第4話 麗菜とデート 1

 俺の彼女の麗菜は、電車で十駅以上先の街で暮らしている。

 麗菜は偏差値の高いお嬢様学校出身で、そのためか男性と関わることが極端に少なかったという。

 小中と女子校で、高校一年の現在も同様だ。


 だからと言って、男性に興味がないという訳ではない。

 寧ろ恋に憧れる普通の乙女であった麗菜は、それ故に出会い系アプリに手を出したのだという。


 もちろん期待はしていなかったそうだ。

 自分が使っているアプリが、あまり良いものではないのは理解していた。

 しかし高校一年生の麗菜は俺同様に、大手のアプリを活用することは出来ないのだ。

 だから仕方なく、麗菜は『出会いいね!』を使うことに決めたそうだ。


 麗菜も初めは金銭や性的目的の相手ばかりで、半ば諦めかけていたそうだ。

 やはり高校を卒業するまで、恋人は出来ないのだろうと。


 しかし麗菜は見つけてくれた。

 俺というユーザーを。俺という『彼氏』を。


 ◆◇◆◇◆


「母さん、今日は外で夕飯食べるから」

「はいはい。その、麗菜ちゃん? しっかり捕まえておきなさい」

「そうだぞ陽太。二度とないチャンスだ」

「本当に信用ないわけね……」


 だいたい二度とないとはなんだ。

 実の息子とはいえ、あまりにも失礼過ぎるんじゃないか?

 だが抗議しようとも、こればっかりは俺自身も納得していることなので、あまり反論できない。


 仮に麗菜と別れて、新しい彼女ができたとしても、きっと麗菜以上の女性ではないと確信している。

 もちろん俺から別れを告げることは決してないのだが。


「あれ? 莉音はまだ部屋なのか?」

「莉音ならとっくに友達の家に遊びに出掛けたわよ」

「は? 早くないか?」


 現在時刻は午前七時半過ぎ。

 母さんによれば、莉音は六時には家を出て行ったという。

 いくら休みとはいえ、こんなにも早い時間に遊べるのだろうか?

 それとも、莉音の友達とやらはそんなにも早起きなのか?


「──そういえば、俺って莉音の友達は誰も知らないな……」

「うちに来たことないもの。知らなくて当然でしょ」


 相手の家に遊びには行けるのに、何故こっちには呼ばないのか疑問だが、妹の交友関係にとやかく言うつもりもない。

 ──と、父さんが不安そうな目で俺を見る。


「それよりも陽太。お前こそ大丈夫なのか? お前の考えるデートプランは、どうも不安でならないんだが……」

「あのな……少しは信用しろよな。そもそも初デートって訳でもないから大丈夫だ」


 恋人になる前にも、すでに四回もデートをしているのだ。

 恋人になった後も、二回はデートしている。

 今さら心配される謂れはない。


「絶ッッッッ対に! 失敗するんじゃないぞ?」

「ええい! どんだけ信用してねぇーんだよ!! ここまで信用されねぇーと流石の俺も傷つくわッ!」


 ──そんな朝の会話もあったが。

 俺は準備万端、意気揚々と待ち合わせ場所まで向かった。


 俺たちは自宅が遠く、どちらかが会いに行こうとすれば必ず電車を使う。

 だから簡単に会うことが出来ない。放課後に軽めのデートすら難しい。

 だが、そう悪いことばかりでもない。


 俺は待ち合わせ場所に辿り着くと、真っ先にに麗菜にラインでメッセージを送った。

 ──するとすぐに返信が届いた。


『おはよう麗菜。今はどの辺りにいるの?』

『はい、おはようございます陽太君。あと二駅で着きますよ』


 ならあと十分程度か?

 俺は一度スマホを耳から離して、画面に表示された時計を見た。


『分かった。俺は駅の北口で待ってるから』

『はい。すみません陽太君……』

『えっ? 何が?』

『私の身支度が遅いせいで、時間にも遅れてしまって……』

『大丈夫、気にしないでくれ。女の子は男なんかより大変なんだからさ』


 女の子が身支度に時間を掛けることは、どんな人でも知っていることだ。

 自惚れかも知らないが、麗菜は彼氏である俺のために時間を使ってくれている筈だ。

 それを、彼氏おれが邪険にすることはありはしない。──というか、そんなことする奴がいるのか?


『それより楽しみだな』

『はい。私もまだ行ったことない水族館なので、とっても楽しみです』


 今日のデートは水族館だ。

 因みに前回も水族館に行ったのだが、それはまた別な場所だ。

 お互いに家が遠いこともあって、どうしてもデートするなら軽い遠出になる。

 ならばいっそ、二人で楽しめる遠出のテーマパークを巡るのも悪くはない。


 もし近くに住んでいたら、お互いの地元という小さな枠でデートをしていたかもしれない。

 高校生同士のデートなのだから、普通はそれくらいの規模になるだろう。

 だから、そう悪いことばかりでもないのだ。


 それからおよそ十分後。


「陽太君!」

「──っ! おはよう麗菜」


 俺の名前を嬉しそうに呼ぶのは、清楚な黒髪美少女な俺の彼女。

 佐藤麗菜だった──。

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