第50話 エピローグ

 色々と問題はあった。

 でも、綾波先輩については保留していい。

 私が真に注意すべき、警戒すべき、排除すべき存在は音無花音をおいて他にない。


 可能性。

 そう、あくまで可能性の話。


 お兄ちゃんの知らない秘密。

 私が『麗菜わたし』である秘密を、私の知らない所で暴かれる可能性。


 絶対に知られてはいけない真実。

 いずれはバレるとしても、それは──。



 ◆◇◆◇◆



「ごめんね、お兄ちゃん」


 部屋に入るなり、いきなり謝罪されたお兄ちゃんは、理由が分からない様子で小首を傾げる。

 そんな姿もとても可愛い。


「音無先輩に勝てなくて……」

「あー、なんだそれか。別に気にしなくていいんだぞ? ……確かにストーカーはやめて欲しいけど、そこまで実害はないから」

「実害がないからって、それが許される訳じゃないんだよ」


 お兄ちゃんに実害はなかったとしても、私には十分過ぎる悪影響を与えている。そのことをお兄ちゃんは分かっていない。


「そうかもだけど、あれは言っても無駄だと思う……」


 諦めを口にするくらいには、音無先輩に何度も言い含めているのを知っている。

 だから交換条件を持ち掛けたんだ。

 私が勝ったら、お兄ちゃんに犯罪紛いで付きまとうのをやめろと。


「お兄ちゃん……。麗菜さんとのデートを、四六時中監視されて嫌じゃないの?」

「うっ……それは……」

「ほら。やっぱり何とかしないダメだよ」

「そう、だな……」


 ある意味では、お兄ちゃんと麗菜が一線を越えるような事がないから安心する。

 でも一方で、音無先輩が『麗菜』の正体に気付く可能性がないとは言い切れない。


 お兄ちゃんがなら、少し『計画』を修正するだけでこと足りる。そこは既に何度も想定しているから問題ない。

 でも他人に知られた場合は、もっと厄介なことになり兼ねない。どのような結末を迎えるか、測り兼ねない。


「音無先輩が自分からやめたりしないのは、もう分かってるから……。だから私が何とかするね?」

「穏便にな?」

「もう、大丈夫だから心配しないでよね! 今度こそ勝って、排除するから!」

「排除って……また物騒な……」

「えへへ……」

「褒めてないよ!?」


 よし、これで一応釘は刺した。

 音無先輩に何処かで見られていると認識していれば、麗菜相手に手は出さない。

 それは莉音わたしだけの特権だから。


 お兄ちゃんと添い遂げるための壮大な『計画プラン』は、着々と進行している。障害すらも利用して、お兄ちゃんの心へ毒のように侵食させる。


 ──毒か。

 私が異常なのはずっと前から知っている。

 きっとお兄ちゃんにとって、私という存在は毒なんだ。


「それでも……私は……」

「うん? なんか言った?」

「なんでもなーい。それよりも昨日のゲームの続きしよ。お兄ちゃん♪」


 私の想いは揺るがない。

 確かにこの想いは異常で、だけど決して間違いではないから。

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