第44話 璃子と一緒に

 私の町の隣の市はここよりずっと都会っぽい、らしい。

 わたしはその市の病院で6年間入院していた、退院前の2週間以外眠ったままで。


 だから実感としては初めて行く場所。

 何をしに行くかと言えば学校の皆と遠足の様な感じで歩いて行って目的地はなんとデパート、私が「行った事ない」と言ったらみんな呆れて「じゃあ歩いて行こう」「ピクニックね」「璃子ちゃんの私服姿拝みたい」なんて変な意見も結構あった。


 璃子ちゃんとはこのグループの実質カリスマリーダー、名前の通り実家が神社で潰れかけていた神社をネットで超有名にして建て直しただけでなく、この一帯では初詣は国包くにかね神社と大勢の人が詰めかける大人気神社となっている。


 皆で何かをするなんて学校行事以外でやった事が無い私だけどこのミコちゃんが私を積極的に誘い入れてくれた、というか強引に抱き付いてうんと言うまで離してくれなかった、まあタヌキとキツネの変顔マスコットとして可愛がってくれているのだろう。


 と話が決まりかけているけど果たして歩けるのか、最近やっと人並みに歩けるようになったけれど、家から学校の一キロちょっとそれ以上歩いた事が無い。

(神様の山を沢山歩いたけれどあれは自分の足で歩いたのか良く分からない)


「ねえ璃子(ちゃんを付けたら怒られる)私家から学校以上歩いた事がないから歩けるか分からないんだけど」

「あっそうだった、じゃあすぐじゃなくて鍛えてからにしよう来月辺りね、で善繡ぜんしゅうは私と週二回特訓よ、少しずつ距離を伸ばして行くからね」


 とは言っても彼女は人気巫女で毎日のように巫女衣装に身を包み社務所でお神籤を売ったりしている、そして私は神様の来る人が入れない場所の喫茶店で店長見習い特訓中だ。


「そうね土曜の朝と水曜日は帰りにうちの神社を回って帰る、結構距離が有るから私が送って行くよ」

「それ璃子すごい距離なんじゃない」

「カリスマ巫女を甘く見ないで毎日5キロ以上走ったり歩いたりしているから10キロくらい何てことない(ささやき声に変えて)善繡を守らないとあの神様に殺されかねないわ」


 すっかり記憶を消された筈なのに興津姫おきつひめの事を覚えていた。


 何時もの様に帰りに神様の喫茶店葛の葉で修行、と言ってもお客さんは妖怪さんの二人連れのみ、サイフォンコーヒーの淹れ方は合格点を貰えたので今はお客さんとの会話がスムーズにできるようになる事が課題。


 帰りに狐横丁を出ると璃子が待っていた。

「おつかれー」

「疲れるほど働いてない、璃子わざわざ出てきたの」

「買い物が有ったから丁度善繍が帰る頃だったし」

 そう言うといつものようにがっしりと手を繋ぐ。


「ヘヘッ」

 照れたようにとてもかわいい顔で笑う、私とは比べようもない。

「何かあったの?」

「有ったと言えばある無かったと言えば無い」

 つないだ手を見つめている。


 この子は少し前妖怪退治を手伝ってくれてその時死にそうな目にあって私の事を命の恩人と思ってくれている、私としては巻き込んでしまって守ってあげられなかった事に引け目を感じているのだけど。

 それから妙に甘えてくるのだ、この出来損ないの私に。


 当然の様に私の家に向かって私の手を引いて歩き出す、自分の家は真反対なのに。


璃子興津姫おきつひめの事覚えてたの、あの場所から出たら忘れるはずなのに」

「そう忘れてた、でも毎日のように夢に出てきて男の子を紹介したがるの、神様とか妖怪の、私が人間なの忘れてるんじゃないの」

「夢に、、、そこまで絡んでくるの」

「訳わかんない、きっと私が善繍に近づくのを妨害してるのよ、嫉妬まるわかり」

「嫉妬?神様が?」

「あの神様善繍めっちゃお気に入りみたいよ、神の国へ連れていかれないか心配、それで・・・」

「それで来てくれたのかありがとう、最近見てないけどね」

「来れないから余計になのかも、中女子の気持ちくらい分かってよって感じ」

「あー女の子同士仲良くするもんね」

「でも私はずっと仲良くするからね家庭に入っても、そもそも私なんて結婚できるかな」

「何言ってるのそんなこと言ったら私なんて絶対無理よ」

「いいひといるじゃない」

「えっ高坂君の事、絶対ヤダ」

「えらい嫌われようねかわいそうに」

 私が頬を膨らませていると。


 さらに手に力を入れて、

「私さあほんとにずっと善繍と一緒にいたいの、例えばお寺と神社で何かできないかなって考えてる」

「お寺と神社で?」

「昔はお寺も神社も区切りは無かったのよ、いつかの大名だか知らないけどお寺と神社を分けちゃったのだから今の時代なら元の様に戻せるんじゃないかなって思うの」

「でもさあお寺ってほとんどお弔い事でしょ、神社って割とお祝い事じゃないの」

「だからよ、生まれてから死ぬまでずっとお力になれます、って感じ」

「そうね、そうだ一度神社に行くってまだ行ってなかった、そこから始めなきゃ」

「そう言う事ね」


 璃子はよく家へ来るのでお母さんとも顔馴染み、ご飯を食べて帰ることもある。

「じゃあいつ行ったらいい?」

「今度の土曜は?」

「何かあるの?」

「何もない、有ったら忙しくて話もできないから」

「ああ売れっ子だもんね、私3時ごろから葛の葉に行くけどいい」

「土曜日まで仕事してるの!休んじゃえば」

「何言ってるの璃子だって休みなしで働いているんでしょ」

「水曜日は神社がお休み、それとーととと、土曜はやすませてー、、、」

「もらえないんだ」

「って言うか私目当ての参拝客が来るから一日一度は窓口に出ないとね、遠いところから来てくれる人もいるから無下にできないの」

「じゃあ3時までにしよ、これでも私店長見習いだから」

「お店継ぐって事?」

「うん篠田さんはほんとは狐のお社の神様だから、そのお社が再建されたらそこに戻らないと神様の仕事ができないでしょ」

「そうなの、あっそれってうちの商売敵がたきじゃない」

「路地のお社まで商売敵にするつもり、神様を粗末にしたらどうなる?」

「うわーまたまた災難が、分かりました善繍の親方様なので大切に致しますははー」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る