第11話 顔(3)
もう
こんなこと
慣れてる
他人が
自分のことをどう思っているかくらい
わかってる
それに傷ついて
いちいち
泣いたりしない。
私は
もう
人並みの幸せなんか
望むことさえ
許されない。
一生
こうして
誰も愛さずに生きていく。
萌香は誰もいなかった女子ロッカーに入り
壁にもたれて大きく息を吐いた。
携帯のメールが着信している合図に気づいた。
『来月、東京に行く。 また連絡をする。』
事務的なメールに
フタをするように
携帯を閉じた。
生まれ変わることは
許されない
もう
誰にも助けてもらおうとは思わない
だけど・・
携帯をぎゅっと握り締めた。
デスクに戻ると
志藤がスっと彼女のところにやってきて、紙袋を置いた。
「ここの近所の中華屋のテイクアウト。 お粥もやってんの。 なんも食べてへんのやろ?」
「え・・」
彼を見上げた。
「胃けいれんて痛いもんなあ。 おれも大学の時に定期公演の指揮、初めて任された時。 あまりに緊張して胃けいれん起こしたことあって。 そのあと2日くらいまともなメシ食えへんかったもん。」
とニッコリ笑った。
黙ってうつむく萌香に
「休みたくないんやったら、少し食え。 体が参ってしまう、」
志藤は優しく、そして少し諌めるように言った。
「ありがとう・・ございます、」
あんなに自信満々で尖っていた彼女とは
まるで別人のように弱々しくそう言った。
「じゃあ、悪いけど。 これお願いね。」
南は書類を萌香に手渡した。
「・・はい、」
小さな声でそう言って彼女はそれを受け取った。
彼女が部屋を出て行った後、南はそこにいた斯波に
「なんか、最近影薄くない?」
と言った。
「は?」
「彼女。 来たばっかのころよりも・・」
それは
何となく思っていたが。
「あんなに怖いくらいの気をめっちゃ出してたのに。 元気もないし、」
あの時
自分の前で倒れてからの彼女は
『素』の彼女と
何かを装っている彼女がいったりきたりしているようにも思えた。
萌香は一人の自宅に戻って、ベッドに倒れこむように寝転がった。
ここに来れば
一人になれると思ったのに。
一人になりたかったのに。
一人がこんなに
寂しいなんて。
小さなため息を
ひとつだけついた。
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