第2話 始まりの春(2)

社長に腹が立つ!


と思っていたのに。



翌日


新年度第1日目の4月1日。



「わ~~~っ!! ほんまにも~! もっと早く起こせって!」



志藤は慌てふためいて、洗面所で顔を洗っていた。



「何度も起こしましたよ。 ほんっとにもう、いっつもギリギリで、」


ゆうこは後ろから寝癖のついた髪をムースで整えてやっていた。


「しかも!! 今日は新年度第一発目の取締役会議が朝イチからあるっていうのに、もー!!」


慌てて顔を拭いた。


「パパ! はい、ハンカチとていき!」


ひなたが走ってきて張り切ってそれらを手渡す。


「お~、サンキュ! ひなたも遅刻するなよ! んじゃ、いってきます!」


志藤は慌しく家を出た。


「ほんと、せわがやけますねえ、」


ひなたのつぶやきにゆうこはクスっと笑って彼女の頭を撫でた。






会社に着くと


もう会議は始まっていて。


志藤はコソ泥のように


そーっと入っていく。



すると、すかさず



「第1回目から遅刻とは・・いい度胸だな、」


社長にジロっと睨まれた。


「す、すみません・・」


もう顔も上げられない。


「浅草のほうは時差でもあるのか?」



その上


嫌味まで言われて。



ったく!!


普通に怒ればいいのに!


この人は


ほんと


ひねくれてるし!




遅刻をしたのは自分のせいなのだが


ついつい


グチりたくなってしまった。




ようやく会議は終わり、


「はあああ、」


志藤は何だか疲れてしまってため息をついた。



「志藤くん、ちょっと。」


総務部長に呼ばれた。


「あ、はい・・」


総務部に行くと


その


問題の女子社員はそこにいた。



う・・・



またも、志藤は彼女を見て後ずさりをしたくなった。



写真で見るより・・・


めっちゃ


美人やんっ!!


しかも


スタイルも抜群で・・


一瞬のうちに上から下まで彼女を凝視した。



「大阪支社から来た栗栖萌香くん。 今日から事業部の所属になるから。」


総務部長に言われて、萌香はスっと志藤の前に行き、



「・・栗栖です。 どうぞ、よろしくお願いします。」


美しい所作で、お辞儀をした。


「あ・・クラシック事業本部長の志藤です。 よろしく、」



つい


彼女のシャツの胸元に目がいってしまう。



彼女を事業部に連れて行く途中


「・・引越しなんかは済んだの?」


話しかけたりした。


「はい、」


萌香はつまらなそうにそう答えた。


「栗栖って変わった名前やな。 ウチの実家で飼ってる犬、クリスって言うねんで。」


とニッコリ笑うが、




「・・・」


ほぼ


シカト状態だった。



志藤は小さなため息をついた。





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