第184話 疼き(2)

彼女は


貪欲に


身体を求めてきた




今まで


こんなこと


一度もないくらいに。





激しく


息も詰まりそうなほど


欲望の全てをさらけ出すように


身体をゆだねてきた。




「・・どうしたの・・」



目を閉じて


眠っているのかと思えるほど


ぐったりとして身体を預ける萌香に


斯波は静かにそう言った。



その言葉が


萌香の心の隅々まで


しみこんで。



何も考える前に


涙がポロポロとこぼれ落ちた。




「・・ご・・ごめんなさい・・」


と、斯波に抱きついた。


「萌・・?」



「ごめんなさい、」


身体を寄せてただそう言って泣くばかりだった。



そんな彼女に


それ以上何も聞けなかった。





「栗栖、明日の会議の資料さあ・・」


志藤が話しかけると、明らかに心ここにあらずの萌香がぼーっとして宙を見ていた。


「・・栗栖?」


顔を覗き込む。


「え・・、あ・・はい、」


ハッとして志藤を見た。


「どないしてん。 今日、めっちゃぼーっとしてるで。 珍しい。 お母さん、無事に退院したんやろ?」



「・・はい・・。 とりあえずウチで療養することに・・」


萌香は慌てて資料を揃え始めた。




その時、デスクに置いてあったコーヒーをこぼしてしまった。


「あ! す、すみません!」


ファイルを移動して、慌てて拭いた。



明らかに萌香はおかしかった。


それは志藤にも丸わかりで。




二人で外出した時に


「ちょっとお茶でも飲もうか、」


志藤は笑顔で萌香に言った。


「え・・でも、もう4時ですし・・」


「ああ、ええやん。 そんな忙しくないし、」


志藤は構わずに喫茶店に入って行った。




悩みがあるときは


なぜ、こうして人からジッと見られるのが


いたたまれないんだろうか。



萌香は頼んだブレンドコーヒーに目を落としながら、自分をじっと見つめる志藤の視線が気になった。



「・・なんかな。 おまえらしくないなあって。 気になるやん、」


ポツリとそう言った。




萌香はドキンとして、


「・・い、いえ・・何でも・・」




何でもありません、と言おうとしたとき


やっぱり、胸が


ものすごくざわざわして、


萌香はまた泣いてしまった。





「栗栖??」


志藤はいきなり目の前で彼女に泣かれて焦った。



「す、すみません。 すみません・・」


萌香は両手で顔を押さえた。



「・・別に。 話したくないことやったらええねんけど。 もし、おれでよければ話、聞くし。 少しは気が楽になるかもしれへんで、」



優しい言葉に萌香は


「・・私・・、すごく・・自分の図々しさが、イヤで、」



自分の気持ちを話し始めた。



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