第83話 儚く(2)

熱いシャワーを頭から浴びながら


斯波は


ゆうべのことを


生々しく思い出してしまった。



とうとう


一線を越えてしまって


彼女を


また傷つけたりしなかっただろうか・・。



こんなに


簡単なことだったんだろうか。



後悔の気持ちがないわけではなく。



それでも


今思い出しても


彼女の身体は


信じられないくらい



最高だった



離したくなくなるくらい・・



今までの男もそうだったんだろうか。


あの男も・・



などと


考えてしまい、


首を振って慌てて打ち消した。



何を考えてるんだ、おれは・・。



これから


あの男から彼女を


引き離す術を考えなくては。



絶対に


もう離さない。




斯波は先に出社して午前中はずっと会議に入ってしまった。


昼前にようやく終えて、部署に戻る。


何となく萌香の姿を探すが、彼女はいなかった。



「・・栗栖は?」


南に聞くと、


「え? ああ。 萌ちゃん、今日は具合が悪くてお休みしますって。 斯波ちゃんが会議に入ってすぐに電話があって、」



その言葉に




「え・・」


斯波は思わず言葉を失ってしまった。



「仕事のことは説明受けてるから、あたしがやるし。」



「・・休み?」



どういうことなんだ・・?



斯波はすぐに休憩室に行き、彼女の携帯に電話をした。


しかし


電源が切られていて繋がらない。



変だ。




言いようのない


胸騒ぎがして。


不安で


どうしようもなく。




昼休みにバイクを飛ばして自宅マンションへ行く。


萌香の部屋のインターホンを押したが


まったく反応がなかった。



「萌!」



思わずドアを叩いて大きな声を出してしまう。


それでも


部屋の中はシンとしている。




斯波は慌てて自分の部屋からスペアキーを持ってきて、彼女の部屋を開けた。




え・・・?



部屋は


きれいに片付いていて。



もともと備え付けになっていた家電はあったが、怖いほど


何もなかった。



頭が混乱する中


思わずクローゼットを開けてみると


そこには


何も残されていなかった。




なに・・?



この状況を理解しようと思っても、


それができないほど


フリーズしてしまった。


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