夏休み編

第一章 海水浴と夏祭り

第51話 プロローグ(黒)

 その日。

 私は三月に書き綴った内容を、改めて目に焼き付けた。


「三月二十一日、木曜日。


今からここに記すのは、私と敬愛するお兄ちゃんとの現時点においての関係性。

 そして、将来的にお兄ちゃんと添い遂げるためにも、必要不可欠な『計画』についてを記すものである。


 まず、私とお兄ちゃんの関係は良好。

 ただし、一般的な兄妹の範囲でというだけ。


 私と同じで兄を持つクラスメイトの話では、一緒の部屋で過ごすことがなければ、一緒に登校することもないという。

 つまり仲は悪くないけど、別段仲が良い訳でもないということらしい。


 他の子にも話しを聞いてみる。

 例えばYさんの所では、些細な事で毎日喧嘩して嫌いだと言う。

 例えばMさんの所では、そもそも兄を『お兄ちゃん』や『兄さん』と呼ばずに、『お前』とか『アンタ』などと呼ぶそう。

 例えばRさんの所では、学校では近付くことや話し掛けることを禁じ、兄妹であることすら隠すように命令しているそう。


 以上の点から見て、一般的な兄妹の間は大変冷めていて、私たちのような関係の方こそ珍しいみたいだった。


 なんて悲しいことだろう。

 冷めてるのはまだいい。でも、どうして兄妹であることすら隠そうとするのか。その辺が全く理解できない。


 友達にバレるのが怖い?

 恋人が出来ないから隠したい?


 それを聞いた時に『はっ? 何言ってんの?』と言ってやりたかったのを、ギリギリで抑えたことは記憶に新しい。

 だって本当に意味が分からない。


 何が怖いって言うの?

 兄がいたら、友達がいなくなると本気でそう思っているの?


 なんで兄がいたら恋人が出来ないの?

 それは縁がないか、自分の努力が足りないだけでしょう?


 まぁ、こうして意味の分からない理由で、兄を遠ざけるバカモノも結構いた。


 同じ妹という立場だからと、興味本位で話を聞いた事に対する愚痴はここまで。

 この地道な調査結果を踏まえると、私たち兄妹の関係は非常に良好だと分かった。


 それは当然だ。

 私はお兄ちゃんが好き。この世の誰よりもお兄ちゃんを愛している。

 この国が近親婚を認められていれば、今すぐ婚姻届を提出したに違いない。


 だから世の多くの妹たちが、兄を嫌うということ自体が信じられない。寧ろお兄ちゃんと結婚して、幸せになりたいと思わないなんてどうかしている!

 幼い頃に『将来はお兄ちゃんと結婚する!』と言った時の、あの溢れるような恋心はどこへ行った!?


 また話題が逸れてしまった。反省。

 だけど、それくらい私は世の妹に怒りに似た感情を抱いてる事を理解してほしい。

 別に誰に言う訳でもないけれど……。



 さて、本題に戻ろう。

 お兄ちゃんとの関係は、兄妹として非常に良好ということの確認が取れた。

 続いて、私とお兄ちゃんが添い遂げるために必要なことを記そう。


 そう。

 私はお兄ちゃんが好きで、可能なら結婚したいと心の底から願っている。

 でもこの国では、近親婚が認められていないため、書類上で結婚する事は叶わない。


 故に私は考えた。

 書類上では不可能でも、気持ちだけでも『夫婦』となるにはどうするか。

 私の心は昔から変わらない。

 この先も、この想いだけは変わらずに輝き続けるだろう。


 それなら後はお兄ちゃんだけ。

 お兄ちゃんの心が私へ向けば、それだけでこの想いは成就する事ができる。


 だからここから始めよう。

『実妹に恋するその瞬間』計画プロジェクト・シスターコンプレックスを──。」

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