第37話 守る(1)

「あのな、」


志藤は優しく語りかけた。


「十和田会長のスポンサーの話。 受けないほうがいいって言うたのは・・斯波や、」


「え・・」


萌香は志藤を見やった。


「あいつが・・そうしたほうがいいって言うたんやから、」




だから


おまえのこと


嫌いだとか


そんなふうに思ってへんて・・




そう続けたかった。



萌香は戸惑うようにまたうつむいてしまった。



なんか


や~~な予感するし。


どうなってんねん、この二人。



志藤は小さなため息をついた。




「斯波、ちょっと。」


出社した志藤は斯波を呼んだ。


「はい、」


二人は向かいにある小会議室に入って行った。


「おれ、ゆうべ寝ないでいろいろ考えたんやけど、」


志藤は座りながら口を開く。


「どう考えても・・ちょっと受けられへんなあって。」


「え、」


斯波は志藤を見た。


「ほんまはな。 スポンサーは喉から手が出るほど・・欲しい。 だけど、」


「昨日、彼女と話をしたんですか?」


少しこわごわと聞いた。


「した。 しかも・・あいつ、めっちゃくちゃ飲みやがって。 つぶれてしまって。 ウチに泊めた。」


タバコをくわえながら言うと、


「えっ!」


斯波は絶句した。


「・・何を想像してんだ。 ゆうこもいるやん、」


志藤は少し疑っているような彼をジロっと睨んだ。


「どんな、話を・・」


彼の問いかけに、


「う~~ん・・」


志藤は黙ってしまった。


「ちょっと・・言えない。 悪いけど。 でも、聞いてしまったらな、あのスポンサーの話、受けるわけにいかない。」


思わせぶりに言われて、斯波はものすごく気になる。


「社長になんて言って断ろうかって。 しかも、十和田会長にも。 無下に断ると、なにか彼女にするんやないか、とか。 いろいろ考えてしまって。」


志藤は頭を抱えるようにそう言った。



確かに


十和田は萌香のことを前提にしてこの話を持ってきたのだろう


斯波はそう思った。


「・・社長に相談してみましょう。 きっと、なにか道が開けるかも、」


この話を断って欲しいと思っていた斯波は珍しく必死にそう言った。


「う~~~ん、」


志藤はタバコを手にまた悩んでしまった。



気は進まないけどなあ


おれが社長が苦手だからか。


ってわけでもないけど・・


彼女のことを全部話さなくてはならないだろうし・・



志藤は大いに悩んだ末、意を決して北都の前に行く。


「なんなんだ。 葬式みたいな顔をして。」


いつものようにクールにそして鬱陶しそうに北都は志藤を見た。


「・・あのう・・麗明会の十和田会長のスポンサーの件なんですが、」



なんだかドキドキしてきた。



「お、お断りしてはまずいでしょうか、」


思わず声が裏返ってしまった。



北都は志藤の顔をジーっと見て、


「・・いいんじゃない?」


とあっさりと言った。


「へ・・?」


志藤は一気に気が抜けていくようだった。


「別に。 オケのことはおまえに任せてあるし。 断っても別に構わないけど。」


なんだ、そんなことか。


と言ったようにサラリと言うし。



「し、しかし・・社長のお知り合いからの紹介だと、」


「ああ、別に。 この世界、そういうのが通じない部分もあるから。 好きにやれば。」


「好きにやれば、って・・」


「何か考えがあるんだろう、」



新聞に目を通しながらそう言う社長に


志藤は半ば呆然と立ちすくんでしまった。


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