My sweet home~恋のカタチ。4 --Moonlight blue--

森野日菜

Alone

第1話 始まりの春(1)

あれも


桜の花が咲き始めるころ。


もう4年前。


それでも


彼女にとっては


それは何十年にも感じるほどの年月だっただろう。



志藤は萌香の笑顔を見ながら


ぼんやりとそんな風に思っていた。



☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚



「志藤、ちょっと。」


珍しく北都社長から声がかかった。


「はい。なんでしょう、」


「明日から来る・・大阪の企画課にいた女の子なんだけど。」


社長は資料を取り出した。


「ああ、はい。」


事業部も人手不足でなんとか人員を増やして欲しいと頼んでいたのだった。


彼女の履歴書を志藤に差し出す。


うっ・・


その彼女の写真を見て


志藤は固まった。



すっげー・・


美人!!


大阪にこんな子いたんかあ??




そこにものすごく食いついている彼を見透かしたように


「写真ばっかり見るな、」


北都は冷静にそう言った。


「み、見てません・・けど、」


「・・栗栖萌香。 入社3年目になる24歳。」


「入社3年目?」


女性が転勤してくること自体が珍しいのに、まだ入社3年目とは?


志藤は首をかしげた。


「大阪の外語大学を卒業して、入社試験もトップクラスの成績で採用された。 2年しかまだ仕事はしていないが、企画では中心的存在で、先輩を差し置いて主任格だったそーだ、」


北都はタバコに火をつけた。



ますます、わからん・・


なんでそんな子が


ウチに???




そのギモンも北都にはすぐ伝わったようで


「まあ・・いろいろ問題があってね、」


「問題・・?」


「大阪の専務取締役の畠山は・・知ってるよな?」


「え? 畠山専務ですか? え、ええ。 もちろん。 自分が大阪支社にいたころも一緒に仕事を、」



「畠山と『不倫』の関係だったそうだ、」


北都はため息とタバコの煙を同時に吐いた。


「不倫・・?」


志藤は驚いた。


「噂が広まってしまって。 畠山は奥さんと離婚調停に入ってる。」


「・・って・・彼女のが責任とって転勤ですかあ?」


志藤は腑に落ちないように言った。


「もちろん畠山を子会社に飛ばすって話もあったんだけど。 畠山も、彼女に騙された的なこと言って逃れようとしたりして。でも、この子がな、」


北都は萌香の写真を指差して、


「自分を転勤させてくれって。 上司に直訴したそうだ。」


「直訴、」


それにも驚いた。


「とにかく・・仕事のできる子だったらしくて。 企画部長も手放したくはなかったらしいけど。 風紀も乱れるし。 事業部の欠員の話を聞いて、彼女をどうかって。」



その説明は


もっともっと腑に落ちなかった。


「・・なんで、こんなしちめんどくさい子を・・」


恨めしそうに北都を見る。


「畠山も責任を取って取締役から外れることになる。  まあ、それでお茶を濁すって言われたらそれまでなんだが。 おまえは女の子を懐に入れるのは得意だろう?」


ニヤっと笑ってそう言われ、


「なっ・・」


志藤は悔しくて二の句が告げなかった。



ほんっと


この人は・・


おれが、社長のお気に入りの秘書だったゆうこと勝手にできちゃった結婚をしたことを


いまだに恨んでいるんじゃないかってくらい。


おれには嫌味ばっかだし!



疲れたようにはあっとため息をついた。



不倫で飛ばされてきた女かよ。



先が思いやられた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る