第45話 ミコの神社

 そして土曜日。

 ミコはここの国包神社のご神体が本物か(神様がいるのか)知りたがった、本殿に入り仏壇じゃなかった大層賑々にぎにぎしい拝殿の真ん中あたりに両掌にすっぽり入ってしまいそうな小ぶりのキンキラキンの神像が祀られている。

 私は手を合わせるがミコがすぐに腕を引っ張る。


「そんなものに手を合わせても何のご利益もないから」

「でもご本尊でしょ?」

「まあこっちに来て」


 祭壇の裏に回り真後ろの木戸を開ける。

 中に入って戸を閉めてからミコは言った。

「あの像は私が作ったものよ小学三年の時の夏休みの工作で、後から金メッキしただけのものよ、本物はこっち」


 古そうな木の台の上にさっきと同じくらいの大きさの木の像が木枠の中に置かれていた、ただこっちは木目がなんとか分かるような白っぽい木肌のまま、正直言って貧祖だ。

「これを真似て私が粘土で作ったの、金賞貰って市の何とか賞貰って地方紙に紹介されて、それで少し名前を知られたのがきっかけでYouyubeに舞が投稿されてね一躍大ヒット、国包神社再建の始まりがあの像ってわけ、ただし本物はこっちよ」


 彼女の手つきからこの像が大切に扱われているのがよく分かる。

御食津神みけつのかみ様の木像なんだけど本物か偽物か分からないのよ、ただね私は知りたいの百年に一度でもいいからこの像に本物の神様が宿ってくれるのか、その痕跡が残っているのか、善繍なら分かるんじゃないかなって」

「んーどうかな、手に取ってみないと何とも言えない」


 ミコは棚から神像を大切そうに両手で包み私に渡してくれた。


 手を触れた瞬間に体の中にズーーーンと何かが入ってきた。

 体がどうなっているか分からない言葉だけの世界。


「おやこれは珍しい本物の巫女ではないか」

「えっと私の事ですか」

「私が話せるのはここには君しかいないよ」

「えっと私はただのお寺の子供なんですけど」

「生まれとか姿は関係ないのだよ私と話すことが出来るそれが巫女と言うものなのだ、まあここのミコ君は言葉が通じないけれどよくやってくれている、本気で私が居ることが分かってもらえたら言葉が通じると思うのだが」

「それならお任せください、神様に会ってきたと伝えれば信じてくれます、ミコは興津姫おきつひめにも出会っていますから」

「なんと興津姫に出会っていたのか、どうして我が見えないのだろう」

「私が連れて行きました私が居ないと通れない場所なので」

「そうか君はやはり本物の巫女なのだな」

「本物っていうか私は神様にも仏さまにも助けられてここに居られるんです、そうじゃなかったら両親の手によって地獄に落とされて戻ってくることはできませんでした」


 神様の前だからか躊躇ためらわずに昔の事を話せた。

「なんと親が地獄に落としたというのか」

 神様はしばらく黙っていた、私の記憶を手繰っていたのだろう。


「なるほどな君を助けなければこの世に神も仏もいないと同じだ、助けないわけにいかなかったのだろう、と言っても間に合わないことがよく有るのだ神も万能ではないからな」

「人の子が増えすぎたせいですね、日本は神様や仏さまが多いので他の国に比べたらずっとましだって興津姫も言ってました、それでも忙しくてめったに会えませんけど」

「興津姫様なら全国に何万と末社が有るだろうから出会えるだけで奇跡じゃぞ、余程お前の事が気になっているのだ」

「私の親と同じくらい過保護です、お守りグッズいくつもいただきました」

「なるほどな我もミコと話せたらそうなってしまいそうじゃな」

「それじゃあミコを引っ張って来ましょうか」

「そんなに簡単に出来るのか?」

「たぶん出来るはずです拒むものは何もないでしょうから」

「ではやってみてくれどれくらい待てばいいのだ?」

「んーと連れて来られるなら今すぐ、出来なかったら連れて来られないって事になります、とにかく引っ張って来ますそれだけです」


「善繍善繍どうしたの」

ミコが私を抱えて私の体をゆすっていた。


「あっミコ御食津神みけつのかみ様本物だよ、今会ってきた」

「えーなんで一瞬だったけど」

「うんミコに会いたいって直ぐに試してみよう」

「えっ本物ほんとに!でも会えるの」

「任せて神様が望んでいるから多分大丈夫」

「う、うんどうすればいいの」

「残った体が倒れちゃうから寝転がった方が良いけど」

「狭いね、よし善繍私の体の上に乗って私が下に寝転ぶから」


 そう言って仰向けになると両腕を広げ嬉しそうに、

「おいで」

「えっ重いよ、それに二人で神様持たないと」

「そっかじゃあ」


体を横にして隙間を開けて、

「これで入れるでしょ」

「入れるかな、ちょっと神様持てる?」

「うん貸して」


50センチほどの隙間に二人ピッタリくっ付いて横になる。

「神様は二人の上に載せて、善繍触れる?」


 神像はお腹の辺り巫女の手の上に私の手を乗せた。

「あー夢が二つも叶っちゃうかも」

「二つ?」

「んーまあ気にしないで、神様待たせる訳にいかないでしょ」

「じゃあ御食津神みけつのかみ様はここにおわします、そう念じて」

「うん御食津神みけつのかみさまはここにいらっしゃいます」

「行くよ」


「おおよく来た会いたかったぞミコよ」

御食津神みけつのかみさま・・・ここは?」

「我の住処みたいなものじゃよくぞ来てくれた、善繍よ大したものじゃな」

「善繍は私のお師匠様なんです、御食津神みけつのかみ様に会える日が来るなんて信じて待った甲斐がありましたお師匠様ありがとうございます」

「お師匠様なんて言わないで私は善繍以外の何者でもないの」

「ミコ良い師匠に出会えたな、全く持って神の使いだ」

「はい私がこうやって生きているのも善繍のおかげなんです、私にとっては神様と同じくらい大切な人です」

「分かっておるミコが話してくれた事はすべて届いておる、我の声が届かぬのが歯がゆくて仕方がなかった」

「私の声は届いていたのですか、信じてよかった」

「これで道は繋がったいつでも我の声が届くはずだ、姿も頭に浮かぶはずだ」



「ありがとう・・・あれえっ」

「戻ってきたね」

「どうしてもっと話したかったのにどうして?」

「自分で話してみて、それを確かめたかったんじゃないの神様が」

「あつそうかいつでも声が聞こえるって言ってたねやってみる」



ミコはしばらく神像に手を合わせていた。

「えー留守電になってるなんなのよ」

「声は聞こえたんでしょ成功よ、神様って忙しいから仕方ないのよ」

「そんなあやっと話せると思ったのに」

「今度話せた時にゆっくり話せる時間を聞いておきなさいよ、たぶん夜は時間あると思う」

「どうして分かるの?」

「だって昼間は参拝に来る人がいるでしょ、無視するわけにいかないのよ」(たぶんだけど)

「なるほどじゃあまた夜に話してみる、それじゃあさっきの続き」

「さっきの続きって?」

「へへー善繍大好き」


がばっと私を抱きしめた。

「あっちょっと何どうしたの」

「あのさあさっきくっ付いたでしょ私もうとろけそうだったの善繍大好きってそれ以外考えられなかった」

「ばかねえ神様御見通しよ、それが原因」

「えっバレバレだったのあちゃあ、、、後で謝っておくわ」

「今謝っておきなさい」

「はっはい直ぐに」

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影の仕事はカフェの店長見習い?人生経験六年未満女子 一葉(いちよう) @Ichi-you

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