第6話 麗菜とデート3
それからも気まずい雰囲気から抜け出せずに、無言の時間が静かに流れてしまった。
そうしている間にもアシカショーの時間が迫り、やっとぎこちなくも会話を再開した。
「そ、そろそろだよな?」
「は、はい。もうすぐ……ですよね」
「…………」
「…………」
くそっ! な、何か話せよ俺!
──とは思うが、どうしても会話が続けられない。
さらに昨日の莉音の言葉も思い出してしまい、余計に意識をしてしまう。
完全に悪循環に入ってしまい、このままでは残り半日もこうなるのではと思うほどだ。
「キス、か……」
「ふぇっ……!?」
「──ッ!?」
今なにを口走った俺ッッ!?
なにナチュラルに今一番デリケートな部分を声に出しての!?
麗菜は真っ赤になってるが、俺も多分凄いことになってる気がするんですが!
「ち、違うぞ誤解だ! 今のはその……口が勝手にえー……」
「そ、そうなんだ……」
「…………」
「…………」
さ、さっきよりも更に気まずくなってしまった……。この後のアシカショーどうすんの!?
──こうして更に更にややこしいことになったのも束の間。
館内放送が無情にもアシカショーの開演を明るく告げる。
「あっ……も、もう行かないとですね!」
「そ、そうだよな! じゃあすぐに行こう!」
結局またも、恥ずかしさに耐え切れず二人で疾走することになった。
それからアシカショーは歓声に包まれて終わりを告げた。
さっきのキスの件などで悪くなった雰囲気は、上手いことショーの興奮で吹き飛んだようだった。
「おもしろかったですね! あのアシカさんったら──」
「ピアノに合わせて『ぐおおおおおお』って……ははははっ!」
「も、もうやめてください陽太君! ふふっ……わ、私までまた……」
いや、本当にあのアシカの破壊力は凄まじいものがあった。あんな声出すなんて……もう笑わせる気満々だったよ、本当に。
そんな思い出し笑いをしつつ、内心ガッツポーズを決めていた。
これで残りの時間はしっかり楽しめそうだ。
「他には何かショーはあったけ?」
「あ、もうなかったと思いますよ」
「そっか。なら後はゆっくり見て回れるな」
「はい。あっ、それならアザラシを見に行きませんか? ここのアザラシなかには、カメラを向けると近付いてくる子がいるそうですよ」
「へぇー。そうなんだ」
動物の知能は人間より低いと言うが、案外バカに出来ないものがある。
たまにこういう珍しい子もいるんだからな。
「それじゃあ行こうか」
「はい、陽太君」
麗菜は綺麗な笑みを浮かべて、俺の手を取り目的地まで歩き出した。
◆◇◆◇◆
彼女の前でくらい見栄を張りたい男は何人いるのだろうか。
きっと大多数の男が、少なからず彼女に格好付けたがるのではないだろうか。
それが例え小さな、ほんの小さくて分かりにくいものであったとしても。
そして俺もその一人。
さっきのように、柄の悪い野郎を前に立ち塞がるナイトというのも、ある意味では格好付けたかった部分もあったのかもしれない。
あの時は結局、最後の最後で情けなく呼吸を乱してしまった。
そのリベンジという訳では決してないが、せめてデートの時くらいは──。
「ダメです。ちゃんと半分にします」
「いやほら、たまには……ね?」
「ダメなものはダメです。デートなんですから、二人で割り勘に決まってます」
彼女の夕飯代くらい払っても良いのではないだろうか……。
「いやでもさ? たまには──」
「男の──彼氏の意地とかはいりません。私は二人で分かち合いたいんです。奢って欲しい訳ではないんです。何度も言ってますよね?」
ということで、俺は今回も彼女に全額奢るという意地を通せそうになかった。
もちろん俺のお財布もそこまで余裕がある訳ではないので助かるんですが、でも一度くらい見栄張ってもいいよね!?
ダメですか麗菜さん!
どうも俺の彼女は、
色々と考えてくれるのは嬉しいが、どうせならその辺の男心も少しだけでも分かって欲しいと思うのは我儘かな?
「とにかくダメなんです! それだけは絶対に譲りませんから」
「わ、分かった……」
「はい。分かればよろしい」
「…………」
そして今日も今日とて、
そして夕飯を食べ終えた俺たちは、暗くなった空を眺めて帰路につく。
どうせなら麗菜を家まで送って行きたいが、流石に遠過ぎるため
俺は別に構わないのだが、恐らく麗菜の方が気にしてしまうと思うのだ。
「今日も楽しかったです。ありがとうございます陽太君」
「俺だって楽しかった。というか、本当はもう少し一緒にいたいんだけどな」
「それは……ごめんなさい。寮には門限がありますので」
「分かってるよ。またデートしような」
「──は、はい!」
麗菜は寮生活をしているそうだ。
両親は海外出張していて、女子高生一人の暮らしに不安を感じた二人に勧められて寮に入ったという。
そして寮は門限に厳しいのだそうだ。
「あっ……電車来ちゃいました」
「──そう、だな」
やはり寂しさはある。
ここまで麗菜にゾッコンしている自分にも驚くが、本当に来週まで会えないのが辛い。
けれど、麗菜に迷惑を掛ける訳にもいかないから、仕方なく納得している。
納得するしかないのだが──。
「それじゃあ陽太君。また、ね?」
「あ、ああ。また電話するよ。じゃあな」
「うん。気を付けてね?」
こうして今日のデートは終わった。
──ああ。
そういえば結局
少し──いや! すっごく残念だった!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます