第4話 始まりの春(4)

萌香はふっと鼻で笑うようにして、


「私のこと見たときに『どんな女が来るんだろう』って顔してましたから、」


志藤を見た。


「別に、そんなこと。」


ちょっとドキっとした。



この子は


本当に25だろうか。


世の中のことを全てわかったような


顔をして




「誰にだって過去はある。 おれだって威張れるようなこと・・してこなかったし。」


志藤はタバコを取り出して口にくわえた。


「大阪ではかなりの有名人ですから。 本部長は。」


萌香は少し笑った。


「ま・・ほんまにどう思われててもしゃあないなあってほど、大阪でのおれはどうしようもなかったけどな、」


「仕事は抜群にできる方だとも聞いています。 でも、女性にはだらしがないって、」


「昔やで、昔。」


「私も。 どんな方なのかなあって・・思っていました。」



油断をすると


負けてしまいそうなほど


自信たっぷりで


その何ともいえない


男を


一瞬にして虜にする術も全て知っているような



彼女の雰囲気を


ひしひしと感じていた。




女性に関しては


自分ではかなり鋭い方だと思っていた志藤は


畠山が彼女に


骨抜きになっていたのではないか、と


想像ができた。


それほど


彼女は魅力的な女性だ。




でも


こうしていても


全く人を寄せつけない


ものすごい壁を作っているようにも思える。





「ねえねえ、栗栖さんて名前、萌香ちゃんでしょ? 萌ちゃんでええかな、」


南は萌香にいろいろ仕事を教えていた。


「そんなに気安く呼んでくださらなくても結構ですが、」


萌香は仕事をする手を止めずにそう言った。


南は何とか彼女の懐に入ろうとして、


「ね、お昼行かない? めっちゃ美味しいお店あるし、」


と誘っても



「今日は食欲がないので。 お昼は抜きます。」



まったく


心を開こうとしなかった




志藤は昼休み受付の前を通ると、


「あ、お昼ですかあ?」


受付の女子社員二人ににじり寄られる。


「え? あ~・・行く?」


とりあえず誘ってみた。



「志藤さんのところに大阪から来た栗栖さんて人、入ったでしょう?」


興味津々に話を持ってこられた。


「え? うん、」



「彼女、大阪の畠山専務の愛人だったってほんとなんですかあ?」



この話が


自分が思っていたよりも


かなり、有名な話だということがわかった。



否定も肯定もしないでいると、


「他にも。 大阪支社で彼女と関係あったって男性社員がいるらしいよって。 大阪の同期の子が言ってましたよ。」


「畠山専務のことも、自分の出世のために利用したんじゃないかとか言われてるらしいし。」



女性は


噂好きではあるけど。


こうまで悪く言われているとは想像がつかなかった。



「とにかく、社内で女友達もいなかったみたいだし、浮きまくりだったらしいですよ。 まあ、仕事はすっごいデキる子らしいけど。 確かにすっごい美人だし、色っぽいし、スタイルも抜群ですけどね~。 男の人ってああいうタイプに弱いんですかあ?」


などと振られて、


「・・ん~~、」


曖昧に首を振った。



ここはいったい


どういうリアクションをすればいいのか?


そして


そんなん言われてる彼女におれは


どう接していったらええねん!




志藤の頭の中はもう


そのことでいっぱいだった・・







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