらも、知らずとゴブリンは“下級魔族”、“弱い魔物”という概念が定着していた。


「まぁ、言っても仕方のねーことだ。俺は今もこれからも、自分の出来ることをやるだけだしな。それよりもアオイ、頼みがある。」


「頼み?」


「きっと、他の奴らも、ヴィヴィレオの奴もそう言うだろうが……今のお前では希望も薄いところだが、それでも、何か力があるのなら……」

言葉を止めたドボルグの瞳はまっすぐで熱い。

葵はこの前も、こんな目で自分の心臓を射抜かれたような気がした。


「魔王様、エルゼルダート様だけは守ってやってくれ。」


「エルを?」


葵は言葉の真意が読み取れず、首をかしげた。


「それは……どういう意味なの?」


「エルゼルダート様は俺達、下級魔族の希望の星。引いては、カタストフィア家があったからこそ、守られて、ここまでやってこられた。だからこそ、なんとしてもなんとしてもあの方だけは守らなくてはならない。アオイもそのことは覚えておいてくれ。」


ドボルグのあまりのあまりの気迫に葵は息をつく間もなく立ちすくんでしまう。


「ゴクリ……わ、分かったよ。」


「……そうか、ならば続きといこうか!」


声を張っての仕切り直し。

ドボルグと葵は改めて立ち上がり、組手の続きをしようとした。

その時。


「た、た、たいへんだぁーーー!ドボルグ隊長!」


エルと葵が朝にいた講堂のほうから、血相を変えた若いゴブリンが走りこんできた。


「どうした、ドンク?まさかエルゼルダート様になにかあったのか!?」


ドンクと呼ばれたゴブリンは息を少し整えながら、早口でまくし立てた。


「ち……違うんですっ!魔王様ではなくて、その……」


ドンクは言いづらそうに言葉を切って、口を開いた。



「「なぁっ……!?」」


ドボルグと葵は驚きと戦慄で目を見開いた。

しかしそんな時間もほんの一瞬。

すぐさまドボルグは地を蹴り駆け出した。


「ま……待って!」


おいて行かれた葵も遅れて走り出す。

同時に走り出したはずのドンクはあっという間にドボルグに追いつき道案内を始めていたのだった。

全速力であれからおおよそ十分ほど。

三人は山の中に入り、いまだに走っていた。

やがてドボルグとドンクは何かを見つけたように足を止めて、さっと茂みに身を隠す。

遅れてやってきた葵もあわてて後に続いた。


「ど……ドボルグさん……どうした……」


「しぃっ!静かに!」


葵を黙らせたドボルグはそっと指をさした。

指先の光景はピンチそのもの。

三人の子ゴブリンを追い詰めるように、三人の人間が構えていた。


「っ……あれは、ドレナ、ドミー、ドテキヤ……!あれってヤバイんじゃ……目立って怪我はないみたいだけど……」


長女のドレナが二人をかばうようにして、泣きそうになりながらもこらえて必死に立っていた。


「へへ……子供のゴブリンか……ま、俺達のスタートにしてはちょっとばかり味気ないけど……我慢するか!」


片手剣を装備した少年が、物足りなさそうにため息をついた。

後方の少年もその少年をなだめながらも、気落ちした声を出す。


「だな。それにここらは下級魔族しかいない見習い冒険者おれたちにとってはおあつらえ向きのポイントなのさ。」


「ちょっとぉ……俺達って私も一緒にしないでくれる?あんた達より私の方がぜんぜん、ゆーしゅーなんですけどぉ!」


同類にされて心外だといわんばかりに派手な髪色の少女は頬を膨らませた。


「よく言うぜ……この前近くの村に出たゴブリン、トドメ刺したの俺なんだぜ!?第一ルニ、お前ができんの支援魔術リサポートの回復ぐれぇなもんだろ?はっ……いばるんじゃねぇよ!」


「あんたのほうこそ、私がいないと、治療院から出られなくなるような、マヌケのくせに!」


「まぁまぁ、二人とも落ち着いて。気を抜きすぎだ。」


小競り合いを始めた冒険者のパーティ。

そんな盛り上がりをよそに、しげみではドボルグとドンクが怒りに燃えていた。


「ドボルグさん……奴らの言うゴブリンってまさか……」


「ああ、ドォーニのことだっ!馬鹿野郎、植物の種を分けてもらいにわざわざ人間の村に下りていくからだ……」


ドボルグは悔しそうに唇をかんだ。

ドォーニは、栄養面を考慮して、だった。村のため魔王のために、人里に種子を求めて出かけて行ったゴブリンだった。


ばっと顔を上げたドボルグはさっと作戦を口走る。


「見たところ奴らは、新米冒険者のようだ。俺一人で行く。ドンクは村の、ヴィヴィレオ達に知らせてきてくれ。アオイはこのまま待機だ。下手に動くのもまずいからな。」


頷いてドンクは走り出す。

葵は心配そうに顔を上げた。


「一人で大丈夫なの?」


ドボルグは真っすぐに見つめ返して少しだけ笑う。


「多分としか言えないな。だが、必ず助ける。隊長として、父親として。アオイ、お前さんは自分のことだけ考えてろ。やばくなったらにげるんだぞ?」


そう言ってドボルグは駆け出した。


「うおおおおおーーー!」


「な、なんだ!?」


いきなり現れた敵に慌てる冒険者達。

ドボルグはすぐ前の少年に体当りをした。


「ぐえ……っ!!」


「タツヤ!……くそっ!【リバスター】!」


もう一人の少年が素早く詠唱を始める。

【リバスター】とは攻撃魔術アタックスペルの一種で、体内を駆け巡る自身の魔力をエネルギーに転換して放つ初級魔術だ。

ドボルグはそれを間一髪でかわす。

そしてすらり腰の剣を引き抜き今度は少女、ルニへと肉薄する。


「え……ちょっ……」


反応が遅れたルニに重い一撃。


「きゃぁっ……!!」


「「ルニイイイイィーーーーっ!!!」」


数メートルほど転がされたルニは起き上がらない。

ノーガードだったために気を失ってしまっていた。


「野郎ルニを……っ!!」


タツヤは怒りに身を任せ、走り出しながら、片手剣を前にかざして詠唱をする。


「ミンチにしてやるぜ!【リフォース】」


瞬間、少年の体が青白く光る。

強化魔術【リフォース】

魔術許容量、身体能力等をさらに一段階上げる技だ。

詠唱前よりも素早くドボルグへと差し迫る。


「はっ……冒険者共どいつもこいつもバカの一つ覚えみたいに、強化魔術ばっか使いやがって!」


「なぁ……っ!?」


若き冒険者の思考回路は完全に狂ってしまう。

ゴブリンに、下級魔族に、自分の一撃が避けられるなんてことは、考えられなかったからだ。


「単調で芸のねぇ、青臭い攻撃が当たるかよっ!カタストフィア家のゴブリン族隊長、なめんなよ!」


そのままの勢いで、ドボルグは鋭い一撃を放つ。


「ぐがっ!」


さらに前方の木に直撃。

タツヤはそのまま戦闘不能におちいってしまった。

もう一人の少年の姿はいつの間にか消えていた。

辺りに静けさが戻ってきたとき、端に避難していたドボルグの子供たちがかけよってくる。


「とおぉぉぉぉちゃゃああああんっっ!!!」


「うおっと……へへ……いつも言ってるだろ、ドミー。男がそう簡単になくんじゃねぇ。いざって時は、お前が姉ちゃんや妹を守んなきゃいけねぇんだからな。」


ドミーはあわてて涙をぬぐい父親に胸を張る。

同じように、泣いている娘達をドボルグは優しくその頭をなでた。

離れた所で、葵は安堵やら微笑ましさやらで笑みをうかべていた。


「良かった……本当に。でも、ドボルグ強いんだな……」


「当たり前ではないか……」


「へぇ……ってええぇっ!?」


急にこえがしたので驚いて見てみると、いつの間にか、ケットシーのヴィヴィレオが葵の隣にいたのだった。

ヴィヴィレオは構わないという風に、話をつづけた。


「いくら下級魔族と言っても、やつは何十、何百年と前線で戦ってきた屈強な戦士。昨日、今日冒険者になった若造に遅れはとるまい。ああすまない。彼が君に対してとてもフレンドリーに接していたのでね。私もそうさせてもらうよ?」


「う、うん(い、いつからいたんだ?)とりあえず、解決ってことでいいんだよね?」


みるとドボルグ達もこちらに向かってきていた。


「ふむそれでは……はっ!?」


突然ヴィヴィレオのつぶらな大きな瞳が大きく見開かれる。


「よけろ、ドボルグ!!」


ギャンツツ……


「えっ……」


葵の前を矢のごとき光が一瞬で駆け抜けた。

聞こえたのはヴィヴィレオの叫び声。

目にしたのは崩れ行くドボルグ。

子供達は突き飛ばされている。


「ぐああああっっっ!!!」


「お父さんっ!」


長女ドレナが目にしたのは、肩付近を貫かれたドボルグだった。


「何が……何が、どう……」


葵が動揺している間に、草や葉をかき分けて進んできている音がしてきていた。


「ふん……大きな音がしていたので来てみれば……ただのゴブリンザコではないか……」


現れたのは冒険者の一行。

葵でも分かるほど、【冒険者】という顔つきをしていた。 

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