第2話

 その団地の一室にある家に帰ると、使っていないユニットバスの上に台座をひき、そのうえに水槽を載せた。小さな歌声が聞こえ、様々な色に光る水の中を人魚が泳いでいた。


「今日から楽しいことが増えた。

よろしくな。人魚さん。」


とても心が弾んでいた。


 別の日、また仕事の面接に行った。圧迫面接で心は疲弊しきっていた。


「ただいまー。」


誰もいないから言わないでいた言葉が自然と口から出た。

まず風呂場に行った。

水晶玉の中を見ると人魚がこちらを向いて泳いできた。


「へー。ぼくがいるのが分かるんだ。」


なんだか人魚がほほ笑んだ気がした。


 人魚がいるから寂しさも感じず明るい気持ちにはなったものの相変わらず仕事は決まらなかった。特に今日行った面接先はひどかった。

晩御飯の後、気を紛らわすために缶ビールとつまみを買ってきて、風呂場で酒盛りをすることにした。


「本当に最悪な面接官だったんだ。

何でそんな何回も転職してるんだ?って馬鹿にされたよ」


人魚に自分の言葉が通じるとは思っていないが、喋り続けた。

分かっているのか分かっていないのか人魚はこちらをじっと見つめていた。


「いまどき一つの会社に定年までずっといる人間ばかりじゃないのに、自分はこの会社にずっといるって聞いてもいないのに言われた。

どうせ、まただめだろうな。」


そんなことを捲し立てながらビールを飲んでいると、驚いたことに人魚が喋った。


「きっと、大丈夫。元気・・・出して。」


ぼくは目の玉が落ちてくるんではないかというぐらい目を開けて、しばらく呆然としていた。


「君・・・喋れるんだ。」


人魚は頷いた。

酔いも醒めてしまったが、改めてビールを飲みなおし全部飲み終わった。





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